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第75話 街に戻れば…


「アンフルー、お疲れ様な。スフィアもありがとな」


 部屋に戻った俺はそう言って残った二人を(ねぎら)った。


「ん…、お帰りキノク。私にする?私にする?それとも私にする?」


「全部アンフルーじゃねえか」


 帰ってくるなりアンフルーがぶっこんできた。俺はそれを冷静に突っ込む。


「アンフルッルーにしてあげる」


「普通で良い、普通で」


「私はこれが普通。普通で良いキノクは私にする事が確定。やった、…じゅるり」


「ヨダレを拭け、ヨダレを。あと、我慢する事を覚えろ」


「美味しそうなモノを前にしてガマン出来る者はいない…。いただきます、じゅるり」


「…夕食にフレンチトーストを出さないぞ」


「謹んで我慢いたします。私は聞き分けの良いオンナ」


 いつの間に覚えたのか、アンフルーは畳の上で正座して綺麗に三つ指ついて頭を下げた。これで和服を着たらおしとやかな和装美人という感じだろう。…金髪だけど。


「ニャ〜!!ふれんちとーすとが食べられるのニャ!お(さかニャ)の試食もあるし今日はご馳走ニャ!」


 一方でリーンはフレンチトーストと聞いてバンザイして喜んでいる。


「リーンさん、フレンチトーストというのはどんな物ですの?」


 まだそれを食べた事が無いスフィアがリーンに問いかけた。リーンが笑顔で応じる。


「キノクが作るとっても甘くてフワフワで美味しい美味しいパンの料理なのニャ!ボクはお(さかニャ)が大好きだけど、ふれんちとーすとも同じくらい大好きなのニャ!」


「ちょうど生鮮スーパーの配達日だからな。ツナを使ってまたホットサンドを作るか」


「ニャー!また、お(さかニャ)を挟んだパンが食べられるのニャ!」


「日が沈むまでにまだ時間があるな。せっかく街に戻ってきたんだし、なんかしておきたい事はあるか?俺は商業ギルドに行きたいんだが…」


「私はない」

「ボクも〜。だからキノクについて行くニャ」


「あの…、わたくしは魔術師ギルドに行きたいのですが…。ヤシウユ達の最後を…、そしてわたくしの無事を伝えたく思います」


 魔術師ギルドではギルド間で遠方との連絡が出来る。おそらくゴルヴィエル公爵領には魔術師ギルドがあるのだろう、だいたいは大都市にあるからそこに連絡をしてそれが公爵家に届くのだろう。


「それなら魔術師ギルドを最初にしよう。連絡は早い方が良いだろうからな」


 そうして俺達はスフィアの用事を済ませ、次に商業ギルドへ。


「明日の自由市で店を開く予定の者なんだが…、頼みたい事があるんだ」


 俺は受付嬢にそう切り出していた。



 翌朝…。


 俺達は広場に向かった。リーンとアンフルー、そして手伝いをしたいとスフィアが加わり総勢四人である。今日は綿あめと薬を売り、あとは魚を料理する。


 その為に昨日商業ギルドで魚を調理するスペースをもう一つ借りられないかと相談したところ、丁度俺達が予約した場所の右隣の出店予定者の都合が悪くなったらしく空いていた。そこを借りる事にした。


「おう、(わけ)えの!どうでい、出来映えは!!」


 指定された自由市のスペースに行くと今回も隣同士になった木工職人ケイウン・ブッシ、さらに二人の人がいた。


「キノクのお兄ちゃん!」


 一人はケイウンの孫娘アリッサ、綿あめのファン第一号だ。そしてもう一人は…。


「よう、親父と娘が世話になったな。俺はケイカイ、同じく職人をしている、よろしくな」


「こちらこそ、キノクだ。商人をしている、もっとも始めて半月ほどのかけ出しも良い所だがな」


「おいおい、最初(ハナ)っから冗談飛ばしてくれるな。あんな詳しい図面を書けてマス目までついている上質な紙…、おまけに甘いモンまでこんなトコで広げちまう…。やり手の…長年商売やってる奴でもなきゃ出来ねえだろ。…って、お前さんマジなのか…」


