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第46話 カルロゴ・スーンと命の値段(後編)


「俺はお前の言う虫ケラなんだろう?人間サマの言葉は理解出来ないんだよ」


 俺は嫌味たっぷりに商会主カルロゴ・スーンに返事してやった。


「良いぞー!!兄ちゃん!」

「そうだそうだッ!さっきまで虫ケラと馬鹿にしといて、今度は助けろだぁ?馬鹿も休み休み言え!」


 野次馬達から歓声やら罵声が上がる。


「か、金なら…」


「ふーん。金なら払うってか?」


 見上げるカルロゴ・スーンが必死に頷いた。


「百万…だったっけ?」


 俺は独り言を言うようにカルロゴ・スーンに目を合わせずに言葉を続けた。


「お前の所じゃ一千万もする霊薬(ポーション)を売ってるんだろう?俺の薬の効果は先程見た通りだ。それを百万と言われてはなあ…」


「わ、分かった!い、一千万!一千万出す!」


「ふざけるなー!」

「スーン商会の最高級品でも傷跡までは消せないだろうが!」


「街の皆さんはこう言ってるが?」


「あ、あれは皇室付きの錬金術師やその一派が作った物で…。その分の値段も含まれてるんだ!」


 カルロゴ・スーンは這いつくばったままそう返答した。


「ふむ…。皇室御用達(こうしつごようたし)ね…」


 そんな錬金術師達が作ったと言うならこのアイセル帝国内の市販品では最高級品だろう。まあ、さらに出来の良い物は皇帝の元に行くのだろうが…。


「良いぜ。無名の薬売りがそんな薬と同額なんて実に光栄だな」


「そ、そうかッ!なら、これでッ」


 カルロゴ・スーンは折れていない方の手で懐から何かを取り出す。宝石だった。


「一千万と換金出来る宝石だ。こ、これを…」


 チラリとアンフルーを見ると頷いたのでどうやら偽物ではないようだ。周りからは売るなと声が上がった。どうやらひどい骨折で、コイツの商会で売っているポーションでは綺麗には治らない。だから一生後遺症で苦しませてやれ…そんな声が上がる。


「確かに受け取った。じゃあな」


 だが、俺は宝石を受け取った。周りからは落胆の声。だが、俺は薬を渡さずそのまま帰ろうとする。


「ま、待て!ポ、霊薬(ポーション)はッ!?一千万払ったろう!!」


「あー、これか?」


 俺は宝石を布袋に入れてアンフルーに預けた。俺が持っていたらスリに遭うかも知れない。だが、アンフルーには魔法がある。身を守る(すべ)もあるだろう。


「確かに受け取ったと言ったろう?これはあの少女の治療費だ。お前の積荷で怪我をさせた彼女をポーションを使って治したんだ、その治療費を払うのは当然だろう?さて、お前はどうする?」


「な、なんだとっ!?」


「薬はほら…もう一本ある…。治したいんだろう?」


 俺はチラリとペットボトルを見せた。


「ッ!?な、なら、それをッ!!」


「いくらで?」


 カルロゴ・スーンが(すが)るような目でこちらを見る。


「い、一千万だ、一千万出すからッ、それを…!」


「売ってくれって?」


「うっ…!?」


 俺が倒れているヤツの目の前に行ってしゃがんだ。話す距離が近くなる。


「お前、さっきこう言ったよな?ワシとお前らじゃ命の価値が違うんだ…って。…じゃあ、つけてもらおうか。お前の命の値段をさ」


 俺は立ち上がった。足下にはカルロゴ・スーンが地べたに転がっている。そんな奴を見下ろして言った。


「この霊薬(ポーション)はお前を癒す事が出来る…。だから値をつけてもらおうか、価値あるお前に相応しいものをな。もし、納得できない値段なら…」


 ここで一つ息を吸った。そして(つと)めて低い声を出して告げてやった。


「売ってやらないぞ?」


「な…」


「さあ、よく考えろ。お前の命の値段ってヤツを、それと売ってもらうにあたっての言葉使いをな…。散々、虫ケラと馬鹿にしたんだ。この広場にいる全ての人に謝罪もするんだな、地に()うだけの芋虫(いもむし)クン?」



 どうやら俺の作った特製の冒険者製応急薬は規格外の出来のようで、意識を失う程の怪我をした犬獣人の少女ヒアサは今は元気にしている。


「す、すまなかった!謝る、この通りだ。さ、三千万ゼニー、三千万ゼニー出す。そのポーションを譲ってくれ…、頼むから。ウチの最高級品でも骨折を綺麗に治すには至らない…。」


「言葉使いはまだまだだが、値段はまあまあか。それに商売は客に頭を下げさせてやるものではないしな。いじめるのが目的ではないしな、売る事にしよう」


 そう言って俺はカルロゴ・スーンから三つの宝石を受け取る。アンフルーはそれを見て頷いたので俺はペットボトルに詰めた特製の薬を取り出し地面に伏しているヤツの顔の前、その地面に置いてやった。


