File82 惑星キストリーデへの貨物輸送① 都市伝説は、科学が進んでも無くならない
お待たせいたしました
ホーゼンのおっさんの所で料理をし、ベンを撃ちのめした翌日。
受付嬢から提示された依頼をみて、思わず唸ってしまった。
「う~ん…ここまでとはな…」
その理由は、依頼の殆どが俺の船では運べない依頼ばかりだったからだ。
この惑星ミンツトレニスは、重化学工業・造船・精密機械といった生産がメインのため、どうしても超重量かつ巨大なものの運搬用が多くなってしまう。
なので、俺のような小型貨物船では受けられない仕事が多いだろうとはある程度覚悟していたが、ここまで無いとは思わなかった。
いざとなれば空荷で移動するしかない。
前にもあったことだし、そこまで慌てる話ではないが、発注された依頼自体は100を越えているのに、1件もないのはさすがにびっくりした。
すると、リストを見ていた受付嬢が不意に声をあげた。
「あ!1つだけ受けられそうなのがありましたよ!」
「本当に?どんなのだ?」
「アンドロイドとそのパーツの輸送です!」
それを聞いた瞬間、俺の脳裏にある記憶が思い出された。
実はアンドロイドの輸送には、いくつか嫌な都市伝説がある。
その有名なものの1つに、
『アンドロイドだと思っていたらコールドスリープされていた人間で、知らないうちに人身売買の片棒をかつがされていて、さらには真犯人達が捕まらないための囮にされて逮捕される』
というものがある。
話のあらすじはこうだ。
ある貨物輸送業者が、アンドロイドの輸送依頼を受け、安全運転で航行していた。
その途中に検問を受けたところ、アンドロイドだと思っていたものが生身の人間で、捜索願のでている人だった。
そのため、その貨物輸送業者が人身売買の現行犯として捕まり、超スピード裁判で死刑が確定。
もちろん貨物輸送業者は犯行を否認。
しかし、上訴はとおらず死刑が確定し、その翌日に死刑が執行された。
それから2年後に、当時の判決を不信におもっていた弁護士の尽力と、たまたま逮捕されたブローカーの証言により、2年前の事件の真相が明らかになった。
この人身売買に、政治家・検察官・警察官僚が関わっており、輸送業者は犯人にしたてあげられ、口封じのために翌日に死刑を執行されていた。
この話が一番恐いのは、なんと130年ほど前の実話が元になっているという噂だ。
その理由として、130年前まではコールドスリープ装置は無音で、見た感じもアンドロイドの収納カプセルのようだったが、なぜかその翌年に、宇宙全てのメーカー(共和国・帝国・連邦)に対して各国同時に、
『コールドスリープ装置は、起動時には大きな音がし、さらにはわざとカプセルの外に霜が出来るようにすること』の義務化。
という法律が施行されたからだ。
クロイド・ドラッケンから聞いた話だから、法律の施行は間違いない。
他にも嫌な話はあるが、大抵の輸送業者が思い出すのがこの話だ。
しかしだからといって、せっかく受けられる依頼を断ってはどうしようもない。
「わかりました。それでお願いします」
「かしこまりました♪」
目的地の惑星キストリーデは、幸いオルランゲア方向なので、受けることにした。
積み込みは1時間ほどで終了し、無事に出発することが出来た。
それから何かあるはずもなく、昼食・夕食とすまし、風呂に入ってからオートパイロットやもろもろをチェックしてから、船長室のベッドで横になった。
しかしなかなか寝付くことが出来ず、取り敢えず目だけは閉じておいた。
そしてどれくらいたった頃だろうか、下からコツコツ…コツコツ…と、人が歩いてるような音がする。
しかし今回は客を乗せていないんだから、足音なんかするわけがない。
気になった俺は、いつも麻酔弾にしてある短針銃の弾を殺傷力のある貫通弾に変更し、螺旋階段を降りていった。
ラウンジは暗く静まり返っていた。
当然の状態だ。俺以外誰も乗っていないんだからな。
俺は銃を構えたまま、照明のスイッチのあるところまで進んで、明かりをつける。
ぱっとラウンジが明るくなるが、暗闇に隠れていたものが浮かび上がるわけはなく、いつものラウンジと全く変わることはなかった。
それでも一応、浴室・トイレ・客室・厨房・倉庫・操縦室と、1つ1つ調べていったが何もない。
残ったのは貨物室だ。
貨物室には、積み荷である、完成体アンドロイドが8体と、頭・胴体・手足のパーツが収められたコンテナが並んでいる。
身体のパーツが入っているコンテナは、機械による作り物と分かっていても、ちょっと引いてしまう。
そうするとどうしても、一番最初に思い出した話の次に有名なアンドロイドの輸送についての嫌な話を思い出してしまう。
それは、アンドロイドの暴走による乗員の皆殺し事件という話だ。
ある惑星の宇宙港に、大型貨物船が近づいてきた。
通信をいれても返答がなく、エンジンすら動いていないからと、不審に思って調査したところ、大型貨物船の内部は死体だらけの血まみれになっていたそうだ。
なので、内部の監視カメラやフライトレコーダーをチェックしたところ、1体のアンドロイドが乗員を殺害していく様子が捉えられていた。
そしてその直後、調査の人達はそのアンドロイドに襲われてしまった。
でもそのときは、船内の異常事態を報告し、軍が一緒に来ていたお陰で、アンドロイドを破壊する事ができ、事なきを得たらしい。
という話だ。
よくある話といえばよくある話だ。
人身売買の話と違い、話の出所もハッキリしない。
なので、まさかそんなことはないだろうと考えていると、またコツコツ…コツコツ…という音が聞こえてきた。
間違いなく貨物室からだ。
もしかして上がってくるのかと思い、俺は銃を構え、貨物室に繋がるハッチを睨み付け、銃を構えた。
しかしすぐに音は消え、上がってくる様子がないので、一旦船長室に戻って宇宙服を着込んでから、下に降りてみることにする。
場合によっては貨物ハッチを開けて、超空間に叩きだしてやるためだ。
最大限の警戒をしながら、ゆっくりとハッチをおりる。
ハッチを降りたところはエアロックになっていて、宇宙服の一式の予備を置いてある。
ハッチをしっかりと閉めてから、貨物室のドアを開け、
「動くな!」
短針銃を構え、威嚇をした。
「うわあっ!」
するとそこには、積み込むときにみた、ミツハと同じく目や口のパーツがある女性型・全身機械体アンドロイドが、尻もちをついていた。
ミツハはビジネススーツがベースだったが、こっちはメイド服をベースにしたデザインだった。
「お前。間違いなく積み荷のアンドロイドだな。なぜ起動している?」
俺は油断なく銃を向け、貨物ハッチの開閉スイッチに近づきながら質問をした。
おかしくなったアンドロイドからは返答をもらえないだろうと考えていたが、
「あっあのっ!どうやら起動タイマーのスイッチが入っていたらしくて…。それで起きちゃったんですけど、誰も居ないし、コンテナには首や腕がバラバラに入ってて恐くて…」
返ってきたのは、おろおろとしている上に、かなり怯えているような返答だった。
こういう都市伝説ってどんな業界にも1つはありそうですよね。
特に多そうなのは、病院や医療関係・不動産関係・タクシー業界なんかでしょうか?
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