「ああ…」


「おい、ケイカイ。その話は後ですりゃ良いだろう、まずはこれを見てくれ」


 そう言ってケイウンが示したのは…。


「おお、これは…」


 見た目は木造の和風家屋(わふうかおく)…の壁と屋根っぽいもの、しかしその壁や柱には…。


「あっ、バンソローの像が彫り込まれているニャ」


 屋根になっている所の一部に彫り込まれた女の顔の像、バンソローというらしい。聞けばこの異世界における商売の女神との事だ。和風建築に洋風美女の彫刻はハッキリ言ってミスマッチなんだが、全体の雰囲気をぶち壊しにしていないのはケイウンの職人としての腕の確かさなんだろう。


「引き出しの出し入れの具合も良いし、車輪の転がり具合もスムーズだ。ありがとう、ケイウン」


「なあに、十分過ぎる程の前金はもらってる。こちらこそ良い依頼人に会えた、礼を言うぜ」


「親父がなんか張り切っていたからな、聞けば面白い事をやってっから俺も一枚噛みたくなってな」


「そんな訳で(せがれ)(つち)やら(のみ)やら振るってな」


「ああ、俺も良い経験させてもらったよ」


 ひととおり挨拶を済ませたところで…。


「ねえお兄ちゃん、今日も雲のお菓子を売るの?」


「ああ。小さいのを一つやろう」


「やったー」


 早速、新品の荷車を屋台形式に拡げて金タライを用意するとアンフルーが火と風の魔法を使い始めたので俺はザラメを投入し綿あめを作り始める。


 出来上がったものを早速女性陣が食べ始める。


 やがて自由市(バザー)の開始時刻となった。人々が入ってくる。…と言うよりもこちらに向けて押し寄せてくる。


「く、雲のお菓子よっ!」

「あ、あれを食うんだ!甘い物、甘い物ッ!」


 何やら血走った目、切羽詰まったような表情の面々。


「ふ…。私のようなエルフさえ虜にする雲のお菓子、我慢出来る筈がない」


 何やらアンフルーが胸を張っている、残念ながら慎ましいふくらみである。


 前回と同じようにアンフルーは魔法のコントロール、リーンは客をさばく体制だ。しかし、押し寄せる人並みは混沌そのもの。押すな押すなとばかりに殺到し混乱を極める。


「押すなよ!絶対に押すなよ!!」

「他のお店の迷惑にもなるニャ!みんな、静かに落ち着いて並ぶニャ!」


 リーンが呼びかけるも群衆は聞きもしない。


「は、早く売ってよ!」

「そうだ!早くしろ!」


 口々に我鳴(がな)り立てる、その時だった。


 ブンッッッッッッ!!!!!!!!!


 突如起きた突風に群衆が押され、それまで騒がしかったのが一瞬で静まりかえった。


「あなた達…」


 声のする方を見ればスフィアが槍を真横に振った姿勢で静止していた。あの突風の正体はスフィアが横薙(よこな)ぎして起きた衝撃波のようなものか…。


「お静かに…、そしてお行儀良くお並び下さい。そうでないとあなた達の欲しがる雲のお菓子…」


 凛とした声だった。とても俺を無理やり抱きしめ私を奪って下さいませと言っていたのと同一人物とは思えない。


「…お売り出来ませんわよ」


 ピタッ、ピタッ。


 振り抜いた姿勢を元に戻した後、先頭にいる客達に一人ずつ槍を向けていく。刺されるような間合いではないのだがスフィアの持つ気迫のようなものが群衆の意気を飲み込んだのか大人しく列を作っていく。


 うーむ、これが上に立つ事に慣れた者なのか…。毅然とした言動に民衆は従う、もちろんそれを裏打ちする実力あってこそなんだろうけど。


「さ、これでお仕事が始められますわ」


 にこり、スフィアが俺に優しく微笑みかけた。



 最初に綿あめを販売した。前回と違い倍のひとつ千ゼニーで販売するも大盛況。あっと言う間に売り切れた。これで午前の部はお終い、次に薬の販売をする。


 と、言ってもこの街には薬師ギルドもあれば錬金術師ギルドもある。俺があまり大々的に薬を売ると要らぬ恨みを買うかも知れない。そこで俺は蚊取り線香や消臭剤など彼らが作る商品ラインナップとかち合わない物を中心に売る事にした。


