File81 惑星ミンツトレニスでの休日④ 反省は自覚してこそ
お待たせいたしました
ベンの奴を気絶させた後。
俺は未だに『フォウテン』の船内、正確にはセイリーナさんの部屋にいた。
「ごめんなさいね。甥っ子が迷惑かけて」
「ベンさんはちょっと考えなしなところがありますから…」
俺が帰ろうとしていたところを、セイリーナさんとエプラに引き留められたからだ。
「いきなり殴りかかってくるとは思いませんでしたよ」
早く帰りたいとは思ったが、セイリーナさんからもう少しと懇願されるとなかなか断り辛い。
テーブルの上には、エプラが淹れてくれた紅茶が湯気を立てていた。
そこに、ノックの音が聞こえた。
「どうぞ」
セイリーナさんが入室を許可をすると、ベンとメリッサのサーズウッド兄妹がはいってきた。
「失礼します!」
「失礼します」
そして入ってくるなり、俺の前に2人して並んだ。
「まだなんか用か?」
俺がすこし呆れながら声をかけると、
「すみませんでしたぁっ!」
ベンの奴がいきなり土下座を敢行し、
「初対面で喧嘩吹っ掛けて、おまけにいきなり殴りかかって申し訳ありませんでした!」
本気の謝罪をしてきた。
妹も同じように土下座をし、
「今後はあんな馬鹿な真似はさせません!もし今度やったら、私が責任をもって、この手で公開去勢してやりますから!」
謝罪と同時に、なかなか怖い発言をした。
いや、さすがにそれはやめてやれよ。
本人がマジで怯えて、エプラがドン引きしてるから。
セイリーナさんはおもいっきり笑い堪えてるし…。
ともかく俺が声をかけないと、この2人はここから動かないだろうから、とりあえず謝罪は受け付けてやろう。
しかし、言っておかないといけないこともある。
「お前の行動の結果は、ホーゼンのおっさん達『ホーゼン・トラックス』のメンバー全員。さらにはお前の両親や妹やその会社全体にも影響や被害が出るんだ。
お前が暴走してお前が死ぬだけならいいが、回りの人達に被害がでたらどう責任をとる?
下手すりゃ目を合わせただけで、本人と周り全員を殺しにくるようなマジでヤバイやつが本当にいるからな。
ともかく今後は無闇に喧嘩は吹っ掛けないことだ」
ちなみに目を合わせるだけでヤバイやつの話はマジだ。
例えば、
一番でくわすのは、キチガイガチレズのリリーナ・フレマックス。
会ったことはないが、一匹狼の大海賊、強奪王ゴーダーシ・キカタス。
そして絶対あいたくない、狂気犯罪者のジザン・ヤウサル。
といった、マジでヤバイ連中に喧嘩を売ったら、殺される確率は限りなく高いだろう。特に3番目。
「肝に命じます!本当にすみませんでしたっ!」
本気でわかって居るかどうかは怪しいが、これ以上先は本人の心がけ次第だ。
誠心誠意の土下座謝罪を終えた兄の横で、妹のメリッサが俺の顔をガン見していた。
「俺の顔になんかついてるか?」
気になるので尋ねてみたところ、
「思い出した!」
メリッサはいきなり汎用端末を取り出しデータのチェックをはじめた。
そして、
「これだ!オオキタ・ソーナだ!」
俺にとっての忌まわしい名前を叫んでくれた。
「なんなんですかそれ?」
そのワードに反応したエプラが、尋ねながらメリッサの汎用端末を覗き込む。
「『ソードプリンセス 剣姫招来!』っていうソーシャルゲームにでてくるキャラクターで私のお気に入りなの!」
エプラは、画面と俺を交互に見比べ始めた。
「ショウンさんそっくりです!」
「良くいわれるよ…」
「じゃあこれってショウンさんですよね?!」
そういうとメリッサは、あのコミックマルシェでの写真を見せつけてきた。
「私ずっとサークルの売り子だったんで回れなかったんですよー。なので今!一緒に写真いいですか?」
「私も撮りたいです!」
メリッサとエプラは、めちゃくちゃいい笑顔で俺に詰めよってくる。
「どれどれ…あら本当にそっくりね!」
「うおっ!マジだ!」
セイリーナさんもベンも画像検索は止めてくれ!
結局、何枚か記念撮影的なことをさせられた後、なんとか無事に船に帰る事ができた。
視点変換 ◇メリッサ・サーズウッド◇
私の双子の兄ベンは、通っている高校では不良で通っている。
カツアゲや陰湿な虐めこそしないが、同じような不良連中を中心に、
ガンをつけられた。
何となく気に入らない。
イラついていた。
等の理由で喧嘩を売る人間だ。
兄がそうなったのは、小学校に入った時に受けたいじめだった。
その当時の兄はおとなしく物静かだったために、体格のよかった同級生に虐められたのだ。
私は別のクラスだったから詳しくは知らないし、兄も話さなかったが、かなり酷い目にあったらしい。
その日から、兄は格闘技を訓練し、2年ほどトレーニングをした時点で、以前虐められた相手をぼこぼこにしてしまった。
それから兄は格闘技をつづけ、中学に上がる頃にはかなりの乱暴者になってしまった。
中学にはいってから、マーシャルアーツ部に入部はしたものの、喧嘩は止めないし、態度もさらに悪くなった。
おまけに、好きだった女の子を他校の男子にとられてからはますます荒れた。
私から言わせれば、告白せずにいたんだから取られて当たり前って感じだけど。
そのせいでショウンさんに八つ当たりじみたことしたんだから、多少は痛い目を見るべきだと思う。
それでもマーシャルアーツの大会では三連覇を成し遂げ、高校へはその功績ではいったようなものだ。
その高校に入ってからは、自分から喧嘩を売ることはほとんど無くなったけど、自分より腕っぷしの弱そうな人達に高飛車な態度を取るようになった。
しかも、社長の息子という立場もあって、お父さんの会社の社員さんにまで偉そうに命令をし始めた。
そのせいで辞めていく社員さんまででる事態になった。
なので両親は、父の姉・セイリーナ伯母さんの旦那さんのガルダイト・ホーゼンさんに、兄を預ける事にした。
当然兄は反発。
でも、ホーゼンの伯父さんに赤ん坊の手を捻るみたいにコテンパンにされ、伯父さんの船のクルーの何人かにもぼこぼこにされたことから、その人達は敬うようになっていた。
そうして少しは矯正されていたかなと思ったところに、中学時代のトラウマの元凶に良く似た人が現れた。
兄が暴走するのは、ある意味必然だったかもしれない。
しかしその暴走は、ショウンさんの手で、2度も止められた。
しかも2度目は、命の危機すら感じた。
そのことにより、兄の中にあったプライドとかコンプレックスみたいなものがへし折れたのだろう。
顔が穏やかになったように思える。
どうやら兄はこのまま長期休暇が終わるまで『ホーゼン・トラックス』でお世話になるらしい。
なので私も付き合うことにしてやるつもりだ。
それならまたショウンさんに会うことができて、イベントでコスプレをお願い出来るかもしれないからね!
視点終了
名無死の権兵衛さんにレビューをいただきました!
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