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無貌の英雄~魔法も剣技も極めた俺は最強すぎてスローライフが送れません(泣)~  作者: シクラメン


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第28話 最強の戦い

 先に地面を蹴ったのはロイだった。目にも止まらぬ一撃。1振りで亜光速にも達するそれをカインは自らの剣で受けた。その瞬間、彼の身体が掻き消える。瞬きするほどの時間が経った後、フィニスの村から見ることの出来る山の1つが爆発した。


 違う。爆発したのではない。


 カインの身体が山に激突したのだ。


「チッ、面倒なことを」


 カインは身体を起こすと、20km離れたフィニスの村を見下ろした。だがそこにロイの姿は無く。


「……ッ!!!」


 慌てて掲げた剣がカインの命を守った。彼我の距離は20km。それを刹那で詰めたロイが振り下ろした一撃を、カインはなんとか地面に衝撃を受け流す。


ヒュバッッッツツツツツツツツ!!!!

 

 多量の土砂が噴火のごとき速度で上空にうちあげられた。土煙と土砂が止んだ後に残ったのは大きなクレーター。その中心でカインは身体を起こすと、反撃に回る。空中に浮かんだままのロイに向かって剣を投擲。


 空気を断絶して飛んだ剣の速度は音速など比べるべくもない速さ。だが、それを見てから回避したロイの足をカインが掴んだ。そして、そのまま地面に振り降ろす。空中に身体を固定していたはずのロイは、しかし地面へと一直線に落ちていくと2つ目のクレーターを作って停止。


「死ね」


 そこにカインが生み出した無数の槍が空を埋める。そして、一斉射。ズドドドドドドドッ!!! と、世界が終わるのではないかと錯覚するほどの轟音でもってロイの直上から無数の槍が地面に向かって放たれる。


 ギィイイイイイン! 刹那、その中から金属を裂いたような異音を響かせて、槍の雨が断ち切られた。


「弱ェ!」


 飛び出してきたロイはそのままカインと空中で1撃、2撃。斬り結んだ。1撃がぶつかり合うごとに発生した衝撃波で周囲の木々は根こそぎなぎ倒されていく。そして、3撃目。その打ち合いによって、カインの身体が大きく吹き飛ばされた。




「どう、なってるの……?」


 村の真ん中に設置された巨大なディスプレイ。そこにはロイとカインの戦いの様子が、村にいる者たちにも分かりやすいようにと中継されていた。それはロイがサラに指示したこと。どちらが勝ったか分かりやすいようにということで、設置されたものだった。


 それを見ているのは村人たちだけではない。


 騎士たちも、拘束されたまま黙ってその戦いを見ていた。しかし、一体何人がその戦いを眼で追えているのだろう。瞬きするたびに地形が変わっていくこの戦いで何が起きているのか、誰も分かっていないのではないのだろうか。


「ラケルぇ、どっちが勝ってるの……?」


 ぽつり、と先ほどまで拘束されていた子供の1人がそう聞いた。分かるはずがない。狩人として長年戦ってきたラケルですらも何が起きているのか分からないのだから。


 だが、彼女は、


「ロイよ」

「……本当に?」

「本当に」


 自信を持って、そう言った。負けるはずがない。負けるはずがない。

 『勇者』が負けるはずがない。


「……勝って、ロイ」


 ぽつりと呟いたそれを、気にとめる者はいなかった。




「追いかけっこかァ!? カイン!!」


 フィニスの村から300km南下した地点でロイは森の中を疾走しながらそう叫んだ。それより前方25km地点をカインは全速力で、ロイから逃げようと走っていた。だがこの2人にとって20kmなど合ってないようなもの。1歩踏み出すだけで簡単にその距離を詰めてしまう。


「『断ち切れ』」

「……ッ!?」


 カインを追いかけていたロイは、とっさにブレーキ。反対方向に跳躍した。その瞬間、ロイが立っていた場所に斬撃が降り注ぐと真横に()()()


 長さ30km、幅500m、深さ80mの巨大な谷がカインの斬撃によって生み出されたのだ。


「やるじゃねえか、カイン!」


 彼は空中に身を浮かべたまま、無表情で2撃目を放つ。しかし、ロイはそれを回避。()()が地面に直撃した瞬間、新しい谷が生成される。しかし、ロイはすでにそこにはいない。


 剣を捨て、彼が広げた手の平。その指先には5つの火球が生成されている。


「『熱線ソル・ルギンス』」


 ぱぁっ、と世界が明るく染まった。ロイの手元から生みだされた熱線はカインの右足を焼くとそのまま空を貫く。曇天だった空の水分全てを吹き飛ばすと、青空が2人を見下ろした。


 カインはそのまま歯を食いしばって3撃目を放とうとした瞬間、目の前に広がった光景を疑った。


「なっ!?」


 そこにあるのは1()7()2()0()0()()


