第20話 新たなスキルを買うスキル。
「うニャ…。キノク〜…」
うつ伏せに寝る俺の背中の上にリーンがしがみついている。しかし、何か目的があって俺の名を呼んだ訳ではない。寝言である。
リーンは温かい場所が好きなようで寝る時は俺の体にしがみつくようにしたり、上に乗ったりしたがる。そして今はうつ伏せに寝る俺の上にいるという訳である。
「追い落とすのもかわいそうだからな…」
そのままの姿勢でいるが俺はどうにも寝付けない。猫を飼っている人に言わせれば猫あるあるだろう。しかし、ここにいるのは猫の耳がついた女の子だ。ちょっとばかし勝手が違う。
仕方なくノートパソコンを枕元に引き寄せて電源を入れた。今までは電気が通っていなかったから使いようがなかったが、今は電気が通っている。何かが映るかも知れない。例えば、地球のニュースとか…。
「地球はどうなってるのかな…」
パソコンが立ち上がるのを待つ。
『汝に新たな天啓を与えん』
「その声は…」
例の厳かな女性の声が響いた。
『新たな天啓…。その天啓の名は投資なり』
□
「ふむ…。これらを新たに得る事ができると…」
立ち上がったパソコンの画面を見て俺は呟いた。背中の上にいるリーンに起きる気配はない。猫はよく寝てるイメージがあるが、本来はリーンもそうなのかも知れない。あるいはミミックロックとの死闘のダメージは回復したが、疲労が残っているのかも知れない。
《是(肯定するという意味)。得た金銭を消費して新たな可能性を獲得する事が可能》
「それは冒険者が経験を積んで成長するようなものか?」
《是。なお、この投資を行うのはこのパソコンを通じて行われる》
「なるほどね。それでパソコンを触ったら例の声が聞こえたのか」
要は金を払ってパソコンを操作してと新たなスキルを得られるという事か…。俺は画面に映る文字を眺めた。
『配達ボックス設置 20万ゼニー』
『生鮮用配達ボックス設置 20万ゼニー』
拠点強化という項目があり、そこに表示されているのはこの二つ。拠点とはこの部屋の事か…。説明を読んでみると予想通りこの部屋に宅配ボックスが設置されるという。
ちなみにゼニーとはこの皇国の中の通貨単位だ。感覚的には1ゼニーは1円くらいの感覚に近い。このあたりは日本人としては分かりやすくてありがたい。
「ふむ、宅配ボックとは室外から物品を入れられるケースの事。受け取り側は室内から開けられるから届くのを待ってなくて良いのか。箱の大きさはスーパーのカゴ1個分?それで20万は高くねーか?そして生鮮はさらに一回り小さくなるのか、多分温度管理の為に容器内が肉厚なのかな…」
さらに説明書きを読んでみると宅配ボックスはあくまで箱の設置に過ぎない。商品を得る為には当然商品代金が必要だ。
「生鮮は生肉やお刺身なんかも買えるのか…。お刺身、食べたいな。異世界はあんまり魚は出回ってないし…。まあ、金はあるんだし…。何?月曜16時までの注文で翌日火曜日の昼には届くだとう!」
地球時間では現在月曜日の15時30分のようだ。急げば明日配達に間に合う。とりあえず俺はすぐにその二つを購入した。枕元にあった卑金貨を入れていた袋から澄んだ金属音がして少し減ったような感じがした。おそらく引き落としされたのだろう。そして俺は16時までの注文に間に合わせる為にすぐに商品購入ページを見る。
「おっ、これはトモダチソシキの注文システムか。これなら安心だ」
日本でもCMなどでよく見た企業の注文方式が異世界でも使えるとは…。これはありがたい能力だ。注文総額も1万ゼニーを少し超えたくらいだ。これで明日の昼過ぎにはこちらで食えなかった物が食える。俺は注文を完了した。
もっともお届けは毎週火曜日だけらしいから、何を選ぶかは慎重にしないと…。宅配ボックスに入る量には限りがあるんだし。
「ふふ、これで明日は生の魚が食えるな」
「うにゅー。…おさかニャ?」
もぞもぞと俺の背中に乗ったリーンが動き出した。魚という言葉の響きに反応したのだろう。
「ああ。明日になってみなきゃ分からんが多分魚が食えるぞ」
「本当かニャ!」
「もっとも週に一回、量も多くはない」
「それでも凄いニャ!洞窟に潜ったりすればそれこそ魚を手にいれる方法は無いんニャし…。でも、いったいどうやって…」
「買い物だ。金を払って商品を得る」
「ん?うニャあ〜?」
リーンがチンプンカンプンといった表情をしている。まあ、いきなり言われても分からないよな。
「そういやリーン、もう動けそうか?」
「ニャ!疲れも取れたし大丈夫ニャ!」
「それにしてもリーンが漁ってきた魚はデカかったんだな。考えてみればリーンが両手に抱えるぐらいだったんだし…。もっとも今日の夕食で全部食べきっちゃうだろうけど…」
「それなら何かとってくるニャ!」
そう言ってリーンは立ち上がった。
「おい、無理はするなよ?」
「大丈夫ニャ。それにあんまり寝過ぎても体がなまっちゃうニャ。ほらほらキノク、森に戻してくれニャ。ボク一人じゃ帰れないのニャ」
分かったよ、そう言って俺はリーンを連れ森に戻った。
「ふふん!ボクの新たなパワー、見せてやるニャ!」
そう言うとリーンは森の奥に駆けて行った。
「あー、確かに。前より素早くなった感じがする」
リーンの動きを見て俺はそんな感想を持った。窮地を脱し、死の淵から舞い戻った事でパワーアップする…どうやら本当のようだ。
「なら、俺は…」
手近な所に何か無いかと探す事にした。日の暮れ前に一稼ぎ、待ってる間に出来る事をしておこうか…。それと投資で何を獲得するか、今後の事を考えるのも良いかも知れない。そんな事を考えた矢先…。
どーん!!
ゴロゴロゴロ…。
「う、うわああああ!」
いきなり俺の視界に猪が吹っ飛んできた。
「キノク〜!さっそく獲れたニャー!!」
リーンが戻ってくる。
「お、お前!何やってんだ!」
「ニャ!?ボク、猪を見つけたから狩りを…。でもね、いつもみたいに仕掛けたらワンパンで吹っ飛んでいっちゃったのニャ。ボク、確かにパワーアップしたけど、これからは力加減が難しいのニャ」
マジですか、どんだけ強いんだリーン…。
「さあさあ、今夜はご馳走ニャ!魚も肉もあるのニャ!お腹いっぱい食べられるのニャ!」
俺の驚愕をよそにリーンは無邪気に喜んでいる。
「まあ、良いか…」
考える時間はたくさんある。それこそ夕食を食べながらでも、寝転がりながらでも。今はリーンが獲ってきた猪を捌くのが先決だ。
「ニャ!切り分けたらボクはまたおんせんに入るニャ!キノクも一緒ニャ!」
猪を切り分けるリーンの元気な声が響いた。
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これにて一章は終了です。次回をお楽しみに。




