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File96 首都惑星ヴォルダルへの貨物輸送からの災難③ エリートにも、苦悩と苦労がある

お待たせいたしました

今回、主人公は出ません!

ご了承下さい


タイトルのミスを修正いたしました

視点変換 ◇レストレイド・リュオウ◇


ショウンの奴を説得し、ヴォルダル宇宙港(ポート)内部の警察署の留置場に入ってもらった。

あいつが爆弾テロを企てるはずがないし、何より自分の船を爆破するはずがない。

幸い前回と違い、ローンを払い終えていたのが幸いか。

俺は署の建物をでると、横にいたラツィムに声をかける。

「さっきの警官たちに尾行はつけたな?」

「はい。バッチリだそうです」

「報酬なりなんなりで依頼人と接触するだろうからな。監視を怠るな。署の方も監視するように伝えてくれ」

「了解しました」

ラツィムは俺の指示を聞き、立体投影型板状端末(ホロ・タブレット)で迅速に部下達に連絡をまわしてくれる。

そして署の駐車場に向かうと、留めてあった車に細工がしていないかチェックし

「では、俺達の仕事をしに行くぞ」

「どちらへ?」

「スターフライト社の本社ビルだ。メイ・ダイムルの所在を確認してくれ」

「わかりました」

惑星上に降りるために、軌道エレベーターに向かうことにする。

私は車は自分で運転する(たち)なので、ラツィムは助手席に座らせる。

立体投影型板状端末(ホロ・タブレット)で情報のやり取りや検索をして貰うのにも、その方が都合がいい。


惑星ヴォルダル・星都ニルンにあるビルフス(タウン)

首都ヴォルダルでも有名な企業の本社や支社が立ち並ぶ町で、共和国の経済の中心だ。

ここに、スターフライト社の本社ビルがある。

共和国の黎明期からあるらしい、老舗の物流企業ではあるが、その事実にあぐらをかいていたせいか、ここ70年ほど前から色々と(ほころ)びが出始めた。

社員の待遇や、社内でのセクハラ・パワハラ。

事故や災害の時の対応、頻発する前からあったストライキやサボタージュなど数限りない。

その挙げ句が、インフラ請負からの解約だ。

まあ、最近の業務形態を見れば、だれでも簡単に納得する事だ。

「大きなビルですねー」

そして、屋台骨が危ないと言われていたとしても、その事と立てられているビルには何の関係もない。

「物流業界の老舗だからな。それからお前、女になっといてくれ。相手はプライドの高い大企業のお嬢さんだからな。セクハラだのなんだのと言われてはたまらん」

「了解しました」

ラツィムは女性に変身すると、ジャケットの前を開けてシャツの胸部分を強調し、自分が女性であるとアピールする。

こうすれば、セクハラを捏造してきたりした場合に、男である俺の無実を証明してくれる証人になるわけだ。


社内へ入ると、受付があったのでそちらへ向かう。

別に逮捕にきたわけではないので、受付に話を通しにいく。

「いらっしゃいませ。ようこそスターフライト社へ。アポイントメントはお取りですか?」

受付嬢は、あからさまに残念そうな表情をうかべ、さらにはラツィムをみて舌打ちまでする始末だった。

これでは会社の程度が知れる。

「仕事柄アポを取るわけにはいかないものでね。常務のメイ・ダイムルさんにちょっとお話を伺いたい。ああ、彼女が今社内にいるのは確認ずみだ」

そう言ってGCPOのバッジを見せると、

「かっかしこまりました!少々お待ちくださいっ!」

急に態度を改め、内線をかけた。


そうして俺達が通されたのは、『第3執務室』のプレートがかけられた部屋だった。

「初めまして。私がメイ・ダイムルです」

俺達のお目当て、メイ・ダイムルは、年齢は26。

モデルとはいかないまでも、なかなかの美人。

国立ヴォルダル大学を卒業し、そのまま常務の職についたダイムル家の長女だ。

てっきりバカンスに行くような派手な(よそお)いでもしているかと思ったが、意外にも落ち着いた感じのスーツをきっちりと着こなしていた。

「GCPOのレストレイド・リュオウと申します。こっちは部下の」

「アーデント・ラツィムです」

バッジを見せて身分をさらしたのち、進められてからソファーに座る。

そうして、彼女が座ると同時に、核心の質問をする。

「それで、何のお話ですか?」

「いま、貴女の指導で人材のスカウトをしているそうですな?社内での統一すらまだだというのに」

「ええ。母や兄のせいでガタついているこの会社を再生するべく、優秀な人材を集めています。

社内の現状については耳の痛いところですが、そうでもしないと危ないのです」

「なるほど。しかしその集め方に、少々問題があるようですな」

俺は少し意地悪な聞き方をしてみる。

「それも伺っています。ですが、その一連の事件は、我が社の社員の仕業ではありません。おそらくライバル会社のどこかが、我が社の評判を落とすために仕組んでいるのでしょう」

