File88 惑星オルランゲアでの休日① 大きな会社や組織、一定の地域には必ずいるありがた迷惑な人
お待たせいたさました
惑星ソアクルを出発した翌日の夕方、無事に惑星オルランゲアに到着した。
管制官のコビーの惚気話をかわしながら停泊地に船を泊め、貨物配達受付に向かおうとしたところ、いつも世話になっている整備士のデニスがやってきた。
しかし、いつもと違って、なにやら深刻そうな表情をしていた。
「よう。どうしたんだデニス?深刻そうな顔して」
「ショウン。お前を見込んで頼みがある」
「なんだよいきなり?」
デニスは真剣な表情で俺を見つめ、いきなり土下座を敢行してきた。
「たのむ!明日一日でいいから、女になって俺の恋人になってくれ!」
「は?」
一瞬なにを言われているか分からなかったが、殴っても良いだろうなとは思った。
さすがに停泊地では落ち着いて話ができないので、フードコートではなく、喫茶店で話を聞く事にした。
「実は、少し前に、婆ちゃんからまた見合いの話がきてさ、それを断るために、彼女ができたから嫌だっていったんだよ。そしたらチェックに来るって…」
「だったら正直にいったらどうだ?もう見合いはしたくないって」
デニスの奴が何回も見合いをしていたのは驚いたが、嫌なら断ればいいだけの話だ。
「言ったよ!でも婆ちゃんは見合いを仕切るのが趣味でさ、話を聞いてくれないんだよ…。おまけに、全部の見合いを俺の方から断った事で意地になってるみたいで…」
「あー。いるよなそういう人…」
実はその手の人が貨物輸送業者組合内にも存在し、独身は男女問わず声をかけられているらしい。
だが、それを回避するだけなら、なにも俺に頼むことはない。
「だったら。そういうことは恋人に頼めばいいだろう」
「彼女なんかいねえよ」
「じゃあ同僚とか受付嬢とか…」
「全員断られた」
「じゃあ知り合いの女性トランスポーターに…」
「それも駄目だったよ。
キャロライン・ウィルソンは〆切がーって、訳の分からない事を言われて相手にされなかったし。
アルニー・エスフォルは、婆ちゃんが金にだらしないのは嫌いだからアウト。
天使の宅配便は引き受けてくれるはずがない。
他にも色々頼んだけど、断られたんだ!
たのむ!助けてくれ!もうお前しかいないんだ!」
「でもなあ…」
こいつはそんなに悪い奴じゃないし、顔だって悪くはない。
1人ぐらい引き受けるのが居そうなんだけどな。
そこに、デニスが取引を持ちかけてきた。
「引き受けてくれたら、オーバーホール3回分タダで引き受けるからさ!」
俺の船のオーバーホールは、大体1回40万クレジットが相場だ。
それを3回、120万クレジットがタダというのは悪くはないが、ここは無茶振りして断るか。
「5回なら引き受けてやる」
1回40万×5回、しめて200万クレジット。
これなら諦めるだろうと思ったのだが、
「わかった!お願いする!」
あっさりと話を飲んできた。
「えっ?おい!結構な額になるんだけどいいのか?」
「ああ。見合いをさせられるよりはずっとマシだ!」
表情から、本気で言っているのは間違いない。
それにしてもなんでこんなに嫌がるんだ?
