File74 惑星ルニールへの貨客輸送⑧ 友人が増えたのは嬉しいが、ファンが増えたのは問題だ
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結論からいうと、海賊達が捕縛されてから後の5日間、宇宙港に足止めさせられた
理由は海賊達の洗い出しだ。
今回この惑星ルニール宇宙港を襲った連中は、もっと帝国よりの宙域で行われていた掃討作戦の網にかからず、こちらに入り込んできた連中だったらしい。
なんでも、この宇宙港が元要塞で、こもれば抗戦できるし、あわよくば戦術兵器を使えるかもと、以前から考えていたらしく、多くのスパイが潜り込んでいたらしい。
ちなみに、連中があわよくばと期待していた戦術兵器だが、完全に取り外されて影も形もない。
連中はそれを巧妙な隠蔽と思っていたらしい。
ともかく、帝国・共和国共に、海賊共は徹底的に潰す事を決めているようで、勝手に出港しようとすると問答無用で撃たれることになった。
とはいえ、ホテルなどのキャパにも限界があるため、俺のように船持ちの連中は、船内宿泊を指示された。
共和国防衛軍の兵士の監視の下での食材の買い出しをしたり、船内のチェックを受けるなど、なかなかの厳戒ぶりだ。
しかし、その厳戒下にあるにも関わらず、帝国貴族の兄妹とその執事が、俺の船に初日の昼間から飯をたかりにくるのは、どういう意図があるのか、是非ともうかがいたくて仕方ない。
「ん~♪このチキンのパエリヤ美味しい!」
軍人御嬢様は、パエジェーラ(パエリヤ用の鍋)からごっそりとチキンのパエリヤをよそっては、満面の笑みを浮かべながら頬ばっている。
なんでも、超能力を使うと腹が減るのだそうで、普段からよく食べるらしい。
まあ、ドラコニアル人ほどではないらしいが。
「こちらのクラムチャウダーも美味しいですぞ。私が例の品を運ぶために、この船に同乗させていただいたおり、最初にいただいた一品です」
アルフレッド氏は、リクエストしてきたクラムチャウダーを、嬉しそうに口に運んでいた。
「ずるいわよアルフレッド。6日もこんな美味しいもの食べてたなんて」
「これも、運んだ人間の特権ですな」
主人と使用人というよりは、年齢の離れた友人といった感じだ。
詳しくは知らないが、普通帝国だと貴族と平民がいっしょのテーブルには座らないらしい。
しかし、この軍人兄妹はその定義には当てはまらないようだ。
まあ、軍人だから気にしていられない場合もあるからかも知れないが。
「船長。この卵とじゃがいものサラダはまだあるか?」
そして、賽の目切りにしたゆで卵に、同じく賽の目切りにしたキュウリ・湯通しニンジン・湯通しじゃがいも・ロースハムをいれ、自家製のマヨネーズであえたサラダを完食しているのが、軍人御嬢様の兄であり、侯爵家令息であり、銀河帝国軍主力艦隊司令官であり、今回の国賊討伐艦隊の司令官でもある、シーモア・マルティス・ギルテンス少将閣下だ。
妹とはちがって茶髪で、長髪ではあるものの、チャラい雰囲気が微塵もない、むしろ冷徹な印象の人物だった。
「ええ。ちょっと待って下さい」
俺がキッチンにむかい、サラダを作って戻ってくると、少将閣下はその冷徹そうな雰囲気に反して、嬉しそうにサラダを食べ始めた。
「シーモア様がそこまで気に入りますか…。これはますますをもって当家で雇い入れたくなりますな」
それを見たアルフレッド氏が、ぼそりとつぶやくと、
「ねえライアットさん。帝国のうちの領地に引っ越さない?」
それに便乗するように、御嬢様が勧誘をしてきた。
「いやですよ。生まれ故郷に不満はありませんからね」
もちろんすぐにお断りだ。
両親・祖父母の墓に、家族同然の人達や仲の良い友人もいるのに、離れるつもりは微塵もない。
それに、この兄妹はともかく、帝国ではヒューマン以外は差別的な目を向けられる事が多いと聞く。
特に貴族はやばすぎるだろう。
「それは…実に残念だ」
少将閣下は本気で残念そうに呟いた。
食事が終わり、コーヒーでもと考えながら食器を片付けていると、
「片付けをお手伝いいたしましょう」
「あ、すみません」
アルフレッド氏が片付けを手伝ってくれた。
対して兄妹はなにもしない。
まあ、このあたりが貴族であるからだろうし、軍隊でも偉いさんであるからなのだろう。
それに、逆に何かされると被害がでる場合もあるから、下手に言及はしないのが得策だ。
そうして食器をキッチンに持っていくと、
「ん?この香りは…」
キッチンに漂っている匂いに、アルフレッド氏が鼻を鳴らした。
「あ、すみません。豚肉のブロック肉を、醤油や酒やリンゴのすりおろしたのなんかで煮てるんです。お嫌いでしたか?」
「たしか晋蓬皇国の料理で『煮豚』でしたかな?」
「まあ、そんなものです」
時間ができたならと、昨日の夜から仕込んでいたものだ。
今日の夜にはしっかりと出来上がってくれるだろう。
「船長。夕食の時には厚切りで頼みたい」
「私も!」
「うわっ?!」
いきなり後ろから声をかけられ、思わず声が出てしまった。
いつのまに人の背後をとったんだこの兄妹は!
