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無貌の英雄~魔法も剣技も極めた俺は最強すぎてスローライフが送れません(泣)~  作者: シクラメン


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第27話 最強の存在

「……どうしてここに」


 静寂を破ったのは、カインだった。彼は動揺を隠そうともせずロイに向かってそう問うた。


「ノアは……。貴様は、あの時――」

()()はずだってか?」

「……ッ!」


 カインが歯噛みする。


 偽物を疑った。ロイがノアを語っているのだと思った。

 だが、本当は。


「お前たちに俺が殺せるはずがねえだろ」

「じゃ、じゃあロイは! 本物のロイはどこに行った!!」

「死んだ。俺の代わりにな」


 ロイはそう言って、悲しそうにほほ笑んだ。。


「さて、随分好き放題やってくれたなぁ。カイン」


 ロイの視線がカインを貫く。気が付けば周りにいる騎士たちは謎の拘束魔法によって身体を無理やり縛り上げられていた。動けるのはロイとカイン。その両者のみ。


「お前の狙いは大体予想がついている」

「…………」

「イズが支える西方戦線は数年経っても戦況に大きな変化が見られない。そこで、イズが大規模破壊魔法を使えるように、純度の高い魔法触媒となる有角族アングルの角を取りに来た。お前が知らねえはずがねえよな。有角族アングルの角はその個体にストレスをかければかけるほど、魔力への変換効率が高まるって話を」

「……ああ。ダレンから聞いたからな」


 ひゅ、と後ろでラケルが息を飲んだ。まさかこの会話で自分の父親の名前が出てくるとは思いもしていなかったのだろう。それもそのはずだ。ペルトロとダレン。この2人が王国で行った実験は、闇に葬られて消え去るはずだったのだから。


「しかし、お前がわざわざやってくるとは。そんなにペルトロが怖かったのか?」

「……まさか。このまま北に上がってイズと合流するつもりだっただけだ」

「そうかい。じゃあ、これからどうするんだ?」

「どうする? 不思議なことを聞くな。有角族アングルの角はいただく」

「これ以上、非人道的な行為を繰り返すな。『聖騎士』の名が泣くぜ」

? 人でも無いのにか?」

「……カイン。お前」

「ダレン博士が作った、対『魔神』種族である『有角族アングル』が人間だと!? 笑わせるなよ、ノア!」

「ロイと呼べ」


 彼は辟易した顔でそう言った。


「この5年、死んだふりしていたから何を考えていたかと思えば随分と腑抜けたもんだなァ! この世界に魔物モンスターがいる限り、俺達の戦いは終わってない。終わらせるためにはどんな行為も許されるんだ。俺達、人族が生き残るためにはな」

「…………」

「大体、こいつらがこんな僻地で暮らしている理由を忘れたとは言わせないぞ。ノア」

「随分と、落ちたものだ」

「なに?」

「あの『聖騎士』様が随分と落ちたもんだなぁ。おい」

「好きに言えば良い。5年も遊び歩いた貴様には分からないだろう。人族の行く末を背負っている俺たちの苦痛なんてな」

「苦痛か、大きな言葉を使うようになったなカイン」

「…………」

「俺たちが共に旅をした2年間。ただ『魔神』を倒すためだけの集まりが、『勇者』パーティーだなんだと大きな名前を背負わされたが、俺達の本質は変わっていなかったはずだった。大切な人を守るために、『魔神』を倒す。それだけのはずだった」

「そうだ」

「守れたか、カイン。お前は」

「ああ。仲間を殺してでもな」


 その言葉にロイは笑った。


「大したもんだ。俺は守れなかったからよ」


 故郷に帰った彼を出迎えのは、『魔王』によって壊滅していた故郷だった。しかし、それは本当に『魔王』によって壊滅させられていたのだろうか。


「今も守れているか?」

「勿論、だから俺は『王国』の犬だ」

「立派だねえ」


 自分がいれば故郷を守れたと、幾度となく自分を責めた。自分を傷つけた。しかし、ある時気が付いた。故郷は自分を生み出したから壊されたのだ、と。


「お前は、どうなんだ。ノア」

「ははっ。聞くなよ」


 既に守るべきものはそこに無かった。仲間に裏切られた彼に残されたのは、敵であった『魔神』の娘。ただその1人だけだった。彼女のことを殺そうと思った。自分の全てを奪った敵の血が入っているというだけで、幼い彼女をぐちゃぐちゃにしてやりたかった。


