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第10話

京の町中- 夜


総司は、巡察中に襲ってきた討幕派の浪人団の一人を追いかけていた。

が、曲がり角で見失った。


総司「…逃げられたか…」


総司は、斬られた左腕を押さえた。さほど深く斬られたつもりはないのに、血が噴き出してくる。


総司「…右腕じゃなくてよかった…」


総司はそう呟いて、その場でしゃがみ、手ぬぐいで腕をしばった。その時、すぐ後ろで小さな悲鳴が聞こえた。

驚いて振り返ると、若い女性が口を両手で押さえて立っている。

その横には、ちょうちんを持った老人が、こちらを伺っていた。


老人「…新選組の旦那どすな…。怪我しはりましたんか?」

総司「はい…ですが、心配には及びません。」


総司はそう言って立ち上がり、2人に頭を下げた。


総司「驚かせて申し訳ありませんでした。…まだ残党が逃げ回っています。…気をつけてください。」

老人「へえ…おおきに。」


老人はそう言って、女性を促して立ち去ろうとしたが、女性は心配そうに総司の腕ににじんでいる血を見ている。


女性「ほんまに大丈夫どすか?…せめて傷の手当でもしはった方が。よかったらうちへ寄っておくれやす。」

総司「いえ…私がいけば、あなたの家が誤解を受けるかも知れない。」

女性「…誤解?」

総司「…新選組とつながりがあると思われては迷惑でしょう。」


総司のその言葉に、女性は眼を見開いて総司を見た。老人は「おやおや」と言って笑った。


老人「そんなことまで、心配しはることはありまへん。…お嬢様がそうおっしゃるなら、うちで傷の手当をしましょう。」


老人はそう言って、ついてくるように総司に目配せをした。総司は「いや…」と断ろうとしたが、二人はもう歩き出している。

総司はこのまま立ち去るのも失礼な気がして、そのまま二人についていった。



女性の家--


家につくと、老人はすぐに家の主人に総司のことを伝えに行った。

その間、総司は外の井戸で傷の血を水で流していた。傍には女性がちょうちんを持って灯りをくれている。


総司「あなたの着物が汚れます。離れてください。」


そういうが、女性は首を振って必死に灯りを近づけてくれていた。


その時、家の主人があわてた風に現れた。

総司は娘と男である自分が二人きりでいることに心配して来たのだと思い、手ぬぐいで傷を押さえると、背を伸ばしてから主人に頭を下げた。


総司「このような時間に、誠に申し訳ありません。…傷を洗い終えたらすぐに帰りますので。」


総司がそう言うと、家の主人は「いやいや」と両手を総司の前で振った。


主人「新選組の方が怪我されてますのに、そのまま帰すわけには参りまへん。ちゃんと薬もあります。消毒してくださいまし。」


総司はその主人の言葉に面食らって、しばし立ちすくんだ。


主人「あや…この方を客間へ。薬を用意させてるから。」


綾と呼ばれた女性は「はい」と頭を下げて、総司の足元を照らすようにちょうちんを近づけた。


綾「さぁ…どうぞ。こちらどす。」


総司は恐縮しながら、綾について歩いた。

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