ともあれ、夕食もたかられる事になったのは間違いないようだ。
とまあ、こういうようなやり取りが5日の間続いた。
その間に海賊達の収監と裁判の開始・首謀者達の処刑・帝国からの賠償金の支払いなどがあった。
そういう用事をこなしながらも、少将閣下は昼食時には顔を出してきたのはすごいと言わざるをえない。
まあその妹と執事は朝昼晩と突撃してきたが…
足止めが解禁され、行動が可能になった日の朝。
ギルドが再開できているかどうか見にきたところ、一応業務は再開していた。
向かう途中、宇宙港のあちこちには、入り込んでいた連中との戦闘の傷痕が生々しく残っていた。
俺はカウンターに足を運び、座っていたレイリアに声をかけた。
住民は、知らないうちにスパイと接触している場合があるため、かなり厳重に審査されていたらしく、直接会うのは5日ぶりだ。
「よう。クビにはならなかったんだな」
「あれくらいじゃあならないよ。事情が事情だったし」
そのあたり、銀河貨物輸送業者組合はそれなりに寛容らしい。
「そうだ。ほいこれ。孤児院のチビ共と、迷惑かけた人達に渡しておけ」
「なにこれ?」
「フィナンシェだ。金運が上がるとか言われてるやつだから、縁起もいいだろ」
暇な時間の間に色々と作りおきをし、その一つを差し入れてやろうと作ってきたものだ。
デカ目の紙袋2個にたっぷりといれてあるから、十分な量はあるだろう。
「サンキュー!ありがたくいただくー」
レイリアは、さっそく取り出して1つ口にいれた。
そして咀嚼し、ごくんと飲み込むと、何も言わずに2個目を取り出してまた口に入れた。
いやいや、孤児院のチビ共と迷惑かけた人達にっていったろう?
「1人で全部食うなよ?」
「んぐっ!」
俺がそう指摘すると、3個目を取りだそうとした手を引っ込め、残念そうに、匂いを嗅ぎながら我慢していた。
その様子は、なんとなくネコっぽかった。
「そういや、見たのか?」
そんなレイリアに、気になっていた事を尋ねてみる。
「うん。しっかり見た。あの時殺さなくてよかった。あんなやつを殺して人殺しにならなくてよかった。アルフレッドさんに感謝しないと」
レイリアは、実に落ち着いた様子で俺の質問に答えた。
実は、首謀者達の処刑が、悪趣味なことにネットワークで生配信されることになった。
共和国では許可されていないが、帝国ではときどきあるらしい。
恐らくは、見せしめと同時に、自戒を促すためなのだろう。
だから首謀者達は帝国が確保したのだ。
帝国のやり方で、馬鹿共を2度と生み出さないために。
ちなみに、俺の船に無断乗船してきたラキドニスは、海賊達に宇宙港の情報を渡して金を貰っていたらしい。
「そうか。じゃあしっかり仕事をしてくれよ」
「えー!せっかくサボってたのにー。じゃあ報酬半分頂戴」
「受けとるのは到着場所だ」
「えー!こっちで受け取ってよ~」
レイリアは、いつもの?調子で会話をしてくる。
くわしくは聞かなかったが、襲撃の日以降、冴えない表情をしていたのだが、どうやら多少は吹っ切れたのだろう。
ときおりは、この友人と話をするのも悪くはない。
こうして、銀河帝国の汚点であり、後に貴族の戒め・脅しの言葉になる『海賊の爵位を賜り、領地に恒星を賜りたいのか?』という言葉ができる原因となった『帝国貴族による侵略事件』は幕を閉じた。
しかし。
今回の俺の迂闊な行動が、最悪の事態を生んでしまったことを、
俺はまだ知らない…
この侯爵家兄妹は仲良しです♪
最悪の事態は本人に関してのことです
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