「さぁ、楽しもうぜ。カイン」


 勇者が笑うと同時に、炎同士が結びついて熱線が放たれた。輻射熱で身体が蒸発してしまいそうになる中、カインは背後に広がる巨大な海に飛び込んだ。深く、深く潜っていく。


「逃がすと思うか?」


 ロイは水平線のその向こうまで見渡すと、熱線を横に薙いだ。2億にも達さんとする膨大な火球は煌めきを増すと、海に直撃。そして、世界が白く染まった。だが、彼はそれでも止まらない。発生した湯気そのものを、熱線がかき消すとそこにあった膨大な水は無く。


 が露出していた。


 さらにその大陸棚ですらも、ロイの放った熱線によってぐつぐつと沸騰し、溶解し、地獄の様を繰り広げていた。その中に、両足を焼きながら立つ男が一人。まっすぐロイを見上げて、剣を構えた。


「『奥義』」


 カインはそのまま、剣を振るう。


 ロイはその瞬間、地面を蹴って加速。土がえぐれ、地面が陥没するほどの強力な踏み込み。光の速さにすら手をのばすその加速は、しかしカインの振りの方が何よりも速い。


「“万象断つは我にあり(グラディオ・デウス)”」


 ガチリ、と音がした。


 ロイは加速のために次の足を踏み出そうとしたが、身体が言うことを利かないことに気が付いた。それどころか、勝手に足が逆方向に動いている。……違う。足が動いているのではない。身体が勝手に後ろに下がっているのだ。


 身体だけではない。先ほどロイが蹴り飛ばした地面も同じように巻き戻っていく。衝撃波も、熱も、大気も、全てが撒き戻っていく。だが、意識はそのまま残っている。だから、それを見ている者にはまるで時間が撒き戻っているように感じるだろう。


 だが時間は確かに進んでいる。


 カインの視界に入った全てのものが数秒間だけ巻き戻っていく。それもそうだ。カインの奥義は魔剣の1つ。ある瞬間のを脳内に保存し、世界を斬る。そして、それを世界にすることによって斬ったという結果を生み出す。


 いかなる防御も、回避も通じない。


 これが王国最強の誇る、最後の1撃。ロイは一切の抵抗を許されることなく、首を真横に断たれた。だが、カインの一撃はそれだけにとどまらない。山も、大気も、大地も、森も、そして天にある星すらも断ち切って、息を吐いた。


「終わりだ」


 ロイの首が宙に舞った。



「そんなッ!」


 村人たちは一斉に悲鳴をあげた。終始何が起きているのかなど理解することは叶わなかったが、カインの1撃は皆が見ていた。そして、ロイの首が飛んだことも。


「まだよ!」


 ラケルは叫ぶ。


「ロイが死ぬはずがない!!」


 それは、騎士たちの目にどう映っただろか。敗北を認められない哀れな小娘だろうか。それとも、ついに狂った実験動物だろうか。


 だが、ラケルは誰よりも確信を持ってそう言っていた。そうだ。首が飛んだ如きでロイが死ぬはずがない。その程度で死ぬはずがない。だって、ほらカインも剣を納めていないでは無いか。


「ロイ! お願い!!!!」





「……ままならねえなァ、お互い」


 カインは剣を構えたままロイの首を見た。


「……そうだな」


 彼も知っている。『勇者』は決して倒れないことを。


 見れば、首から真下に赤い液体が繋がって環を作っていた。最も簡易的な魔法である、存在しているものに動きを与えるソレ。首が断たれても、脳に酸素が渡る限り人間の脳は生き続ける。


 ならば、血液中に含まれる赤血球に酸素を渡してやればいい。肺が行っている動作を魔法で行ってしまえば、脳は死なない。脳が死なないのであれば、彼は死なない。


「なぁ、カイン。お前が俺を殺した時どんな気持ちだったんだ」

「……許されなくても良いと思っていた。家族と仲間、その両方を天秤にかけたんだ。俺は家族を取った。それだけの話だ」

「俺たちは強すぎたからな」

「ああ」


 強大な戦力を、まだ年端も行かない子供たちが持っていることを王国は『魔神』よりも恐れた。そのため、彼らをコントロールする必要があった。だから、王国は『勇者』の仲間たちの家族を人質にし、『勇者』の暗殺を謀った。


 勇者は強い。だが、どんな英雄にも隙はある。


 例えば、それは『魔神』を倒したその瞬間。その生まれた決定的な隙に攻撃されれば、いかに勇者でも耐えきれない。


「抜けよ、カイン」

「…………」

「まだあんだろ? お前の奥の手が」

「……ああ」


 カインはそう言って右手の籠手を外す。そこから覗くのは、真黒の腕。だが、その表面には無数の触手が生え、蠢いている。


「神具、か」

「ああ。『イ・ラルムガラトのかいな』だ」


 神具。


 それは“魔”なる神とは別の神々の聖遺物。死してなお、世界を冒涜する神々の肉体を人間に移植し、無理やりその権能を引き出す。


「2回戦と行くか」


 気が付けばロイは肉体を元通りに復元し、勇者の白衣装に包んでいた。

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