「じゃあな。お前に薬をかけてやるほど俺はお人好しじゃない。お前の店で売ってる一千万ゼニーの薬より価値がある、無駄にするなよ」


 カルロゴ・スーンはペットボトルを手に取った。


「こ、ここを捻って開けていた…。くっ、開かない!」


 ペットボトルのフタを開けようとするが上手くはいかないらしい。


「おいっ、お前!お前だ、お前ッ!」


 カルロゴ・スーンは人夫に声をかけた。


「そのポーションを早くワシにかけんかッ!ああ、痛い。お前のようなゴミクズを雇ってやったワシに尽くす良い機会だろう!さっさとしろ!」


 うつ伏せのまま偉そうに人夫に命令するカルロゴ・スーン。


「このクソ野郎、反省してねえ!」


 野次馬が騒ぐ。


「騒ぐな虫ケラども!おい、愚図(ぐす)め!中身を開けてワシにかけるだけだろう!?そんな事も出来んのか!?この頭の程度も低い無能め!」


「くっ…」


 散々な言われようの人夫が悔しそうに唇を噛み締めてペットボトルを手に取った。


「さあ、早くせんかっ!三千万ゼニー…三千万ゼニーだぞ、その霊薬(ポーション)は!捨値(すてね)で売ってもお前よりはるかに価値がある!それを早くワシにかけろ、虫ケラがッ!」


 人夫は手に持ったペットボトルを見つめていた。


「む、虫ケラじゃ…」


「あー?なんだ、ゴミクズ?」


「む、虫ケラでも、ゴミクズでもないッ!」


 人夫は地面に転がるカルロゴ・スーンの顔をサッカーボールのように蹴り上げた。


「ぐわあっ!」


「だ、誰がお前なんかの、お前なんかの為にするもんか!」


 野次馬から歓声が上がる、そんな中で人夫の男はペットボトルを持って二歩、三歩と後ずさる。


「す、捨値で売っても、一千万ゼニー。お、俺の給金の何年分だ…?」


 人夫はさらに後ずさる。


「何をするか、ゴミがっ!」


「な、名前を言ってみろ…」


「あ〜、なんだと?それより貴様、ワシにこんな事をしおって…」


 カルロゴ・スーンは人夫を睨みつけるが、人夫は構わず続けた。


「俺の名前を言えないだろッ!俺を人間扱いしないそんな奴に…、そんな奴にッ!…これは俺がもらう!クズ野郎めッ!」


 そう言うと人夫はポーションを持って走り出した。


「あっ!つ、捕まえろッ!」


 カルロゴ・スーンが叫ぶ。


「ヘッ!誰が!」

()りもせず俺達をまた虫ケラ呼ばわりした奴をなんで助けなきゃなんねーんだよ!」


「捕まえろ!つ、捕まえて…くれ。た、頼む〜ッ!」


「誰がするか、バーカ!」


 野次馬は誰も逃げていく人夫を追わない。それどころか喝采や賞賛の声を上げている。


「飼い犬に手を噛まれたか…、良い気味だな」


 そう言って俺はアンフルーを伴ってリーンが待つスペースに戻った。ヒヨウシイとヒアサの兄妹(きょうだい)は何度も礼を言って帰っていった。


 そしてその日、俺の特製薬の効き目を見た客達が品物を買いに来た。異世界では薬と言うと傷薬や毒消しの(たぐい)がほとんどらしい。蚊取り線香など新たな観点の品物に人々は驚いていたが、宿屋の女将(おかみ)が一つ買って試しに使ってみたところ効果がすぐにあったらしい。すぐに戻ってきて全部買って行った。


 他に両替も好評。中でも屋台というか、小額の商売をする銅貨が集まるような人に需要があった。手数料は両替額の4パーセント、例えば100ゼニー銅貨を百枚持って来て1万ゼニー銀貨一枚に替えてやる時にはサービス利用料金として400ゼニーを取るのだ。これが意外と需要があり5千ゼニー程になった。元手要らずで今日の出店費が(まかな)えてお釣りまで出た。


 出店は日没までだったが、午後三時過ぎには完売御礼。今日はもう終わり、サクッと引き上げよう。


「ねえねえ、キノク〜。今日はどれくらい売り上げたのニャ?」


 看板を折りたたんでいる俺にリーンが声をかけてきた。


「ああ、宝石も含めて4012万ゼニーとちょっとだな」


 上機嫌で俺は応じていた。


 いかがでしたでしょうか?


 作者のモチベーションアップの為、いいねや評価、応援メッセージなどを感想にお寄せいただけたら嬉しいです。レビューもお待ちしています。よろしくお願いします。


 次回予告。


 第47話『スキルレベルがアップした』


 スキルレベルアップという事は…、今持ってる何らかのスキルがレベルアップするんだよね…、それは一体?


 君は小宇宙(キノク)を感じた事があるか?


 お楽しみに。


(好評なら次回予告を時々頑張ります)

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― 新着の感想 ―
[一言] 元ネタ別に有るんだろうけど、どこかカイジっぽくて面白かった
[一言] 善悪の区別がついててマトモな事をしているのなら傲慢でも怠惰でも冷酷でもいいと思うのは自分だけかな。
2022/05/10 10:12 退会済み
管理
[一言] 早く次が読みたいです。
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