File73 惑星ルニールへの貨客輸送⑦ 復讐は殺すだけではない
お待たせしました
ちょっと暴力描写
光の槍でドロイドが全て破壊されると、子爵親子をはじめとした帝国貴族達は、我先にと撤退をはじめた。
警察や市民達は喜んでいるが、防衛軍の連中は渋い顔をしていた。
自分たちがあまり役に立たなかったというのもあるのだろうが、なによりも、もし帝国と戦争になったら、超能力者と戦うことになるかもしれないと考えたからなのかも知れない。
まあ、いまの皇帝陛下が和平路線で、彼女の性格がまともなのが救いだろう。
しかし、そんなムードの最中、撤退していた帝国貴族達が慌て中に戻ってきた。
どうしたのだろうと思っていると、放送が流れてきた。
『帝国貴族を名乗る海賊共に告ぐ。貴様等の船は我々銀河帝国軍国賊討伐艦隊が制圧した。我々の囲みを突破したとしても、銀河共和国防衛軍が完全に包囲している。投降するならその場で抵抗を止めて大人しく捕縛されろ。抵抗する場合は一切の容赦はしない』
男の声で、相手が帝国貴族だからなのだろうが、少し冷たい印象がした。
「この声…兄上だわ!」
「確かにシーモア様でございますね」
だから、まさか目の前の熱血御嬢様の兄だとは思わなかった。
視点変換 ◇レイリア・ヘイブリーズ◇
私は、そいつがその場から逃げ出すのを偶然みつけた。
「くそっ!まさか帝国の艦隊がここまでくるとは…」
近くに銃が落ちていたが、血塗れで壊れていたから、その横にあったチタンパイプを手に取った。
「おまけに侯爵の小娘がなぜあんなに強いのだ!超能力者とは聞いていたが…」
チタンパイプを引きずりながら歩いているせいか、カラカラカラという音が響き渡る。
「まあいい。ここの下民の1人ぐらい拐って脅して金を用意させるか。場合によっては2~3人殺せばひれ伏すだろう」
そいつは、こんな状況でもそれだけゲスな考えがでる。
大したものだ。
「ふう…ここまで来れば大丈夫だろう」
どうやら息が切れたらしく、その場に座り込んだ。
私は後ろから近づくと、チタンパイプをゆっくりと振り上げた。
「ん?誰だきさがあっ!」
直前で気づかれたが、気にせずパイプを振り下ろし、左肩を思い切り殴打する。
頭を狙ったけど、かわされてしまった。
「覚えてるわけはないかあ。仕方ないよね。16年前だし」
殴られたところを押さえながら、こちらを睨み付けるイルシッツ・ビンダルト・ゴモテアに対して、私はふたたびチタンパイプを振り上げ、
「父さんがお前に濡れ衣を着せられて共和国に亡命したのが16年前」
逃げようとしたイルシッツ・ビンダルト・ゴモテアの右足を叩き折った。
「ぎゃあぁぁぁっ!」
イルシッツ・ビンダルト・ゴモテアは、顔からでる全ての体液を垂れ流しながら情けない悲鳴をあげた。
「お前がやとったチンピラに父さんが殺され、私と母さんが乱暴されたのが6年前」
またチタンパイプを振り上げ、
「母さんが自殺したのはそれから2ヶ月後」
側頭部を狙ったが、右腕で庇ったために、右腕が折れ、そのままゴロゴロと転がった。
「いぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
そしてまた悲鳴をあげる。
あー、ムカつく。
「それからずーっと、あんたを殺すことを夢見てきた」
転がって私から離れたイルシッツ・ビンダルト・ゴモテアに近づくため、チタンパイプを引きずり、カラカラカラという音を響き渡らせる。
「止めろ!やめてくれ!謝る!私が悪かった!」
そんなことをいってくるが、
「許すわけないじゃん♪」
私はチタンパイプを振り上げる。
こいつが本心から謝っていないのは、赤ん坊にだってわかる。
こいつにとっては自分以外はどうでもいいのだろう。
だから、息子を見捨て自分だけ逃げ出してきたのだから。
