第66話 新スキル獲得とスフィアが倒れた訳
「こ、これは…」
アンフルーが驚愕の声を上げた。
「ど、どうしたんだ?」
何か良くない事があったのかと俺はアンフルーに尋ねた。
「す、凄い。普通の単眼鏡に比べて三倍…六倍…、いや十倍の性能はある」
アンフルーが続ける。
「情報の質の高さ…深さ、そしてそれが表示される処理速度…。スフィアのレベルに各種パラメーターが正確な数字で表されている」
「正確な数字?アンフルー、どういう事ニャ?」
「普通の単眼鏡で相手を見た場合、せいぜい五段階評価。能力値の平均値100を基準にしてその近辺の数字なら普通。そこより少し優れていたり劣っていたりするとやや高いとかやや低いと表示される。そしてさらに優れていたり劣っていると高い、低いと表示される」
「ふむふむ」
「それより上質な翠玉の単眼鏡ならある程度の数字の範囲を示してくれる。例えば101〜110とか、95〜98といった具合で…」
「数字に幅があるのは分かるが、数字の幅に差があるのは何でなんだ?101〜110と95〜98じゃ振り幅が全然違う」
「それは単純に品質の差。高品質ならより正確に数値の幅が狭まってくる。その差が上質と最上質の差となって現れる。しかしキノクのこの単眼鏡は幅の無い正確な数値を示している。これはもう最上質とかの範疇ではない。神ならぬ者が作った物とすれば最早これは国宝級…いや伝説級の品…」
「そんなに凄いのか?」
「正確無比、こんな品質の優れた物はない。私限定ではあるけど」
「へええ…。で、スフィアを調べてみた結果は表れているのか?」
「ん。スフィア・ゴルヴィエル、年齢は十八歳。正確な数値も分かった」
「ほうほう」
「上から89、58、88。…ちっ、ウエスト以外私を上回っている」
「何の数値だ!?…それで上から89、58、88で良いんだな?」
「自分に素直なのは嫌いではない、メモを取る勤勉さも好印象」
「…苦しむ原因は分かったのか?」
「ん。バッドステータス、病気」
「それを先に言え!!」
「スフィアは病気だったのかニャ!」
「ん。でも何の病気か分からない」
「それは困ったな…」
俺は腕組みして渋い声を出した。
「え?どうしたのニャ?キノクならお薬が作れるんじゃニャいの?」
「傷を治すとか、体力を回復させる薬は出来るけど病気って言われるとなあ…」
「作れニャいの?」
「何の病気か分かれば…だな。アンフルー、分かるか?」
「分からない。分かるのは今の状態が病気って事だけ」
「…そうか」
「キノクならなんとかならニャいの?」
「風邪をひいている人に腹痛の薬を飲ませても意味を成さない。それと一緒だ、今の俺に出来るのはせいぜい体力を回復させるような薬を作るぐらいかな」
「…ニャ」
リーンが項垂れる。
「俺は薬は作れるが…、これではどんな薬を作れば良いか分からないからな…。安静にさせて病状が安定するのを待つしかない。せめて何の病気か分かれば何らかの対策は打てるかも知れないが…」
そんな時に俺の頭の中に声が響いた。
《御主人…》
ナビシスか、どうした?
《はい。お困りのようなのでお声がけしました。新しいスキルを購入しませんか?》
新しいスキル?
《そのスキルは診察。読んで字の如く、病人や怪我人を診察し症状を確認するものです。また、治療に適切な薬を選ぶ事が出来ます》
タイムリーだな、オイ。でも良いな、そのスキル。いくらだい?
《五百万ゼニーです。御購入はいつものように…》
分かった。助言、感謝する。
《では…》
そして俺は早速パソコンを起動し診察スキルを購入した。すぐにスフィアを診察する…分かったのは…。
「心臓病…。しかも…今はかなり危険、重度の発作を起こしている状態だ。彼女の超人的な体力と精神力でなんとか持ちこたえているが…今夜が峠というところだろうか…」
俺は病気の名を告げた。
「それ、どんな病気なのニャ?」
「心臓がかかる病気。治す手立ては神薬しか無いと言われている…」
アンフルーが呟く。
「エリクサー?あ、あの死んでなければ何でも治すと言われる…」
「ええ」
「そ、そんニャ…。そんなのなかなか手に入らないのニャ、入るにしても…」
「ええ。十億…、いや二十億ゼニーでも手に入るかどうか…。手に入らなければせいぜい心臓の働きを助け痛みが和らぐ薬を服用するぐらいしか…」
そんな状態で彼女は槍を振るっていたのか…。心臓病を治したり、あるいは今この痛みや苦しみを和らげる薬を作る事は出来ないものか…。
「…ッ!!?」
そんな時、俺の頭の中に閃きが走った。知りもしなかった薬のレシピが浮かんでくる。しかもそれはほとんどが手持ちのものである、ただ一つを除いては…。
「出来る、出来るぞ…薬」
「え?」
「本当かニャ!?」
「ああ、だけど…材料がひとつ…。ひとつだけ足りない」
「そ、それは何ニャッ!?ボク、取ってくるニャ!」
「心臓だ…」
「え?」
「それは人間より丈夫な心臓…。人間の何十倍も発達した胸の筋肉の中で動いていた鳥類の強い心臓だ…」
「そんな…。もう日は暮れてしまった」
「ボクも夜の森で鳥を見つける自信は無いニャ…」
アンフルーが悲痛な声で呟く。鳥というのは夜になると夜行性のもの以外はねぐらに帰って寝てしまう。探すには厳し過ぎる時間と言えた。
ましてやこの異世界はモンスターもいる世界。地球より遥かに外敵は多いし、危険も多い。それゆえ、警戒心も強くねぐらもそう簡単に見つかるようなところには作らないという事だった。
他の材料は幸いにしてある。だが、鳥の心臓だけがない。
「手立ては分かっているのに…。このまま彼女が弱っていくのを指を咥えて見てるしかないのか…」
俺は無力感に苛まれながら呟いていた。
いかがでしたでしょうか?
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次回予告。
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「どうすれば良いんだ…」
キノクは途方に暮れていた。
スフィアが苦しむ病の正体もそれを救える薬も分かった。
材料も揃っている、ただ一つを除いて…。
それは絶望的な品。
今この時それを手にするにはあまりにも天の時から見放されていた…。
次回、第67話。
『我、欲するは鳥類の心臓』
お楽しみに。