しかし彼女は動揺することなく、むしろ憤りをみせながら、淀みなく答えた。

俺はそこに、さらに意地悪く畳み掛ける。

「それにしては、スカウトにきていた連中は内情に詳しかったようですが?」

「社員の中に、内情を売ったものがいるんでしょう。おそらく母の派閥に入らされて、色々苦しめられた人達でしょう」

顔に更なる憤りがみえる。

「お母上とは、あまり関係が良くないようですな」

「あの人は…会社を維持させるとかは一切頭の中にないわ。当然ね。ダイムル一族の娘として、我が儘放題に育って来たんだから。

会社の経営も入婿の父に丸投げしている癖に、利益を出せ利益を出せって横槍をいれるの。

経営学なんかろくに習ってもいないくせに」

どうやら母親との確執はかなり根深いらしい。

彼女の母親、エルカ・ダイムル女史は、娘と同じく国立ヴォルダル大学を卒業し、特に経営学では優秀な成績を残している。

にもかかわらず、『経営学なんかろくに習ってもいないくせに』とはどういうことだ?

「しかし、エルカ・ダイムル女史は、大学時代に経営学で優秀な成績を残しているはずですよね?」

ラツィムも気になったらしく、思いきって尋ねた。

「教授と大学にお金を積んだのよ。同じ大学でその教授本人から聞いたから本当よ。授業はロクに出ず、レポート用紙の代わりに札束。当時教授は新参で、当時の学長と、まだ存命していた祖母の圧力に逆らえなかったらしいわ」

すると彼女は、なかなかのスキャンダルを話してくれた。

今のような状況でないなら、絶対にでてこない話だろう。

さらに彼女は続ける。

「それに、母は私と兄を育ててはいないの。

私と兄は、父と使用人達に育てられた。

母は、兄を産んだ後も私を産んだ後も、子育ては一切しなかった!

それでも、仕事を頑張り、私達や社員の人達のために、仕事で飛び回ってたなら我慢もできたと思うわ。でも違った。

母は秘書(あいじん)とのバカンス目的と、支社の社員たちに頭を下げさせたり、怒鳴り散らしたりして優越感を味わうためだけに飛び回ってたのよ。

しないといけない仕事は全部父に押し付けてね!

だから私はああならないように必死に努力したわ!」

彼女は溜まっていたうっぷんを吐き出し、荒くなった呼吸を整えてからこちらに向き直った。

「ごめんなさい。つい愚痴を言っちゃったわ。GCPOの人なら秘密にしてくれるわよね?」

「経営者一族というのは大変ですな」

どうやら相当に闇が深そうだ。

まあ、彼女の名誉のためにも、そしてGCPOの人間としても、この愚痴は聞かなかったことにしておこう。

すると彼女の汎用端末(ツール)からアラームが鳴った。

「ごめんなさい。そろそろ人と会う約束があるので。よろしいかしら?」

「ええ。お時間をいただきました。失礼します」

俺はソファーから腰をあげ、『第3執務室』を後にした。


帰りの車の中で、ラツィムが不満げな表情で話しかけてきた。

「あっさり引き下がってよかったんですか?」

「本人の指示が2割・母親の策略が4割・社外からの工作が4割ってとこだな」

「彼女の線は薄いと?」

「母親のエルカ・ダイムルは、自己中心的でプライドが高い。自分に逆らった相手には、自分の子供ですら容赦はなさそうだからな。やりかねんということなら確率が高い。もちろんメイ・ダイムルが主犯である可能性もあるしな。あの愚痴や、母親憎しの態度が演技の可能性がないわけじゃないからな」

「なんだか複雑ですね」

ラツィムはとりあえずは納得したのか、軽く息をつき、さっきの会話を録音したデータを記憶媒体(メモリー)に落とし込みはじめた。

それにしても、ラツィムの奴は短期間で随分と頼もしくなったものだ。

シュメール人特有の中性的な外見に似合わず、大の男を軽く殴り飛ばせる実力もあれば、機転のきく頭のよさもある。

押し付けられた当初は不安だったが、意外にも有能な人材だった。

偏見かもしれんが、ショウンといいラツィムといい、シュメール人は何かにおいて、才を発揮する連中が多いのだろうか。

しかしラツィムの奴は、いつまで女の姿をしてるんだ?

せめてジャケットの前は閉めて欲しいものだ。


視点終了

警部は仕事一筋で、ずっと独身です。


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― 新着の感想 ―
[一言] お家騒動に巻き込まれた感が強まってきましたね…ショウンの怒りと賠償の矛先はどちらになるのやら… それとは別に、ラツィム氏もやはり宝◯歌劇団みたいなイケジョなのだろうか?
[一言] お家騒動とかになるんですかねえ あちこちから手を突っ込まれながら とはいえ、一方からの証言だけでは まだ何も言えませんな つか、しばらく続くんですかね、このモード?
[一言] >>偏見かもしれんが、ショウンといいラツィムといい、シュメール人は何かにおいて、才を発揮する連中が多いのだろうか。 辺境で生き残るために進化した人種ですからねぇ 何かしらの一芸に秀でていて…
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