外部File ハロウィン記念 SS
ハロウィン用SSです
舞台は本編の1年前です
「ハロウィンだあ?」
「そ。オルランゲア宇宙港でもそれをやることになってね」
仕事を終えて戻ってくると、宇宙港内が黒と茶色と紫にまみれていた。
「たしか、仮装して子供にお菓子配るんだっけ?」
「そーそー。でね、そのお菓子の量が足りないんだよね~。だから作って貰えないかなって」
「業者にたのめよ」
「頼んだよ…でも断られたんだよ…」
「どんな無茶言ったんだお前…」
その原因をササラに尋ねたところ、ハロウィンという答えが返ってきた。
原初の時代からあるものらしいが、俺は仮装してバカ騒ぎしながら子供にお菓子をあげるぐらいしか知らない。
が、毎年色々盛り上がっているのはしっている。
だが大抵は惑星上で、宇宙港でやるのは珍しい。
「ハロウィンは明後日、ここの子供達も楽しみにしてるんだよ~。数は500くらい必要だけど、1種類だけでいいから!」
ササラが必死で頼み込んでくるのは珍しい。
この宇宙港に限ったことではないが、宇宙港内で生活している人達もいるため、保育園や幼稚園、小学校なんかもあったりする。
その子供達の為というのが本来の目的らしい。
「わかったよ。お菓子はなんでもいいんだな?」
「やったね!お願いするよ~♪あ、クッキーやキャンディやチョコなんかは既にあるからそれ以外で。材料費と調理代は払うからね」
ササラは、営業スマイルではない笑顔を浮かべていた。
俺はその足で生鮮食品売場にむかった。
たぶん数が必要なので、大量に作れるものがいいだろう。
そうなればマフィンくらいがちょうどいい。
とりあえずは、バター・小麦粉・砂糖・卵・牛乳・ベーキングパウダー・チョコチップなんかを買い足す。
もちろんそれ以外の食料品や製菓に必要な消耗品なども購入する。
ちなみにマーケットでは、カボチャがやけに幅を利かせていた。
あのカボチャの顔は、なんとなく間抜けで愛嬌がある気がする。
船に帰ると、早速マフィン作りを開始する。
①:薄力粉とベーキングパウダーをふるいでふるう。
②:オーブンを180度に予熱する。
③:マフィン型に薄紙を敷く。
④:バターをクリーム状にし砂糖を入れて混ぜる。
⑤:白っぽくなったら溶き卵を数回に分けて入れる。
⑥:①の粉と牛乳を数回に分けて交互に入れて混ぜる。
⑦:チョコチップをいれて混ぜる。
⑧:型に入れて180度で25分間焼く。
こうして、チョコチップのマフィンが一気に50個焼き上がった。
やっぱり業務用のオーブンを入れておいてよかった。
これを10回程繰り返せば、頼まれた分は出来上がる。
とはいえ、開始したのが夕方なのもあって、1/3ほど出来上がったところで切り上げた。
そして翌日は、朝からマフィン作り開始。
集中してやっていたこともあって、昼までには全部焼き上がった。
しかし良く考えれば、これをどうすればいいのかは聞いてなかった。
なので、ササラに連絡を入れたところ、
『あ、じゃあ今から取りにいくよ。収納箱はこっちが持っていくから』
と、返答がきたので、後片付けを始めた。
そうしているうちに、ササラが数人の受付嬢と一緒にやって来た。
彼女達は、入ってくると同時に食品用大型の収納箱をいくつも展開し、見る間にマフィンを詰め込んでいく。
「それはいまからラッピングするのか?」
「人手が多いから大丈夫だよ。1人50個ラッピングすれば終るから。それに、手の空いた人が手伝ってくれることになってるからね」
500個を10人か、まあ残業になるかならないかギリギリの線だろう。
ササラ達はマフィンの入った収納箱を、ホバー式の台車に載せ、停泊地をでていく。
その後ろ姿を見て、ちょっと思い付いた事があるので、実行することにした。
視点変換 ◇ササラ・エスンヴェルダ◇
ラッピングを開始してから5時間経過しているのだけれど、まだ半分しか終わっていない。
本来は、クッキー・ビスケット・キャンディ・キャラメル・チョコ・グミ・マフィンなどなどを、少量ずつ纏めて入れて1つの袋にする予定だった。
が、厚化粧女の、
『500個だけだと貰える子供が少ないと思わない?そうだ!お菓子を1種類ずつにすれば数が増えるわよね♪良いですよね部長?』
というご提案で1種類ずつのラッピングになってしまった。
しかも本人は手伝わない上に、さっさと帰るというクソっぷりだ!
どうせサバを読み捲って合コンにでも行くんだろう、あの面食いババアめ!
