第17話 最強の開拓
「というわけでー、今から開拓したいと思いまーす!」
「「おおー」」
小さな歓声があがる。
「反応が薄いよ!!」
ロイのつっこみにラケルが死んだような顔をして返す。
「だって4人しかいないじゃん」
「4人もいれば十分なの!」
「どうやって開拓するの? オークを倒した時みたいな魔法でも使うの?」
「良い質問だね、アイリ君」
「ありがとうございまーす」
「まずは邪魔な木を伐採する! けど、大規模な魔法を使うと色々と面倒なことになるから自分の手で引っこ抜く!」
「手で木を抜く……?」
ロイならやりかねない。いや、けれど本当に素手で抜くんだろうか……。
そんな瞳でロイを見つめる2人の少女。
「まあ、このロイ君にお任せよ」
そう言ってロイは近くにあった木の幹を片手で掴むと、ミシリぃ……と異音を上げながら根っこごと引き抜いた。
「……えぇ」
驚くというより、ドン引き。
人はあり得ない現実に出会った時、驚きというキャパシティに収まらないのだとラケルはぼんやり考えた。
「ということでどんどん木を引き抜いていく。抜いた木は柵にするからとっておく」
「なるほど」
何がなるほどなのだろうか。2人は目の前の衝撃で上手く回らない頭でそう思った。ロイは両手でズバズバと木を抜いていく。じっと見ているとなんだか大根などの根菜を抜いているように見えなくもない。
見えなくもないが、根菜だってこの速度で抜けない。
「ロイっちってさー」
「うん」
ロイがずんずん木を抜いている姿を見ながらアイリがぽつり口を開いた。
「なんであんなに強いんだろうね」
「さぁ……」
5分とかからず木を引っこ抜くと、先ほどまで森の一部だった土地が今やその面影もなく4人の前に鎮座する。根っこを地中から引き抜いているので地面はぼこぼこだ。けれどここを農地にするのであれば、耕すので関係ない。むしろ根っこがない分、楽に耕せるだろう。
それを知ってか知らずか、抜いた木々を積み重ねていたロイがアイリとラケルに向かって手招きしているので2人は顔を見合わせると、ロイのもとに向かった。
「さて、魔法の授業だ」
「い、今からですか!?」
「ライネとメルが居ないんですけど……」
「あの2人は後でまた教えるから。じゃ、木を持ち上げて」
そういってロイは先ほど引き抜いた常緑樹を1本そのまま持ち上げた。
「……無理です」
「じゃあ、置いててもいいから両手で木に触って」
「「はーい」」
アイリが1番上にあった木に、ラケルが2番目にあった木にそれぞれ両手を付ける。木特有のがさがさとした質感が、どこか懐かしく感じられた。
「じゃあ、この木に魔力を流す」
「爆発します?」
「する。だから『ファイア』を使う時くらいの小さい魔力を全体に流すんだ」
爆発すると聞いて2人はやっぱりと言った具合に苦笑。だんだんと彼女たちも魔法使いに向かって進んでいるようで何よりだ。
「全体に満遍なく行きわたるようにするんだ。木の中全部を魔力で満たす感じで」
「こ、こんな感じかしら」
「1本全体に魔力がいきわたったら、杭のイメージ!」
その瞬間、うにょん! と木が変形。先ほどまであった樹皮が無くなり、枝がなくなり、葉がなくなり、根が無くなって1本の杭が出来上がった。それは確かに村を囲う柵の1部分。2人はそれを初めて見て驚愕。
「これは物の形質変化。魔術の第2段階だ」
第1段階が魔力そのものの形質変化。あるいは、存在している物に指向性を与えるだけの簡素な魔術であれば、第2段階の魔術はさらにその一歩上。この世に存在している物体自体を変化させてしまう。
「すっごーい!! 私もやって見る!!!」
そういってアイリは両手に集中。ロイの生み出した杭を見ながら力を込めて、
「えいっ!!」
その瞬間、ロイが地面を蹴って3人を確保。上方向に飛び上がると同時に、木の幹が内側から肥大化。同時に爆発。炸裂弾のように周囲の木々に破片が突き刺さる。
「……ごめんなさい」
「木の中の魔力にムラがあった。もっと均一にしないと爆発するぞ」
「もう一回やる!」
ロイが着地すると、すばやく彼の手から抜けていき新しい木に両手で触れるアイリ。それに負けずとラケルも頑張る。ロイは2人の魔力量を確かめながら爆発するまでじっとその場で待機する。
間違っても爆発しそうだからと2人の手を止めることはしない。魔法は反復練習が一番だからだ。実際に触り、体感し、そして掴むことこそが上達への道である。
しかし、しばらくすると2人ともコツを掴んだのか巨大な木の杭をどんどん量産し始めた。
「凄い……。これなら矢が無くなっても狩りが出来る」
「あー、それは2.5段階目だな」
「2.5?」
「そう。矢って別に木だけで出来てないだろ? 鳥の羽とか、鉄で出来てる。物そのものの形は変えられても物体そのものを変える魔術は2.5段階。ま、もう少ししたら教えてやんよ」
「本当!?」
「とりあえず、ここにある木を全部杭に出来たらかな」
と、ロイが2人を煽ると競うようにして杭づくりに戻った。さて、2人の魔術が安定してきたということですることが無くなったロイは数mはある杭を片手で掴んで村の近くに持って行くと地面に深く突き刺した。
ズン、と音が響いて地中深くまで杭が刺さる。
左手に持っていた2本目を隣り合うようにして突きさすと、柵のでっぱりだけが出来上がるではないか!
あとはこれを繰り返して、村から柵のでっぱりを作ると中の柵を引き抜いて村の拡張は終了である。しかし、本来それは大人数人がかりで行う作業だ。それは力に優れる有角人であろうと関係ない。
杭の重さは数百キロにもなるからである。
しかし、ロイはそんなことを気にさせないほどに軽々杭を持ち上げては地面に突き刺していく。
「もったいない……」
そんな姿を見ながらラケルはぽつりと呟いた。
「何がもったいないと思うんです?」
ロイに変わって2人の監督役となったサラがラケルに尋ねた。
「ああいう力強いところを村の女の子に見せればぐっとくる子だっているのに……。と思ってさ」
「ラケルさんは力強いとぐっと来ます?」
「当然よ。ねえ、アイリ」
「え、私? うん、そうだね! やっぱりぐっとくるよ!」
「なるほど。そう言う物なのですか」
「サラちゃんはぐっと来ないの?」
「お兄様であれば全ての行動にぐっと来ます」
「「おおー」」
謎の歓声。
「けど、問題はロイがそのことに気づいて無いのよね……」
「うん。あれ絶対楽しんでるよね……」
あどけない少年の笑みを浮かべながら喜々として杭を打ち込んでいくロイ。童心に帰って積み木のように楽しむ彼に、ガールズトークは聞こえていなかった。




