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第60話 意地の張り合いにも負けません?




ミリリは、気にしないと言っていたけれど、ここまで激化すれば、もう放っておけない。


元々気持ちのいい話ではなかったが、限度を超えている。


幸い、ミリリはまだ来ていなかった。


こみ上げてくる当てのない怒りを押し殺して、急いでビラを剥がしはじめる。


「……ヨシュアくん、私、受付に伝えてくる」


一緒に来ていたソフィアが外へと駆け出ていったのち、俺はぎろりと待合室内の冒険者を睨みつけた。


揃って首を横へ振るが、もし犯人じゃないとしても、だ。


この状況を見て見ぬふりをする時点で、加害者に同じだろう。


一部の善良な冒険者が剥がすのを手伝ってくれる。

ソフィアが呼んできたのは、いつかの依頼人であるエルフ族のサーニャだった。


今はギルドで受付を担当している。


「ヨシュアさん、これ、なんで。朝に鍵を開けた時は普通だったのに……」

「ということは、犯人はその辺に紛れ込んでるってわけか」

「……いったい誰がやったんでしょう? ギルドとしても看過できません!」


鋭角に尖った耳をピンと伸ばして、熱くなるサーニャ。


もう自信なさげで身をもじもじ譲っていた彼女はいない。

立派にギルド職員だと感心しかけるが、そんな場合ではなかった。


「犯人探しはあとだ。とりあえず、ここを片付けよう」

「は、はいっ!」


俺たちは片付けを急ぐ。

……が、結論をいえば間に合わなかった。


待ち合わせしていた時間に少し遅れて、ミリリが姿を見せる。


部屋の半面は、まだ悪口を綴った紙で埋まっていた。


時間を巻き戻せればどれほどよかったか。

ただ、どんな魔法でも時間の流れには敵わない。


ミリリは大きく目を見開く。

俺は身体を広げて、隠そうとするが、無駄な足掻きだった。


「ヨシュ、ア……?」

「お、おはよう、ミリリ」


ぎこちない挨拶を絞り出すしかできない。


いつもならここで冗談の一つ出てくるのだが、俺の頭は真っ白になっていた。


「…………本当にこんなことになってるなんて」


しばらく固まっていた彼女の表情が、みるみるうちに崩れていく。


悲痛さの滲んだ表情に、かける言葉が見つからずにいるうち、彼女は背中を向けた。


止める間も与えてくれず走り出してしまう。


「……ヨシュアくん、追いかけて」

「お、おう」

「たぶん、うちじゃ追いつけないから。こっちはなんとかする。だからミリリのこと、お願い」


ソフィアが言うのに、サーニャも力いっぱいに頷く。


廊下へ出たところで、


「頑張ってください〜っ!!」


後ろから若干震えて、裏返ったサーニャの声がした。

面と向かっては言えないあたりは、まだまだ気弱らしい。


俺はギルドを飛び出る。


そう遠くへ行ける時間もなかったはずだが、街の喧騒に紛れてしまったようだ。


俺は、『広範探知(高)』を発動し、すぐにその居場所を掴む。


先回りして路地の角で待ち受けていたところ、


「……ヨシュア、変態っていうんだよ、そういうの。女の子を待ち伏せなんて」


いきなり辛辣な言いようである。


腕を抱えて半目で睨まれるのは、綺麗な顔だけに、なかなか堪えるものがあった。


「広範探知な。よっぽど緊急事態とか、どうしても必要な時以外はやらないようにしてるよ」

「今は違うと思うけど?」

「あんなことがあって逃げ出したんだ。十分に緊急事態だろ」

「ヨシュアには関係ないよーだっ」


ミリリは意固地になっているのか、頬を膨らませ、俺の前を通り過ぎていこうとする。


後ろをついていこうとしたら、彼女はこちらを振り返る。


「やっぱり変態だ〜、女の子をつけまわしちゃうなんて」

「……あのなぁ、これでも心配してるんだ。どこに行くつもりだよ」

「どこってそんなの…………、ど、どこでもいいじゃん!」

「決まっていないのかよ」


どうやら事態の悪化ぶりに、突発的に逃げ出してしまったようだ。


「や、宿に帰るのっ」

「じゃあ俺も行かせてくれ」

「な、な、なっ、ヨシュアってば女の子の寝屋までっ!?」

「もしかしたら狙われてるかもしれないだろー。関係ない、とは言わせないぞー。俺は犯人に心当たりもあるし」

「私だってあるもん〜、だからヨシュアは来なくていいっ!」


意固地なものである。


てんで認めようとはしてくれなかったが……、こんな堂々巡りのやりとりを繰り返すうちに、宿までやってきていた。


「ヨシュア、ここまでだよっ! 女の子の部屋には入れないんだからっ」


建物に入ったミリリは、壁に身を隠し、頭だけ覗かせて相変わらずの膨れつら。


そんな忠告をされれば、俺とてこの先には踏み込めない。


さりとて、ここで帰ってしまえるほど呑気な人間でもない。


もしかすると、俺がいなくなる隙を狙ってミリリに奇襲をかける可能性も考えられる。


深く考えるまでもなく、俺は宿の前に残ることを選んだ。


いくら本人に護衛を拒否されても、譲る気はなかった。


その場にあぐらをかいて、座り込みを決める。

側から見れば、妙な冒険者いやいや、もはやチンピラかもしれないが、しょうがない。


太陽が一番高いところを過ぎて、くだり、最後に赤く燃えて沈む。


俺はその最後を見送って、夜のとばりが降りてきても、その場に居座り続けた。


ミリリはそんな俺の様子をたまに覗きにきては、結局部屋へと戻る。

本人は気付かれていないつもりだろうが…………、ばればれだった。


こうなったらもはや、意地の比べ合いと言ってもいいかもしれない。


夜が深まっていく。


夏が近いとはいえ、日が落ちれば底冷えする空気にも無心で耐えていると、


「……もー! ヨシュアの意地っ張り! 風邪引くよっ。中入って!」


ミリリの方が先に折れてくれた。


冷え切った肩に、掛けてくれたブランケットがとても温かかった。


さて、わけを聞かねばならない。

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たかた

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