流石にヤバイ状態なので、みんなに頼んで作業を手伝ってもらっていた。
その修羅場の状態の会議室に来客があった。
「よう。そろそろ…って、なんで修羅場になってるんだ?」
マフィンを作ってくれたスネイル…ではなく、ショウン・ライアットだった。
「厚化粧女の嫌がらせでね」
「ああ…」
ショウンはあからさまに嫌な顔をする。
あの厚化粧女ことルーベット・エルマケルは、貨物輸送業者達に嫌われている。
常に仏頂面で、対応も塩を通り越してタバスコ状態なのだから当たり前だけど。
「で。君はなにしにきたのさ?」
「てっきり終る寸前だと思ってな。ご苦労さん的な理由でもってきたんだが、陣中見舞いになったな」
そうして差し出したのは、食品用中型の収納箱に入った、色取り取りのサンドイッチだった。
「少し多めに作ってきたが、それでも足りないな」
「いやいや有難いよ~♪」
全員が作業をやめ、持ってきてくれたサンドイッチを食べ始める。
「あとこれも置いておくから、次に休憩するときにでも食べてくれ。収納箱は明日もらいにくるよ」
「わかった。カウンターの方に移動させとくからそっちにきてよ」
「了解。じゃあ頑張ってな」
彼はそういうと、同じサイズの収納箱をもうひとつ置いていった。
その収納箱には、貝殻の形をしたマドレーヌが入っていた。
しかも片面にはザラメが大量に入っている、甘党には嬉しい仕様だった。
こんなもの、次の休憩まで待てるはずがない!
私達は競うように魅惑の甘い貝殻に手を出した。
それから3時間後。
マドレーヌ効果もあってか、ショウンの差し入れ前より早い時間で、全てのラッピングが終了した。
出来上がったものは収納箱に納め、明日の出番を待つだけになった。
視点返還 ◇ショウン・ライアット◇
朝早くに、昨日の差し入れにつかった収納箱を受け取りにカウンターに行ってみると、受付嬢達がお化けの仮装をして、受付業務をやっていた。
とりあえず収納箱を返してもらうべく声をかけた。
「あーちょっといいか?」
「あ、ショウンさん。昨日はサンドイッチとマドレーヌを有り難うございました」
そう言って丁寧なお辞儀をしてきたのは、一つ目のミィミス・ラッペリオ嬢だ。
「その2つが入ってた収納箱の話は聞いてる?」
「はい。少々お待ちください」
そうして返却された収納箱は、綺麗に洗ってあった。
「ラッピングは間に合ったみたいだな」
「はい、お陰様で。多分あの差し入れがなかったら危なかったですよ」
ちなみに彼女は魔女の仮装をしているわけだが、それがものすごくしっくりきているのは、万人が認めるところだ。
するとそこに、
「あ!やった!いた!」
ミイラが3体現れた!
「いてくれて良かったよスネイル!」
そのミイラの1体は、どうやらササラらしいが、目しか見えないため判別がつかない。
「実はさ、受付嬢だけだとなんだからっていうので、男性の職員にも参加してもらったんだけど…。じつは吸血鬼をする人が風邪でダウンしてさ、代わりをお願いしたいんだよ」
なるほどそういう事か。
まあ吸血鬼なら、タキシードかスーツぐらいだろうから問題ないだろう。
「それぐらいなら別にいいぞ」
と、俺は肯定の返答をした。
するとその瞬間、ミイラ2体が俺の腕を掴んできた。
やられた!こいつらの目的は仮装は仮装でも男用じゃない!
「確かに言質はとったよ?」
「なにをさせるつもりだ?」
ササラらしきミイラは、ボイスレコーダーをちらつかせながらニヤリと笑った。
「いったでしょう?吸血鬼をやってもらうんだよ。大丈夫。痛くしないからさ♪」
その笑いは本物のミイラのようだった。
「「「「トリック・オア・トリート!」」」」
お化けや魔女に仮装した子供達が、お菓子をもとめて、同じく仮装した受付嬢や職員達からお菓子をもらっている。
俺も同じく子供達にお菓子を渡していた。
その俺の横には、ミイラのササラもいた。
「いや~ある意味、厚化粧女の指摘は間違ってなかったね!感謝しないと!」
「そうだな」
会場は、銀河貨物輸送業者組合の来客用のエントランスだ。
そのエントランスエリアは、ハロウィン仕様になっていて、実にカラフルだ。
ちなみに子供達はこの後も、引率の先生達につれられて、様々な所にお菓子を貰いに行く。
実は今回のハロウィンは住人の子供達の社会見学も兼ねており、色々な所を回って、見学をしたあとにお菓子を貰うと言う手順になっているらしい。
オルランゲア宇宙港の3階層・運行管理区画は、宇宙港を運用・管理するための施設をはじめ、様々な行政機関・組合・関連企業の支社などもある言わばオフィス街でもある。
銀河貨物輸送業者組合はもちろん、傭兵ギルドが前身の賞金稼ぎ組合や、GCPOの支部なんかも存在している。
