第44話 特製ポーションと5万ゼニーの重み
「し、しっかりするんだぎゃあ!」
俺からカートゥーンボゥの尾針を買った男が小さな女の子の傍で悲痛な声で叫んでいる。近くには女の子に直撃したと思われる荷物が転がっていて、それを落としたと思われる荷馬車が止まっている。
「こら!しっかり荷物を結びつけとおかんか!」
その荷馬車の近くで恰幅の良い男が叱り付けるような声を上げている。
「も、申し訳ありません!」
人夫のような男が詫びの言葉を述べる。
「まったく近いと言うから広場を突っ切っていこうかと思ったのに…。こうもうじゃうじゃと有象無象がいるとは…。その荷を一つ駄目にしただけでいくら損が出るか分かっておるのか!」
商人だろうか…倒れている少女を一顧だにせず積荷の方ばかり気にして積み込みを急がせている。
「おい、それより怪我人がいるんだぞ!」
野次馬から非難する声が上がる。
「何を言うか!そんな事より荷の方が大事であろう!そんな子供など1ゼニーにもならんわ!」
そんな中、俺からカートゥーンボゥの尾針を買った男は倒れた少女の名を呼び続ける。
「ヒアサ!ヒアサッ!」
見れば額のあたりから血を流し意識はない。
「退いてくれ」
そう言って俺は倒れている少女の元に駆け寄る。冒険者製応急薬を入れた500ミリリットルのペットボトルの蓋を開け中身を半分ほどをヒアサと呼ばれた少女に振りかける。これは昨夜作ったものだ。
《患部に振りかけても良し、飲んでも良し。あらゆる外傷に効果があるポーションです。現状、これが最も効き目ある処方箋です)
ナビシスからそう言われた調合、血止めと傷の回復が早まるという軟膏の材料になる薬草バミンカのらとりわけ効果が高いと言われる若芽。それをすり潰して触媒茸と蜂蜜を加えて練った物に飲む温泉水を加えて完成した水薬。
「あ、ああ!ヒアサの額の傷がみるみるふさがっていくんだぎゃ!」
特製の冒険者製応急薬の効果は素晴らしくヒアサと呼ばれた少女の傷はすっかり治り傷跡すらない。そしてゆっくりと彼女は目を開いた。
「う…、あ、あんちゃん…」
「おおっ!ヒ、ヒアサッ!ヒアサ!」
どうやら二人は兄妹のようだった。
「おおっ!目、目を開けたぞ!」
「き、傷もすっかり治って…」
「す、凄え!なんて効き目の薬だあ!」
野次馬達が声を上げる。
「傷はふさがったようだが、荷物が頭に当たったんだ。脳を揺らされてまだフラフラするかも知れん。残ったこれを少しずつ…ゆっくりと飲ませるんだ」
そう言って俺はペットボトルの残りを男に手渡した。頷くと男はそれを妹に飲ませ始めた。
「…んく。…甘い、美味しい」
日本で売っているような清涼飲料水と違って蜂蜜を僅かに入れただけのものだが、この世界にはそもそも甘味なんてほとんどない。ほんのわずかな甘みでもこの世界の住人には貴重品だ。
「おおっ、娘っ子が立ち上がったぞ!」
野次馬の一人が声を上げたので視線をそちらに戻した。そこには傷もなく立ち上がった女の子。小学生くらいか、怪我の為に元気なく垂れ下っていた耳がピンと立ち時々動いている。
「こ、この通りだぎゃあ!」
そう言うとカートゥーンボゥの尾針を買った男は頭のターバンを取って深々と頭を下げた。その頭には獣耳があった、リーンのような尖ったものではないものが…」
「おみゃあさのおかげでヒアサの怪我もすっかり治って…。だけんじょ、俺にはそれに何も返せるモンがなきゃあ…」
「良いさ。カートゥーンボゥの尾針を買ったあのお金…あんた、必死に稼いで来たんだろう?分かるよ、あの細かい金の意味は」
おそらくこの男はこの三日で必死に金を集めたのだろう。それがあの1万ゼニーの価値がある銀貨も1ゼニーである鐚銭まがいの粗悪な銅貨も含んでの5万ゼニーピッタリの支払いだったんだろう。
「薬草の引き取り価格もピンキリだ。1束で数十ゼニーみたいなのもあれば、数百ゼニーの物もある。薬草だけじゃない、その他も…。あんた、1ゼニーの間違いもなく持ってきた。きっと何回もしっかり数えて…確かめてから持ってきたんだろう。そのぐらい今回の取引にも、そして金の扱いにも誠実だ」
「お、恩に着るだぎゃあ!!あ、言い忘れとった。お、俺の名前は猿獣人のヒヨウシイだぎゃあ!!」
男がそう自己紹介をする横から声がかかった。
「旦那様ぁ〜。荷物の積み直しが終わりました〜!!」
幌のない荷馬車に山積みの物の上にさらに先程の荷を置いて紐による固定を終わらせた人夫が商人の男に声をかけた。俺はその男をジロリと睨んだ。
「本来、この金を払うべきはあの野郎なんだから」
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次回、第45話。
『カルロゴ・スーンと命の値段』
お楽しみに!




