第58話 この剣があれば。
俺が選んだのは、ソフィアの元へと駆けることだった。
理由は簡単、もし襲われているのがミリリなら、きっと彼女は切り抜けられる。
先ほどの連中との手合いの中で、そう感じていた。
そして実際、その予測は当たっていたようだ。俺は再び『広範探知(高)』を利用する。
ミリリはといえば、
「あー! いたー、二人とも〜!!」
全く見当違いの場所を探し歩いていた。
その場所、ギルド裏手にあるベンチ。周りを見渡せば、こうなんというべきか絡まり合っている男女のつがいがわんさか。
……いや、なんでここにいると思ったんだよ。
「もー探したよ。急にいなくなっちゃうから心配したんだよっー?」
「そうだとしても、こんなところにこないっつの」
「いやぁそう思ったよ? でもさ時間を忘れるくらい熱中するものってなにかなぁと思ったら、これだ! ってなってね!
もしかしたら我を忘れて獣みたいにイチャイチャしてるのかもって!」
「してないし! というか、その辺でやめとけ? な?」
一切隠すことのない、太陽の笑みを見せるが、周りの空気はおかげで最悪だ。
その場にいた男女全員から、疎ましげな視線が注がれる。
ソフィアはといえば、なぜか、ぽっと頬を染めていた。絶対そんな場面じゃないと思うんだが?
「というか、ヨシュア! 今思い出した! そうだ、試合だよ! 試合! もう始まってるのに出てこないから、私探しにきたんだよ、そういえば」
「………………あ」
いけない、完全に失念していた。
「まぁしょうがないよ。別に、また昇格試験なんて何回でも受けられるし」
「まだ間に合うよ」
「いや、始まってるならもう無理だろ」
定刻を過ぎて五分以内に入場がなければ、相手の不戦勝になる。
たしか、そんな規定があったはずだ。
「最終戦の相手、誰だか覚えてないの? 必死に、試合開始時間を遅らせてくれてたよ。モニカさん」
「…………え?」
「とにかく、早く行くのっ! ヨシュアなら、スキルを使って空からでも入場できるでしょ? そんで、登場とともにばーんと周りから火の柱が上がるの」
いや、それは無理なんだけどね? しかもなにその小物感。
でも、そういうことなら、まごついてはいられない。
「ヨシュアくん、頑張って」「ヨシュアなら勝てるよっ! そりゃあモニカさんも応援するけど、でももっと応援しちゃうからっ!」
二人がこう送り出してくれる。
一番力の出るエールを受け取って、俺は試合会場へと向かうのだった。
♢
「冒険者ヨシュア・エンリケを失格としーーーー」
と、ここまでは聞こえた。
不戦敗の宣告がなされようとするまさにその時。俺は場内へと飛び込んだ。
野次やらの聞こえてきていた観客席が、一瞬しんとし静まり返る。それかや、にわかにわき立った。
「あぁ出てきたぜ、秒速で敵を仕留めた男!」
「よっしゃっ、俺はあ前の勝ちに賭けてんだ! いけ!」
……第一戦、二戦のせいで、かなり注目を集めてしまったらしい。
あぁ、これじゃあ目立ちまくりだ……。たぶん悪目立ちというやつ。
せめても、だ。振る舞いはきちんとしよう。
俺は審判団たちに丁寧に頭を下げてから、定位置に立った。
そして、対戦相手にもお辞儀をする。
「ごめんなさい、モニカさん。遅れてしまって」
「ヨシュアさん、気にしなくていいよ〜。むしろ、こんなんで君に勝っても仕方ないから、待ちたかったんだ」
「……ありがとうございます」
鞭を手元で遊ばせて、彼女は気安い調子で首を振る。
「ずーっと楽しみにしてたよ、師匠とやりあうの」
「俺は師匠なんて玉じゃないですって」
「十分、そんな玉だよ。君が特訓つけてくれなかったら、あたしここにいないわけだし。
でも、手加減はしないよ〜。この鞭で、君という玉転がしてあげる♡」
ちろっと出した舌先で、鞭の先を舐めてウインクを決めるモニカさん。
……いや、違う意味に捉えちゃうからやめて?
実際、観客席からは欲望に満ち満ちた野太い声が漏れてきてるし。
でもまぁ手加減をしないというのは、こっちも同じだ。
モニカさんが本気でくる以上、仲間だからって関係ない。
ここにあるのは、勝負だ。
俺は懐の剣に手をかけて、開始の合図を待つ。審判の掲げたフラッグが下された瞬間、飛び出した。
♢
ーーーー結果は、上々のものだった。
全戦全勝。
個人戦の戦績、戦いぶりから付けられる評価は、堂々の一位を獲得。過去一番の成績だったらしい。
あまりの圧倒っぷりだったようで、
「もう君には、傭兵団の団長になってもらいたい! 屋敷も支度金も国が用意する! だから、頼むっ!!」
表彰の場で、記念の楯をくれたお偉いさんから、思わぬ勧誘を受けた。
……そういえば、ローズさんが、傭兵のスカウトが訪れていると言っていたっけ。
もちろん、ぺーぺーのCランク冒険者からすれば大躍進となる案件だ。
その場にいた誰もに羨ましがられたのだが、
「勘弁してくださいよ。俺はそういうのは向いていないので」
俺は断りを入れた。
「な、なぜだ? わからない。君の仲間たちも高待遇で迎え入れてもいいんだぞ?」
「だから結構です。今は、少しの仲間とこの剣があれば十分です」
俺の言葉に、同じくAランクに上がったモニカさんだけがくすりと笑う。
楯だけは、ありがたく受け取ることにした。
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たかた




