File89 惑星オルランゲアでの休日② お眼鏡にかなうというのは、つまりはその人の匙加減
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視点変換継続 ◇デニス・エンビルトン◇
船が見たいという婆ちゃんの要望に、
「そんなに面白いものではないと思いますが…。良いですよ」
ショウンの奴は、俺の心配など気にもせず、婆ちゃんを船に案内することを決めた。
よく考えれば、ショウンの船は貨客船だから、船に人を入れるのに抵抗はないよな。
喫茶店を出てから、婆ちゃんのことを考えて移動板に乗って停泊地に向かう事になった。
婆ちゃんは、初めて見るらしい貨物用ターミナルの内部を見て、物珍し気に視線を動かしていた。
そうしている内に、ショウンの船を係留してある停泊地に到着した。
「まあ、綺麗な船ね!」
ショウンの船を見た婆ちゃんの最初の言葉がこれだった。
ショウンの船『ホワイトカーゴⅡ』は、下部貨物室型輸送貨客船というタイプで、中古とはいえ、要人を輸送するための用途に使用していたものらしく、外観がなかなかにスタイリッシュなうえに、ショウンの運転が丁寧なのもあって傷もなく、何より真っ白なのが、より綺麗に見せていた。
「中古品を丁寧に使っているだけです」
「がさつに使うよりはいいわ。さっそく中をみせてもらっていいかしら?」
「はい。じゃあこちらへ」
ショウンは、直接ラウンジに入れるタラップの掛けてある入り口に、婆ちゃんを誘導した。
そうして船内に入ると、
「貨物船…なのよね?」
「正しくは貨客船です」
婆ちゃんは、ショウンの船『ホワイトカーゴⅡ』の船内を見てかなり驚いていた。
お客を乗せるのだから、綺麗にしてあるのは当然だろうが、軽く花が花瓶に飾ってあったり、ソファーにシーツカバーがしてあったりと、もてなしに気を使っている感じがした。
普段はやってないのにな。
「ここはお客さんを乗せる為のラウンジです。寝室は奥に2部屋だけですが、このソファーがベッドになるので、もう2人ぐらいは睡眠を取れます」
婆ちゃんは、ショウンの説明を聴きながら、あちこちをチェックし、窓枠を指でなぞったりしていた。
あれだ!姑が嫁をイビる時にするやつだ!
残念ながらホコリはなかったらしく、婆ちゃんは少し感心したような表情をすると、次を要求した。
「まあ、お客様をのせるところは綺麗にしてあるものよね。貴女のお部屋はあるのかしら?」
「その螺旋階段の上です」
船長室になるのだから渋るかと思ったが、ショウンはあっさりと許可を出した。
航行中では無いのと、『恋人の祖母』というのと、本人の性格もあるのだろう。
人によっては、停泊中でも船長室に入られるのを嫌うのもいるから、入るのを許可したのは、本人の性格だろう。
ちなみにショウンの部屋は、
ベッドにクローゼットに書棚にデスクに椅子。
チェストにテレビに小さな冷蔵庫。
運動用の器具がいくつかという、実にシンプルな部屋だ。
「綺麗にしてあるけど…女性としては可愛らしさがないわね」
「祖父の影響かもしれません。余計なものは置かない人だったので…」
船だということもあり、それ以上怪しまれることはなかったが、雰囲気が女性の部屋で無いのは間違いない。
基本性別が女性、もしくは基本性別が男性でも、女性になるつもりなら、やはり女性らしさ?が全面にでてくるのだろうが、ショウンの場合はそれがない。
よく考えれば、シュメール人なんだから基本性別が男っていってもよかったんじゃないか?
くそっ!ショウンが提案した時にもう少しよく考えればよかった!
