閑話 俺は紀伊国文左(きのくにふみすけ)。その2
「名を聞いておこうか…」
皇帝が言った。
俺はこの時、自分のカンが正しかったと感じていた。皇帝をクズと思った事に…。だが、どうにもなるものじゃない。武装した兵士もいるし、ここにいるのは俺一人。暴れてどうにかなるものとは考えにくい。
素直に言う事を聞くのはシャクだけど、殺されるのは嫌だ。そもそも痛く苦しいだろうし。
正直こんなヤツに用は無いし、話す事もないが生き延びる為だ。そう思った時の事だった。
「いや…、やはりそれには及ばぬ」
皇帝は俺から視線を外した。
「祈祷僧 をこれへ!!」
「ははっ!」
ローブを着た男がやってくる、中年だ。僧と言っていたから何らかの宗教の人なんだろうが…。
(胡散臭え…)
長髪に首の根本にまで届きそうな髭…。日本にいたらペットボトルから注いだ水を聖水とか、安物の壺を幸運が訪れるとか言って高値で売りつけてそうな感じがする。
「鑑定するぞ〜。色々隅々まで〜。なりたい職業を思い浮かべるが良いぞぉ〜!!」
怪しく手の平をゆらゆらさせたり、にぎにぎしたり…なんだが全てが胡散臭い。いきなりこんな所になりたい職業なんて無えよ。戦うなんてヤダぞ、誰がコイツらの為なんかに。RPGとかラノベ小説ならレア職業になって無双とかって流れだろう。お生憎様、誰がそんなのになるもんか。
「ふ、ふんぬゥゥ〜ん!?お、おかしい。ふんぬ〜!」
なにやら胡散臭い奴が焦り出している、なんだ?分からないのか。もしかしたらインチキ占い師よろしく適当な見立てをあーだこーだ言うだけの奴なのがも知れない。
「わ、わしはこの帝国一の祈祷僧。わ、分からぬ筈がないのだぁ〜」
(やれやれ、勝手に言ってろよ)
思わず心の中で悪態をついた。それにしても天職ねえ…。こちとらただの大学を卒業したばっかの奴だぞ。何に期待してんだか知らないけど。やだよ、戦いに行けとか言われんの。
まあ、RPGの世界で職に就くなら商人だな。別に戦わなくてもエンディング後の世界でも生きてるし。毒とか呪いとか死んじゃっても金を払って治療出来るし。うん、やはり金を稼げる職業だろうな。金で解決、万事OKみたいな。
「はっ!?わ、分かり申した!!」
祈祷僧改め胡散臭おじさんが口を開いた。
「言え」
「この者の天職は…商人、商人にございまする!」
□
「なんだとッ!!」
皇帝が立ち上がった。
「それは偽りではあるまいな!?」
「間違いありませぬッ」
「ええい、それならば能力はどうじゃッ!秀たものを持っておるのではないか!?怪力であるとか、俊敏であるとか…」
皇帝の興奮は収まらない。矢継ぎ早に祈祷僧に質問をぶつける。
「そ、それが…」
「はっきり申せ!」
「ははっ!…き、筋力は虚弱。俊敏…並以下、体力…貧弱、器用さが人並。せ、生命力は…貧弱…」
「な、なんだとっ!?」
「い、一刻も頂ければ詳しく分かりまするが…。ま、魔力の有無など…」
「もう良いッ!!」
どっかりと玉座に皇帝が座り直した。
「しょ…、商人じゃと!?物の売り買いをするだけではないか!誰でも出来るッ!」
「め、珍しいスキルなど持ち合わせているやも…」
「そんなものがあるかッ!虚弱?貧弱?なんの役にも立たぬではないかッ!流れ飛んできたひょろ矢に当たっただけで死ぬのが関の山ではないか!!」
皇帝がまくし立てる。
「少しは戦の役に立ちそうな者でも現れぬものかと期待してみれば…。やはり伝説などあてにはならぬッ!古の勇者や賢者といった存在など御伽話に過ぎぬわ!!」
なんだこの皇帝、勝手に人を日本から連れ去りやがったクセに戦に出ろとか。こちとらそんな義理はないんだよ。
「お、畏れながら…」
一人の男が進み出た。コイツも皇帝の家来か…。よし、手下その2と命名しよう。
「なんじゃッ!?」
「で、伝説の言う通りかと…」
「何ッ!?」
「…言い伝えによれば召喚したチキウと呼ばれた所から来た者は確かに強大な力を持っている者もいたそうでございますが…。は、反対にまったく使えぬ者もいたという話も伝わっておりますれば…」
チキウ…?地球の事だろうか?
「では、ハズレを引かされたという事かァァ!!」
「い、遺憾ながら…」
「ぬぬぬッ!許さぁ〜んッ!!」
皇帝は再び立ち上がった。
「き、斬れッ!!斬れ斬れッ!!斬って捨てえ〜いッ!!」
俺を指差し絶叫する皇帝、その目には間違いなく殺意を宿していた。
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