住人の子供達にとっては、親の職場でもあるので、ハロウィンついでに見学させようという事らしい。
そのため、かなりの数の子供達が回ることになったため、500ほどではたりなかったので、厚化粧女の指摘は正解だったことになる。
そしてこのエントランスエリアは、依頼にくる客や受け取りにくる客の出入りもあるため、大人もいっぱいいるわけで、
「あっあのっ!俺にもお菓子を!」
「すみません。これは子供達だけに配っているものでして…」
仮装した受付嬢にからんでくる連中もいるわけだ。
とはいえ、場所が場所だけにアホはいないため、にっこりと対応するだけにとどまっていた。
「それにしても人気だねえ」
「誰のせいだと思ってんだ…」
ミイラなので解らないが、ササラがにやついているのがわかった。
今の俺は、女に変身させられ、髪を金色に染められ、赤のカラコンを入れられ、白のハイヒール・黒のストッキング・胸と腰の辺りのフリルは黒、それ以外は真っ赤な肩だしのロングドレス・根本部分に黒のファーがついた白のロンググローブ・背中には皮膜の羽根と言う格好をさせられていた。
有名な吸血鬼の格好らしいが、全く解らない。
しかし、職員も含めた大人や、子供達の中にも知っているのがいるようだ。
しかし、それよりも気になることがあった。
「あとちょっと聞きたいんだが」
「なに?」
「何であの連中はこっち睨んでるんだ?厚化粧女も一緒に」
俺が子供達にお菓子を配っている場所から少しはなれた所に、魔女や吸血鬼や淫魔と行った格好の女達数人ほどが集まっていて、こっちを睨んでいた。
そのなかに、厚化粧女も混ざっていた。
するとササラが、少し憤った口調で、
「実はここの飾り付けなんかをしたのは配達依頼受付の子たちなんだけど、あそこにいるのは、貨物配達受付でなにも手伝わなかった厚化粧女とおなじく、配達依頼受付でも準備を一切手伝わず、エロ可愛いやエロセクシーな仮装で、客・職員問わずにイケメンをゲットしようとした、自称モテ女の皆様だよ」
あの女達の説明をしてくれた。
するとなぜか、厚化粧女が自称モテ女達に責められはじめた。
「何かあったのか?」
「あれは多分、
『ちょっと!なんなのよあの金髪女!あいつのせいで男がこっち来ないんだけど?』
『あいつアンタのとこのでしょ?!何であんなの参加させたのよ!』
『うちにあんな子がいるなんて知らなかったのよ!』
っていう会話をしてるんじゃないかな?」
ササラは、真横で聞いているようにすらすらと口からデマカセを言うが、意外と当たっている気がした。
しかし、
「ちょっとまて。配達依頼受付の連中は仕方ないとしても、貨物配達受付の主任が、俺が自分の部下じゃなくて部外者、延いては出入りの輸送業者じゃないのかって推測できないのか?」
女の姿の上に仮装しているとしても、職場に出入りし、女の姿のときにだって何度も会話をしたことのあるのに、どうして気が付かないんだ?
例え俺とわからなくても、女の輸送業者だっているんだから、そっちだと思っても言いはずだ。
「気が付くわけ無いじゃん。あの厚化粧女は『輸送業者は貧乏人』って考えで凝り固まってる人だから、いちいち顔なんか覚えないよ。それが女の輸送業者なら尚更だね」
衝撃の事実だ。
良くまああれでクビにならないもんだ。
だがひとつわかったことがある。
「お前。あいつらへの当て付けにするために俺を巻き込んだな?」
「ん~なんのことかな?」
いけしゃあしゃあといいやがって…
ともあれ、そのあとも大きなトラブルもなく、ハロウィンのイベントは終了した。
視点変換 ◇とある受付嬢達◇
時間は昼休み、休憩室でランチ中の会話
「はー。昨日、一昨日と忙しかったわね~」
「準備と後片付けの方が大変だった気がする」
「「だよね~」」
「それにしても一昨日の差し入れは美味しかったね~」
「特にマドレーヌは甘いものだったからありがたかったな~」
「ふっふっふっ…これを見よ!」
「あっ!それっ!あのマドレーヌじゃない!しかも2個も!」
「余ったのをとって置いたんだ♪」
「いいな~。1個ちょうだいよ」
「今日の残業代わってくれるんならいいよ」
「う~ん…。わかった。それで手を打とう」
「よし!じゃあこれ」
「確かに。じゃあ遠慮なく…」
パクっ
「「ん~♪美味しい!」」
この何気ないやり取りが、後の事態を招くとは、このときはだれも知らない…
ショウンはその気になれば、腕をつかんでいる受付嬢を振りほどくことはできますが、世話になってるのと、害意(殺害・暴行・金銭の要求など)がないので抵抗していません。
ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします




