第14話 最強の旧友
「じゃあ後は任せたぞー」「いやー良かった良かった」
「これでちゃんと川も元通りかの」「井戸の水だけじゃ不安じゃしの」
ロイが元に戻すと言った瞬間に、村人たちは安堵の顔で村へと帰っていった。
「どしたの?」
ロイがそれにくっそ微妙な顔をしていたので、ラケルが話しかけてきた。
「いや、なんつーか、信頼されてるってのは良いんだけど。もしかして朝からこれだけのために集まってたのか?」
「これだけ、っていうには水は大事すぎるわ」
「そういうもんかね」
「そういうものよ。ロイだって水がないと生きていけないでしょ?」
「そう言われりゃそうなんだけどさ」
ロイは近くに村人たちがいなくなったのをちゃんと確認すると、半ば地面に埋まっている巨大な岩に手をかけると、力を込めて持ち上げた。ずずず、と音を立てて巨大な岩がたった1人の手によって持ちあがっていくのはまさに圧巻である。
「……凄い力ね」
ここまで規格外だと一々驚くのも追いつかない。
「これどこに置けばいい?」
「えーっと、水の流れ的に地面が傾いてるのは……。分かった、そこから右に5mくらいのところに置いてみて!」
ロイは真正面が岩で見えないのでラケルに指示を仰ぐとすぐに的確な指示が返ってきた。ロイはそーっと移動すると、足を泥水で汚しながらどすんと岩を置いた。
「こんなもんか?」
「ジャスト!」
どこから指示を出しているのかと思えばどうやら木の枝に腰を掛けて指示を出しているようだった。確かにその高さなら俯瞰して岩と水の位置を見れるのでベストな位置取りだ。
「じゃ、次行くわよ」
「次?」
ロイが首を傾げると、どうやらここまで吹っ飛んできた山の欠片はあの1つ巨大な岩だけではなかったらしく、川の流れを邪魔するように散らばっているものあれば、いくつか森の中にも裂傷を作っている物もあった。
「あー……」
「あ、森の中にあるものは手を出さなくてもいいわよ。どうせ森の中なんて普通の人は入らないし」
「分かった。なら、次はこいつを移動させるか」
次にロイが手をかけたのは先ほどの巨大な岩よりも1周り小さな岩である。とは言ってもざっと7、8mほどはあるのだが。
「持ち上げんぞー!」
「はーい」
そんなこんなでラケルの指示に従って土木工事をすること数時間。気が付けばすっかり昼になってしまっていた。
「ふぅ……。こんなもんで良いだろ」
「うん。良い感じだわ」
「川に水が戻り始めましたし、完璧ですよ。お兄様」
「うむ。中々良いじゃないか」
川の流れをせき止めていた岩はすっかり場所を移動させられ、逆に川の水がおかしな方向に流れないように川の流れを矯正する役割としてしっかりと用いられていた。
「ねえ、ロイ」
「どした?」
「3日前にアンタが使った魔法があるじゃない?」
「どれだ?」
オークを倒した時に使った魔法だが種類が多すぎてどれなのかが分からない。
「山ごと吹き飛ばしたやつよ」
「ああ、あれね。どうかしたか?」
「あれって、『魔神戦役』で戦ってた人なら誰でも使えるの?」
「んなわけあるか」
「そうなんだ」
「最前線で使えたのは俺を含めても数人とかだぞ」
「え、そうなの!? ロイって凄いのね」
「だからずっと言ってただろ? 俺は凄いって」
「言ってたけど……」
「うおっ!?」
穴だらけになっている川底を平らにしようと足で地面をならしていると、泥に身体をとられてずっこけるロイ。
「なんか見てて、あんまりそう思えないんだよね……」
「失礼なやつだな」
ぷかりと流れる川に浮かぶロイ。泥がまじった茶色い水でやるので服が泥だらけである。それをジト目で見送るサラ。
「お兄様、それを洗うのは誰か考えて遊んでくださいね」
「わ、悪かったって……」
ロイは身体を起こすと、フードについた水をしぼって身体を軽くする。
「そういえばロイってそのフード取らないよね」
「ん? ああ、そうだな。まだこっちで取ったこと無いな」
「そんなに顔の傷ってひどいの?」
「ああ、あれは嘘だ」
そういえばそんな嘘をついたなと思い、ロイは首を横に振った。
「嘘?」
「おう。俺の顔がイケメンすぎるからな、こんなところでフードを取れば一大事になるもんで……。何だその顔は。まるで信じてないな」