そして今度はかわされないように、慎重に頭を狙ってチタンパイプを振り下ろ…せなかった。
「そこまでです」
その理由は、一緒に来ていた帝国貴族の執事が、私のチタンパイプをつかんでいたからだ。
「このような男、貴女が手を血で汚す必要はありませんよ」
「でもこいつのせいでっ!」
私はそれを振りほどいてイルシッツ・ビンダルト・ゴモテアを殴ろうとするが、ビクとも動かない。
「それは重々承知しております。なればこそ、簡単に殺して楽にしてはいけません。死ねば苦痛と恐怖を与えることができなくなります」
そう言いながら、帝国貴族の執事はイルシッツ・ビンダルト・ゴモテアを睨み付けた。
「ひいっ!」
その視線に、イルシッツ・ビンダルト・ゴモテアは情けなく怯えた。
「どのみちこの男に未来はありません。この男の他にも、爵位を持つ首謀者は捕らえられているでしょうが、末路は同じです」
執事はそういうが、こいつみたいな貴族はいろんな手を使って罪を逃れるはずだ。
「貴女の不安はわかります。ですが、こんなクズの命を貴女が背負う必要はありません。なにより、貴女の亡くなったご両親は、貴女がこいつと同じ人殺しになることは望んでいませんよ?もちろん、いま貴女の側にいてくれている人達も」
そう言われた時、父さんと母さん、そして、シスターラウバやディックスやアンたちの顔が思い浮かんだ。
アンは私にも親切にしてくれた本当にいい娘だ。
彼女ならディックスをとられても納得する。
ちょっと悔しいけど…。
「さ、戻りましょう。ライアット様やお嬢様が探していることでしょうし」
そういうと、
「自分は貴族だ!」
「執事風情が無礼だ!」
と、わめき散らすイルシッツ・ビンダルト・ゴモテアを殴って気絶させ、南の2番の停泊地に連れていくべく、髪を掴んで引きずっていった。
視点返還 ◇ショウン・ライアット◇
銀河帝国軍国賊討伐艦隊の制圧部隊が乗り込んでの、帝国貴族共の捕縛が開始されているなか、レイリアの姿がなくなっていた。
軍人御嬢様と一緒になって探すも、全く見つからないので、軍人御嬢様が超能力を使って探そうとしたところ、アルフレッド氏がイルシッツ・ビンダルト・ゴモテアの髪を掴んで引きずり、チタンパイプを持ったレイリアを伴って現れた。
「申し訳御座いません。この男が逃げ出していたのを見つけたので、レイリア様と一緒に捕縛しておきました。少々抵抗されたので少々痛め付けてしまいました」
明らかに少々ではないし、レイリアのチタンパイプがあからさまだが、つっこむのは止めておいた。
おそらくあの子爵と何らかの因縁があったのだろう。
時間を置かずに、制圧部隊が子爵を担架に乗せて連れていった。
軍人御嬢様とアルフレッド氏は、そのまま銀河帝国軍国賊討伐艦隊の方に合流、色々説明をするらしい。
なので、俺はレイリアを連れて、北の1番のDライン・No.147に向かった。
その道中は終始無言だった。
合流したあとは、安全になった事を伝え、全員を自宅に送っていった後、レイリアを銀河貨物輸送業者組合に送っていった。
そして当然、持ち場を離れていたレイリアは、受付の主任に雷を落とされ、無事でよかったとハグをされていた。
『帝国との国境である北方領域を中心に発生していた、帝国貴族における略奪行為は、首謀者および実行犯の逮捕・鎮圧に成功しました。実行犯は共和国に引き渡されましたが、首謀者は帝国が引き取る事になりました。そのため裁判は皇帝による独断となり、首謀者達は救難カプセルでの『恒星への追放』になりました。この発表に共和国は…』
ちなみに、別作品のものと共通した所はありますが、別の世界線です。コ◯ケ会場はわかりませんが
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