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無貌の英雄~魔法も剣技も極めた俺は最強すぎてスローライフが送れません(泣)~  作者: シクラメン


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第24話 最強の仕事

 不可思議な視線は常に感じていた。『天蓋の森(ドーム・フォレスト)』に入る前からずっと、こちらを舐め回すような視線を。だからロイは、『屍の竜(ドラゴン・ゾンビ)』を視線の先に投げつけることによって不快な視線の主を呼び出そうとしたのだった。


 それが、これだ。


「団長! 来てたんですか!」

「ああ。ドラゴンの居場所を上空から確認してたら急に、『屍の竜(ドラゴン・ゾンビ)』が飛んできてね。驚いたよ」


 カインは笑ってそう言う。


 ……嘘だ。


 へらへらと笑っているが、それが嘘だとすぐに分かった。だが、どうしてそこまで見え透いた嘘をつくかは彼には分からなかった。


「ロイ、大丈夫?」

「ん? ああ、平気だ」


 ロイは心配そうな顔をしてこちらにやってきたラケルを軽くあしらうと、深く思考する。


 ……ずっと俺を見ていた。それは間違いない。だが何のために? 


 ちらり、とこちらを見てほほ笑んだカインと視線が合う。その目に浮かぶ色はうかがえず。


 ……いや、まさかな。

 まさか、俺が『勇者』の()を知っているかもと疑っているのか。


「帰るぞ」

「えー! この死体はどうするの!?」


 ラケルが指さしたのは『天蓋の森(ドーム・フォレスト)』にいくつも落ちて来ていた『屍の竜(ドラゴン・ゾンビ)』の骨だった。不死アンデッド魔物モンスターになってもなおその形を保った竜骨は貴重品である。


「それは騎士たちに任せればいい」


 カインは造作も無さげにそう言った。


「まァ、竜を動かすほどの深い呪いだ。解呪の専門家に任せた方が良いだろ」

「そ、そういうもんなの……?」

「何だ? 竜骨で一攫千金でも夢見てたか?」

「う、うーん。そういうわけじゃないんだけど」


 どうみても顔にはそうであると書いてある。


 太陽に晒したとは言え、かつては呪いの産物である。やはり手慣れている者が対応に当たるべきだろう。


 カインはすぐさま集合用の光信号を撃つと、しばらくして騎士たちがロイたちが立っている場所に集まり始めた。


「後処理を頼む」

「お任せください」


 それだけで騎士たちは呪われた竜骨に向かっていく。よく訓練された騎士だと思う。


「丁寧にあつかえよ」

「分かっていますよー!」


 カインの忠告を軽く返して、騎士たちは慎重に解呪を始めた。


「ねえ、ロイっち。竜骨って何に使うの?」

「急にどうした?」

「いや、気になっちゃって」

「使い道は色々あるぞ。例えば骨を削って武器に使ったり防具に使ったり。あとは魔法触媒としても一流だな」

「魔法触媒?」

「ああ。魔法使いが持ってるだけで魔法の威力が上がるモンだよ。ほら、『賢者』が杖持ってるだろ? ああいうの」

「な、なるほど」

「他には工房の下地に使ったり、特殊なポーションの材料になったり……。竜に捨てる場所は無いと言われるくらいには有効活用されているぞ」


 竜は人を多く殺した。もしかしたら、『魔神戦役』で一番殺した魔物モンスターかも知れない。だが、人間もただではやられなかった。その堅牢な鱗を剥がし、骨をまとい、血を飲み干して自分たちの力にした。


「……人族って凄いね」

「まあな」


 ロイは、あの場所で小細工をする必要が無かった。ただ全力で向かい合えばよかった。しかし、その他大勢の人族はそうではなかった。勝つために工夫し、趣向を凝らした。あの場所では『魔神』に勝つという名目の下、いかなる行為も許された。


「んじゃ、カイン。俺たちにも骨を分けてくれよ」

「ああ、ほとんど倒したのはロイだから5割を提供しよう」

「なんでだよ。7割だ」

「解呪に労力がかかる」

「じゃあ6割」

「5割5分」

「んだよ。ケチ臭いな。じゃあそれでいいよ」


 5人は森を抜けると、途中で道を違えた。3人はフィニスの村へと戻り、カインとエルスはキャンプ地へ戻っていく。


「……こんなに早く終わるなんて思ってなかったわ」

「ドラゴンか? 見つかればこんなもんだよ」

「納得いかないわよ。だって竜は伝説なのよ!? この村だって『戦役』中、どれだけ焼かれそうになったか」

「んなこと言われても俺も伝説だし」

「…………微妙に返しづらいツッコミ辞めてよ」


 太陽が西の彼方に沈みゆく最中、ロイ達が村に入ると血相を抱えた狩人たちがこちらにやってきた。


「どうしたの? アン姉さん」


 アイリが走ってやってきた狩人の背中をさすってやる。息も絶え絶えで、汗も滝のように滴っている。


「こ、子供たちがいないの」


 ロイは手元に水を生み出すと、目の前の女性に飲ませた。魔法の水を見るのも飲むのも初めてだった彼女は、飲み方に手間取っていたがコツを掴むと一気に飲み干す。


「村の子供たちが居なくなったのッ!!」

「ど、どういうこと!?」

「分かんないよ! 急に子供たちが居なくなったんだって!!」

「森に入ったんじゃないの?」

「あの子たちが森に入ったことなんてあった!?」

「…………ない」


 ラケルは過去を思い出してそう言った。子供たちにとって森は恐怖の対象だ。誰も彼も好んで入ろうとするような者はいない。特にこの村の子供たちは素直に育ってきている。今更に及んで親の言うことを無視するということは考えられなかった。


「お、おいおい。サラは無事なのか?」

「残ってるのはサラちゃんだけなの! 他の子供たちがいなくなっちゃんだから!」

「分かった。落ち着け。状況を詳しく教えてくれ」

「あ、朝。みんながいつものように働きに出たの。その時、子供たちの姿はまだあったわ。サラちゃんはいつもの場所で魔法を教えてた。騎士団の人もいたと思う」

「それで」

「昼休みになって、親たちが一度家に帰った。その時も子供たちはまだいたの。問題はその後、午後の仕事に出て戻ってきたら子供たちが居なくなってたのよ!」


 それを聞いてロイはしばらく黙り込んだ。


「アンタ達もあの子たちを探して!!」


 子供たちはロイに良くなついてくれていたように思える。それは彼が珍しい旅人だったからかも知れないし、それとも男だったかも知れない。だが、それらを抜きにしてもロイは慕われていた。


 だから、ロイは手元に魔力を集めた。


「森の中にはいないんだよな?」

「そ、そのはずよ」


 それを放った。ズドンッ!! と地震が起きた時のような衝撃とともに、ロイの魔力が周囲に飛び散った。それは障害物を受けて反射されると返ってきた魔力をロイが知覚する。


 半径は10km。到底人間に出来る芸当ではない。何をしているのかが分かるラケルとアイリは沈黙。ただ、ロイの回答を待つだけだ。


「……居ないぞ」


 だが、ロイは


「どこにもいない」


 そう言った。

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