俺がそんな後悔をしているうちに、2人は階下にいってしまった。
慌て追いかけると、2人は厨房にいた。
「立派なキッチンなのね」
「お客さんに出すのもありますし、趣味というか、ちょっと悪い言い方をすれば航海中の暇潰しでもあるんです」
正直、この船のキッチンはそれなりの飲食店の厨房と全く変わらない。
設置の時に、色々こだわっていたのをよく覚えている。
それだけに、
「料理上手なんだぜ、ショウンは」
と、呟いてしまった。
これは間違いなく真実だ。
食わせてもらったことがあるし、受付嬢の連中がわいわい言ってるのも聞いたことがあるしな。
その俺の言葉を聞いた婆ちゃんは、眼をキラリと光らせた。
しまった!ミスった!
さっさと終わらせて帰ってもらう予定だったのに!
しかも昼時だったのが不味かった…。
「あら。じゃあ是非ともいただいてみたいわ。ちょうどお昼も近いし」
ああ、婆ちゃんの眼が値踏みモードになっちまった…。
「少しかかりますがよろしいですか?」
「ええ。こちらが急にお願いしたんだもの」
「じゃあ、ラウンジで少々お待ち下さい」
ショウンは婆ちゃんにそういうと、さっそく調理の準備をはじめた。
俺は、婆ちゃんがラウンジのソファーに座ったのを確認すると、すぐに厨房に入り、自分の失言を詫びた。
「すまん。すぐに帰すつもりだったのにこんなことになっちまって…」
「まあ、こうなるだろうと思って、仕込みはしておいたから大丈夫だ」
しかしショウンは気にした様子はなく、手際よく調理を開始した。
「ほれ。邪魔だから向こうでまっててくれ」
「あっああ…」
俺を追い出した厨房からは、何かの焼ける匂いが漂ってきた。
それから10分ほどして運ばれてきた料理は
チキンのパエリア
コンソメスープ
スパニッシュオムレツ
エビのアヒージョ
クレームブリュレ
というメニューだった。
「お客様に出すだけはあるわね。素晴らしいわ!」
婆ちゃんは、色々チェックをしながら食べはじめたが、にこにこしながら絶賛しはじめた。
俺もいただくが、相変わらず旨い。
はっきりいって、どっかのレストラン並みだ。
ショウンの知り合い達が、飲食店をしたらどうだと迫る理由がよくわかる。
婆ちゃんは、味に文句をつけることなく、デザートのクレームブリュレまでペロリと平らげた。
そして、食後のコーヒーを飲みながら、ゆっくりと口を開いた。
「それにしても、お部屋も綺麗でお料理も上手。家事全般がお得意のようね。お母様の教育がよかったのね」
「恐れいります」
どうやらショウンは婆ちゃんのお眼鏡に叶ったらしい。
「ところで、うちの孫のどこがきにいったのかしら?まあ、顔はそんなに悪くないとはおもうのよ?でも、普段から機械油まみれで服装のセンスもあまり良くないでしょう?気の利いた会話もできそうにないし…」
しかし、そこからいきなりの俺ディスりは無いと思う。
ショウンは少し苦笑いをした後、
「最初は普通に整備士としてお世話になってました。
その後に、私が色々病気をしたり悩んだりした時に、励ましてもらったりしたので…
それに、私も普段から仕事着ですし、気の利いた会話を喜ぶ質でもありませんから」
その婆ちゃんの言葉に、ショウンは淀みなく答えた。
本当にあったことだし、男友達に服装や気の利いた会話は必要ないからな。
しかし、今のショウンの姿にそれを言われると、なんとなく恥ずかしくなってくる。
「なるほど。馬があうという感じなのかしらね」
婆ちゃんはなにをどう納得したのか、嬉しそうな顔をしていた。
なので、いまのタイミングだと思い、婆ちゃんに思いの丈をぶちまけることにした。
「婆ちゃん。俺に彼女がいるのがわかって、お眼鏡にかなったんだろ?だからもう見合いは持ってこないでくれないかな?前にも言ったけど、婆ちゃんが選んでくる相手の人は、俺の苦手なタイプばかりなんだよ!」
俺はこれ以上ないくらい真剣に訴えた。
また今までと同じように、軽くかわされるかもと思いながら。
しかし、今回は違った。
「そうねえ。考えておくわ」
婆ちゃんは、眼を伏せ、真剣な様子で返事を返してきた。
視点終了
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