相手によってはばっちり好みだったりすることもあるだろうに。
「なんでそこまでいやがるんだよ?」
なので、そのあたりを尋ねたところ、
「婆ちゃんの見つけてくる見合い相手って、みんな気が強くてさ。それだけならいいんだけど、明らかにこっちを見下してる感が強いんだよ。何て言うか、召し使いを見てる感じ?その事を婆ちゃんに話しても、『あんないいお嬢さんがそんなわけないでしょう?』って感じで信用してくれないんだ。自分の見る眼に間違いはないって…」
絶望の縁に立たされたような表情で、魂から絞り出すような声で、理由を話してくれた。
多分そのお嬢さん達は、医者だの弁護士だの実業家だのを期待していたんだろう。
だから、婆ちゃんの前とこいつの前とで、態度を変えていたんだろうな。
「それで、本当に引き受けてくれるのか?」
そして、デニスが改めて俺の意思を確かめてくる。
「ああ、その代わり契約書は書いてもらう」
そのあたりはしっかりさせてもらう。
まあ、形だけみたいなものだが、そのぐらいの覚悟はしてほしい。
「そこまでするのかよ?!」
驚きながらも、デニスはしっかりと契約書を書いてくれた。
ともかく、引き受けて報酬を貰うからには、しっかりやらないといけない。
「それで。口裏を合わせないといけないことはあるのか?」
出逢いだの、エピソードがあるだの、職業がなんだと話を盛っていたら、その辺を合わせないといけないのだが、
「いや、彼女が居るとだけしか」
「なら事実そのままでいいだろ。変えるのは俺の基本性別が女だって言えばいいだけだ」
どうやらその心配はなさそうだ。
翌日の午前中。
新しく就航された、フォトンクラウド社の定期便に乗り、デニスの婆ちゃんがやってきた。
小柄で、足腰もしっかりしていて、若い頃は美人だったのだろうと思ってしまう、品の良さそうな人物だった。
「直接会うのは久しぶりだねデニス。最後に会ったのは、前の見合いのときだったね」
と、思ったが、なかなか食えない感じだ。
「そうだね…。久しぶり婆ちゃん」
デニスの顔にはかなりの緊張が見て取れる。
「それで。そっちのお嬢さんは?」
デニスの婆ちゃんが、俺に視線を向けてくる。
「あ、紹介するよ。いま俺が付き合ってるショウン・ライアット。シュメール人だよ」
「初めまして。ショウン・ライアットと申します。基本性別は女性です」
デニスの紹介に続けて挨拶をする。
もちろんちゃんと女の姿だ。
「初めまして。デニスの祖母のナターシャ・エンビルトンと申します」
それに対して、デニスの婆ちゃん=ナターシャさんも、丁寧に挨拶を返してきた。
視点変換 ◇デニス・エンビルトン◇
どうやらショウンの印象は悪くないみたいだ。
まあ、あれだけの美人ならそりゃあ印象は良いだろう。
ともかく近くにある喫茶店に入って話をしよう。
早く納得してもらって、早く帰ってもらうことにこしたことはない。
喫茶店に入り、席に座ると同時に、婆ちゃんが口を開いてきた。
「ところでライアットさん。ご職業は?」
「貨物輸送業者をやってます」
「失礼だけど最終学歴は?」
「中学です。2年生の時に両親が他界して、卒業後はトランスポーターだった祖父の仕事を手伝っていました。その祖父も2年程前に亡くなりましたが」
「あら。なかなかご苦労なさったのね」
やっぱり値踏みをしてきた。
とはいえ、学歴や職業や種族で人を差別するような人じゃないはずだから、大丈夫なはずだ。
恋人じゃないってことと、基本性別が女性じゃないってことを除けば、ショウンは十分合格ラインのはずだ。
そこに、婆ちゃんがとんでもないことを言ってきた。
「ライアットさん。貴女、貨物輸送業者というなら船をお持ちよね?良ければ船を見せてくださる?」
いくら恋人役を引き受けてくれたからといって、そこまで踏み込むのはヤバイ。
「ちょっと婆ちゃん!いきなりなに言ってるんだよ!いきなり行ったら失礼だろ!」
「なにいってるの、貨物輸送業者の人にとっては、船は家と同じときいたわ。家が綺麗かどうかで、その人となりがわかるものよ」
駄目だ。
こうなった婆ちゃんは、絶対に引き下がらない。
すまないショウン。断るなら自分で頼む。
宇宙航行法でもなんでも持ちだしてくれてかまわないから!
視点変換継続
カップルを作ることに命をかけている人がいるんですよ…
最近ならリモートやオンラインお見合いでしょうか?
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