「俺は『』だぜ? この世界に住む全ての人族が俺の大事な人さ」

「……ロイ」


 後ろに立っているラケルが彼の名前を呼ぶ。


「もう一度、聞こうか。カイン。お前はどうする?」

「二度、言わせるな。俺は『有角族アングル』の角をいただく」

「そうか」


 ノアは、そう頷いた。


「俺は、『勇者』だ」

「……………」

「だから、仲間が俺を殺そうとしても。魔神の娘を育てることにしても。俺の故郷を壊されても、ソイツが反省してるなら赦すさ。勇者ってのはそうじゃないといけねえ」

「…………」

「真なる『勇者』は正義のために。なあ、カイン。正義って何だろうな」

「……おしゃべりが長いな。やれ、ケイ」


 ロイがおどけたように語っていると、カインの背後からアキツの国の服に身を包んだ男が飛び出してきた。手には刀。服は和服。ギリギリまで腰を落として、態勢を低くした状態で抜刀。


 目にも止まらぬ音速の一撃を、しかしロイは見抜いて防いだ。


「……ッ!」


 ロイを狙った居合の一撃を、彼は踏みつけたのだ。


「人類のために、一部を切り捨てるのは正義だと思うか」


 ロイはケイを蹴り飛ばす。直線を描いて彼は、村を囲っていた土壁に直撃。身体が半ばまで埋まってしまった。


「笑わせるなよ。カイン」


 ロイは誰よりも真剣だった。


()()()()だろうがッ!!」

「何を言うのかと思えば、そんな戯言を。5年も遊び歩いた男の言葉なんぞが響くわけないだろう」


 カインはそういって剣を抜いた。


「退け」

「『勇者』はどかねえよ」


 後ろに守るべきものがある限り、彼は決して。


「そうか」

「やれ、サラッ!!」


 彼がそう叫んだ瞬間、ロイとカインの中心地点から紫色の球体が生まれると2人を飲み込んだ。次の瞬間、2人を襲ったのは奇妙な浮遊感。そして、どこまでも落ちていく気持ち悪さ。


「これは……っ!」

「『賢者』が生み出した。入るのは久しぶりか? カイン」

「はッ、笑わせるなよ」


 数秒経って、2人を囲っていた暗闇は晴れた。そこにあったのは、人工物が1つもないフィニスの村。人工物だけではない。その周りには人の気配という物がない。


「人を除いた世界の創造。俺達は()()()からな」


 それは、本物の世界を守るために『賢者』が思いついた最後の手段。


「……この魔法を使える者がイズ以外に居るはずがない」

「いるさ」

「馬鹿なッ! 世界を生み出す魔法だぞ!? 並みの人族で出来るはずが」

「人族じゃないなら?」

「何をッ……」


 カインはそこまで言って、ロイの隣にいつも立っていた紫の少女のことを思い出した。いつも彼を兄だと慕って居た少女のことを。


「き、貴様ッ! 『魔神』の娘に、教えたのかッ! この魔法を『魔神』の娘なんかにッ!!」

「『魔神』の娘なんかじゃないさ。俺の自慢の妹だ」


 ロイはそう言って、胸を張った。


「さぁ、やろうぜ。カイン。俺達は道を違えた。なら、こうなるのは必然だったんだ」

「…………ああ」


 カインは抜刀。右手で剣を構えた。ロイは空間を歪ませると、大気を形質変化させて剣を握る。


 “自称”最強と、“王国”最強は互いを見据える。


 そして、激突した。

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