「いや。だって、ねえ……?」
「何をぅ! 俺だって若い頃は色々言われたんだぞ! 美少年だとか、神童だとか、好青年とか!」
「百歩譲って神童は良いとして、好青年って歳でも無いでしょ」
「むがー!!!」
ロイが納得するまで川底を平らにするのに、それから1時間かかった。その間に1度サラは家に帰り弁当を作って持って帰ってきてくれた。
「そういえばここの川って雨が降ったのに水量そんなに増えないんだな」
ロイはサラが用意してくれたパンをかじりながらにそう言う。
「ここは支流だからね」
「本流が別にあるのか」
「あるけど、あっちは狩人でもめったに行かないほど奥にあるから……」
「ははん。そういうことか」
「うん。おばあちゃんたちが小さなころに村はもっと向こう側にあったんだって。今魔物たちが住んでるところの近くにあったって言ってた」
ロイは黙ってパンをかじる。
「川は時々氾濫するけど、土地は肥沃で畑だと麦がすごい出来たんだって。村人たちも300人近くいたって言ってた」
「随分と居たんだな」
「でも、みんな戦争で居なくなったって。疎開したり、戦場に行ったりして、ね」
「そうか」
「ロイがいた村はどうだったの?」
「俺? よく覚えてねえ」
「そうなの?」
「戦争に行って、帰ってきたら2人とも死んでた。それで今の親父……つっても、こっちも死んじまったが、そっちに引き取られてそこで暮らしたからな」
「そうなんだ。ロイってそんなに強いんだから、冒険者……だっけ? それになればよかったのに」
「冒険者ねえ……」
冒険者とは『魔神戦役』時に魔神によって奪い取られた大地を冒険し、魔物たちを倒して人の生存領域を取り戻すための仕事である。しかし、その難易度は並大抵のものではない。
魔神によって奪われた大地は軒並み形質変化を起こしており、この世のものとは思えないような地獄が繰り広げられているのである。そこを歩き、魔物たちを倒して、新しい土地を見つけて帰る。そこが人が生きていくのに適しているのであれば、その土地を貰うことが出来るのだ。
確かにかっこいい仕事だ。間違いなく騎士団と同じく男の子が成りたい職業No.1である。
「なんつーかな、俺はそう言うの嫌だって思うんだよ」
「何で?」
「何でって……。変なこと聞くなぁ」
「良いじゃない、教えてくれても」
「別に隠すようなことじゃないけどさ、俺って強いじゃん?」
「まあ、そうね」
「それを武器にする仕事ってどうかと思うわけよ」
「は?」
「まあ、端的に言うとめんどくさいんだよね。冒険者」
「はぁ……」
「分かった?」
「分かったって言うか……。アンタってそう言うところ本当に適当よね……」
「なんつー言い草」
しかし、雑に生きていることは否定できないのでロイは肩をすくめることしか出来ない。
「帰るか」
「そうね」
「そういえば、お前は俺のとこいてよかったのか? 狩人の仕事は?」
「今日はここ担当」
「ほんとかよ」
ロイの言葉にラケルは肩をすくめて答えた。
……どっちだよ。
ロイ達は川がしっかりと流れを保っているかを確認するために、しっかりと川沿いを歩きながら帰る。泥水ではあるが、元の川にちゃんと水が通っているのを確かめて村に入ると、反対側の入り口に人だかりが出来ていた。
「……なんだこれ」
「さあ? 誰か来たのかしら。けど、それにしては多いわね」
「お兄様、ラケルさん。見てください! あれ!!」
「あん?」「どれ?」
人だかりから視線を上げていくと、そこには甲冑を着込んだ集団が村の入り口に立ちふさがるようにいた。
「……騎士団だ」
ぽつりとロイが漏らした言葉に3人は顔を見合わせて、村へと走り出した。その途中、長老が青年に頭を下げているのが見えた。
「長老があんなにお辞儀するなんて……。ね、ねえ。あれって誰?」
「……カインだ」
「カイン? カインってあの『聖騎士』カイン!?」
「そ、そうだ。そのカインだ!」
「誰ですか?」
ロイとラケルの盛り上がりに反して、サラは疑問符を顔に浮かべている。
「『勇者』の仲間の1人だよ! 今は騎士団長やってるはずのなッ!!」