 これらは日本のドラッグストアでよく売られている商品を参考にした。消臭剤や殺虫剤…、製造元は◯◯製薬という事がよくある。それを思い出した俺はそちらをメインに売る事にした。


 他にも体を洗うポーション…洗体剤(せんたいざい)と称して水を含むと泡立つ性質があるサイカチの木の実を見つけた。これは赤みを帯びた平べったいバナナのような実の形をしており、これに触媒茸とヨモギのような芳香のある草を乾燥させた物を粉末にしたものを加えた。これをスーパーの実演販売のようにまずは自分が手を洗って見せ、次に見ていた客の一人を選び洗わせる…。たちまち宿屋の女将達がざわついた。


 石鹸は異世界にも確かにある。しかし、現代日本のスーパーで買うような物とはかけ離れている。聞いた話では(いびつ)な小型レンガのような形をしている。これはとても硬く、泡立ちも良くない。確か…草食動物の獣脂(じゅうし)草木灰(そうもくばい)を混ぜ合わせて作るんじゃなかったろうか…。


 こうして出来た石鹸は泡立ちを楽しむような物ではなく、人の体表に浮き出た皮脂を同じ脂肪分がなじみそれを共に湯で洗い流す。作るのに手間がかかり、その製造法は秘匿(ひとく)されて他に作れる者がいないからどうしたって価格は高くなる。そこで俺はそれよりは安い値段で売る事にした。俺の目論見通りこれも売れ始めた。


 それと言うのも料理屋とか宿屋の女将(おかみ)など固定客が出来ていた。俺が薬関係を売り始める時刻を(あらかじ)め伝えておけばそれに合わせて来てくれる。綿あめの客と重ならないようにして要らぬ混雑を招かないようにする為だ。宿屋などの店の者は綿あめを求めて来た人々と違い大きな混乱も無く販売もあっさりと終わった。


 それゆえ販売担当は俺とスフィアが担当、そしてリーンとアンフルーには別の事を頼んでいた。


「うーん、煙がモクモクしてきたニャ」

「くんくん…。こちらの煙からは果実の香りがする」


 元々借りている販売スペースの右隣、運良くキャンセルが出て新たに借り受けたもう一つのスペースでは一斗缶を複数置いてそこで下ごしらえした大量に釣れた川魚を調理している。いわゆる燻製(くんせい)を作っている。


「そうやって煙で(いぶ)し、またじっくり高熱を加えてやる事で魚の身から水気(みずけ)を抜いていってやるんだ。すると長期の保存が出来るようになる。これなら腐らせずに済むし、独特の風味を加えられるんだ」


「それは楽しみだニャー!」


 リーンがはしゃいでいる。


「うーむ、魚の燻製か…。それで一杯飲んだら美味えだろうな」


 左隣で木工品を売るケイウンがそんな呟きを洩らしている。


「もうっ、お爺ちゃん!!お酒は控えめにって言われてるじゃない!」


 アリッサが祖父をたしなめている。


馬鹿野郎(ベェケろい)!!酒が無くて何が楽しいんでい!そんなんで俺がくたばっちまうワケが………うぐぐぐっ!!」


 突然、ケイウンが胸を押さえて苦しみ出した。


「お、お爺ちゃんっ!!」

「親父ィッ!!」


 ケイカイとアリッサの父娘(おやこ)が慌ててケイウンに駆け寄る。だが、ケイウンは力無くそのままバッタリと地面に倒れてしまったのだった。


 いかがでしたでしょうか?


 作者のモチベーションアップの為、いいねや評価、応援メッセージなどを感想にお寄せいただけたら嬉しいです。レビューもお待ちしています。よろしくお願いします。


 モチベーションアップの為、いいねや評価、応援メッセージなどいただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。


 □ □ □ □  □ □ □ □  □ □ □ □


 次回予告。


 □ □ □ □  □ □ □ □  □ □ □ □


 突如倒れてしまったケイウン・ブッシ。


 「つ、次に倒れたら命の保証はないって…」


 アリッサの悲痛な声にキノクは…?


 次回、第76話。


 『アブクソムの奇跡と真の勝者』


 お楽しみに。

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