File94 首都惑星ヴォルダルへの貨物輸送からの災難① 嫌な予感だけはよく当たる
お待たせいたしました
食事会の翌朝。
そろそろ仕事を受けるために貨物配達受付へ向かった。
「やあショウン。昨日は結局なんだったのさ?」
すると、ササラが意地の悪い顔をしながら詰めよってきた。
レイアナは以前から交流がある上に、子供なのもあって問題にはならないだろうが、フォトンクラウド社CEOのファルナ・ジョルカストが関わると、様子が変わってくる。が、
「メシをたかられた上に勧誘されただけだ」
そう答えると、ササラの表情はあからさまにだらけていき、
「あの御嬢様が関わる、いつものことかあ」
レイアナが何度かこういう呼び出しをしてくれていたためか、あっさりと流してもらえた。
実際それだけだから、なんの問題もないわけだが。
そうして首都ヴォルダル行きの仕事を受けると、その日の正午には、オルランゲアを出発した。
最近は、軍やGCPOが見回りを強化しているためか、首都周辺の海賊の出現率は下がっているらしく、ヴォルダル到着までの3日間は、一切の問題なく移動することができた。
到着後、無事荷物を引き渡し、貨物配達受付で報酬を受け取った直後に、スーツを着たサラリーマン風の男に声を掛けられた。
「失礼。貴方がショウン・ライアットさんでしょうか?」
「はい。そうですが?」
否定してやろうとも思ったが、受付でのやり取りを見聞きして、名前を確認してから声をかけたのだろうから、否定しないでおいた。
「実は私はこういう者でして」
サラリーマン風の男の差し出してきた名刺には、
『株式会社スターフライト社人事部第13課課長ヘンリー・タダヤマ』と、書いてあった。
「スターフライト社の方が、俺みたいな個人の貨物輸送業者になんの御用で?」
はっきりいって謎だ。
ライフライン維持企業から外されたとはいえ、相当な資産もある大企業が、俺みたいな個人業者に声をかけてくる意味がわからない。
ともかく話を聞いてくれというので、近くの喫茶店に向かった。
適当にコーヒーを注文し、店員が下がっていくと、ヘンリー・タダヤマ氏は即座に話を始めた。
「貨物輸送業者の皆様の、昨今の我が社へのお怒りは十分承知しております。
しかしあれには、社員達も甚だ迷惑しているのですよ。
なにしろ我が社の経営は、社長のダイムル一族が牛耳っていまして、その一族内の争いが、昨今の様々なトラブルの原因なのです。
まずは夫で副社長のウィルソン・ダイムルは、古き良き我が社の風潮を取り戻そうとしていますが、なにしろ入婿なので立場も発言も弱いのです。
妻で社長のエルカ・ダイムルは、とにかく利益を追及する人物です。もっとも、それが社員に還元されることはまずありませんが…。
息子で専務のブルース・ダイムルは、母親のやり方に反発し、社内改革を立ち上げたのはよかったのですが、まずは母親の影響を削ぐためだといい、ストライキを何度も実行させています」
そいつか!
そいつが俺達に何度も何度もタダ働きをさせた張本人か!
顔すらしらないが、初対面で殴れる自信がある。
多分、被害を受けた貨物輸送業者達も同じ気持ちだろう。
「最後は娘で常務のメイ・ダイムルですが、彼女はライフラインからの撤退前から、高級路線への変更を掲げていて、ライフラインからの撤退後はそちらへのシフトチェンジを推し進めています。
さらには、社内の一部の改革派閥が、ダイムル一族を排斥すべく動いているらしいとの噂もあるのです」
ヘンリー・タダヤマ氏が語った内容は、ゴシップ誌の記者なら喜んで食いつく内容だが、貨物輸送業者の俺に聞かせる内容ではない。
まあ、関係のない外部の人間になら、内情の愚痴を言っても大丈夫だと思ったのだろう。
「それで?本題はなんでしょう?」
そしてもちろん、俺に愚痴を聞いて欲しいために、声をかけてきた訳ではないだろう。
すると、ヘンリー・タダヤマ氏は佇まいを直し、
「はい。実は私はそのメイ・ダイムルの命を受け、高級路線を発展させることの出来る人材の発掘をしているのです。
ショウン・ライアットさん。銀河ミルトシュランテに、名前は載らないまでも紹介された貴方の料理の腕を、我が社が新しく竣工予定の豪華客船でふるっていただけませんか?
もちろん、船内レストランの一店舗の責任者の地位をお約束いたします。
男の時なら女性に、女の時なら男性に人気がでるでしょう。
給与の方もかなりの高給をお約束いたします。
何卒ご承知いただけませんでしょうか?」
真剣な表情で、本来の要件を伝えてきた。
「申し訳ありませんがお断りします。今のところ貨物輸送業者を辞める気はありません。それに俺の料理はあくまでも趣味の延長、お客さんにだす必要があるからだしてるだけですから」
もちろんだが、あまり間をあけずに丁重に断りをいれた。
その返答に、ヘンリー・タダヤマ氏は残念そうにため息をつき、
「そうですか…それは残念です。ですが、もしお心変わりすることがあったり、お心変わりしなければならない事があったら、是非ともご連絡を」
そういって伝票をもっていき、店を後にしていった。俺も残ったコーヒーを飲み干すと、すぐに店を後にした。
この勧誘、断るのは当然なのだが、それ以上に何かヤバいとも思った。
内部で対立している状態にも関わらず、プロジェクトを始めようとしていること。
俺の名前はもちろん、俺の記事を書いたアラデラ・ウェンズ女史の名前も写真も、ミルトシュランテのホームページには載っていなかったはず。
なのにどうして俺の顔と名前を知っているのか?
名前は、大企業の名前でミルトシュランテの編集部に圧力をかけて聞き出しでもしたんだろう。
その後は銀河貨物輸送業者組合に船名を問い合わせたってところか。
しかも俺に査問やペナルティが来てないってことは、親切にされたのでお礼が言いたいとかの理由を付けたんだろう。
そして何より怪しくヤバいと思ったのは、ヘンリー・タダヤマ氏の雰囲気が、あの胡散臭さしかなかったちっちゃいおっさん、ニゼー・コギアに酷似していたからだ。
顔や体格や服装や髪型、言葉遣いこそ全く違うが、間違いなくあの胡散臭いおっさんの空気がそこにあったからだ。
まあ、それがなかったとしても断っていたのは間違いないが。
取り敢えず、サンライトイエローリップルで食事をする前に、船のチェックだけでもと思い、停泊地にもどり、そこの扉に近付いた瞬間、かなりな爆発音と共に、その扉が吹き飛んだ。
同時に衝撃波に襲われ、吹き飛ばされた後、床に叩き付けられた。
即座に警報が鳴り響き、周辺には火の手があがった。
そして直ぐに防火装置が作動し、現れた噴射口から消火剤が一気に噴射される。
しばらくの間消火剤が噴射されて消火が確認されると、消火剤を吸引するドロイドが姿を表し、床や壁や天井にぶちまけられた消火剤を吸引し始めた。
床に叩き付けられた痛みに耐えながら、停泊地に入ると、
エンジン部分が大きく破壊され、
明らかに船体に歪みが生じ、
周辺の破壊された停泊地の施設同様に、炎での焼け焦げと消火剤にまみれた、
『ホワイトカーゴⅡ』の有り様だった。
ヘンリー・タダヤマ氏は、
ニゼー・コギア氏とはなんの繋がりもありません。
ニゼー・コギア氏は、現在でも刑務所コロニーに収監されています
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