File60 惑星オルランゲアでの休暇⑫ 油断大敵は誰にでも起こること
展開はやめ
油断した。
まさかこんなことをしてくるとは想像もしていなかった。
幸い、宇宙服の左腕の部分に亀裂がはいっただけで、修復用のテープを貼ればなんとかなる。
しかし、目の前での電磁振動ナイフを構えたこいつが居る限り、貼らせてはくれないだろう。
さらに、そのせいで『スーパースクレイパーΣ(シグマ)』を手放してしまった。
相手が素人とはいえ、俺が修復用テープを貼る邪魔くらいはできる。
そして邪魔しきったら相手の勝ちだ。
俺は、切り裂かれた場所を手で押さえながらジリジリと後退しながら、そいつの意図を探ってみる。
「おい。一体どういうつもりだ?!」
『うるせえ!俺がここに居たってことにしないと、色々ヤバイんだよ!』
そいつはそれだけわめくと、夢中でナイフを振り回してくる。
かわすのは容易いが、いかんせん腕が使えないのは不利だ。
その行動で、奴がなんで襲ってきたかが何となくわかった。
とはいえこのままでは埒が明かない。
なら、勝負にでるしかない。
俺は『スーパースクレイパーΣ(シグマ)』がゆっくりと飛んで行く方向を見定めると、亀裂を押さえるのを止め、姿勢制御用のバーニアを思い切り吹かした。
『あっ!待て!』
相手が追いかけてくるのはわかっている。
『スーパースクレイパーΣ(シグマ)』の元にたどり着くと、ソレをしっかりと掴み取り、一旦バーニアをとめて方向転換をし、相手を正面にとらえ、相手が近距離まで近づいたところで再びバーニアを吹かす。
相手はそれに気が付いても、同じようにバーニアを吹かしているから今さら避けられない。
そして、奴が持っているナイフと、俺がもっている『スーパースクレイパーΣ(シグマ)』では、長さが違う。
奴はでたらめに振り回し、俺は正確に奴の顔面を狙った。
俺は『スーパースクレイパーΣ(シグマ)』を槍のように構え、奴の顔面を突いた。
『ぐわっ!』
幸いヘルメットにはヒビが入っただけで、割れはしなかった。
しかし、のけ反った勢いと角度、バーニアの推進力が合わさり、その場でくるくると回転しはじめた。
その隙に、修復用のテープで切り裂かれたところに貼り付け、空気漏れを止めた。
その作業が終わっても、奴はまだ回転していた。
やっぱり素人だからだろうか、奴は慌てているばかりで、止まりかたがわからないらしい。
「管制塔。いまのやり取りは聞いたか?」
『ああ、ばっちりだよ。外壁カメラでも撮影できた。GCPOはそっちにも捕縛に向かったから、直ぐにくるはずだよ』
流石はサマンサ。管制官でも一番のやり手なだけある。
その報告を聞き、とりあえずは安心した。
後はこのバク転野郎を大人しくさせることだが…。
げっ!こいつメットの中に吐いてやがる!
まあ、あれだけぐるぐる回されればそうなるのも仕方ない。
引き取りしにきたGCPOの職員も、
『うわっ!吐いてやがる!』
『扱いに気を付けろ!ミスひとつで大惨事になるぞ!』
『『了解!』』
と、まるで爆弾でも扱うかのごとく、慎重に運んでいった。
それから程なくして、警部殿の活躍もあり、ジザン・ヤウサルと取引をしていた連中は逮捕された。
しかし、ジザン・ヤウサル本人は逮捕出来なかった。
どうやら直前に逃げ出していたらしい。
しかも、ヤバいドラッグを抱えたまま。
だがまあ結果的に、『ヤバイ噂のあるやつ』から『ヤバイ犯罪者』にクラスアップしたのだから、今後は堂々と通報ができるってもんだ。
そして、見事『イケメン大学生』から『ゲ○まみれ大学生』にクラスチェンジした襲撃犯だが。
予想通り、ジザンの奴に金を貰い、あの現場の掃除をして、見て見ぬふりをすることだったらしい。
さらには、あの不真面目な職員も一枚噛んでいたようだ。
なお遅刻の理由は、多目的トイレで彼女とシテいたからだという。
夢中になってヤッていて、気が付いたら遅刻していたらしい。
犯罪者にこういう事をいうのはナンセンスだとは思うが、仕事中にそういうことはしない方がいいと思うし、時間はきちんと守るべきだ。
ちなみにその後の外壁清掃は全て中止。
その日の日当は支払われたが、明日からは業務を停止し、内部調査を開始するらしい。
まあ、麻薬売買の抜け道を作り出していたのだから、それをやらないと信用問題がさらに悪化するだろう。
バイト達は普通に別のバイトを探しにいき、正職員のおっちゃんおばちゃん達は、暫くは休んで、長いようなら別部署に出向になるらしい。
俺はといえば、警部殿だけではなく、部署違いの刑事にも説明を求められた上、多少でも真空の影響があるかもということで、病院で診察を受けることになった。
「検査の結果、全く問題なし。あとは変身機能の回復だけだね。今晩は大事をとって泊まっていきなさい」
「はい。わかりました」
なじみの先生は、いつもの笑みを浮かべながら、そう告げてきた。
そうして、看護アンドロイドに病室に案内してもらっているときに、カプセルホテルに荷物を預けていたのを思い出し、病室に案内された後に連絡をとった。
事情を説明したら、取りに来るまできちんと保管をしてくれるそうだから、明日一番で取りにいくことにしよう。
明日はやっと船が戻ってくる。
引き取りが終わったら、掃除をしてから食材の買い出しにいこう。
そんなことを考えながら、病院の窓の外の夕日を眺めていた。
宇宙港の内部なのに何を言っているのかと思うだろうが、これには理由がある。
実は病院は、大きな空間のなかに病棟の建物があり、その空間は朝→昼→夕方→夜と、景色を変えている。
これは、入院患者の精神的ストレスを軽減させるためらしい。
そのため、青空や夕日が拝めるようになっているのだ。
ちなみに、夕食がすんだ後に入院患者用の談話室にいってみると、子供達がゲームをしていたのだが、そのゲームがあの『ソードプリンセス 剣姫招来!』だったために、しっかりと捕まってしまったのはいうまでもない。
視点変換 ◇ジザン・ヤウサル◇
忌々しい。
見張りの野郎が猿みたいにヤリまくってたせいで別の奴がきて通報されるし。
それを阻止するはずの職員も仕事をサボってギャンブル(パチスロ)にいきやがる。
どいつもこいつも俺の仕事の邪魔をしやがって…
金を渡しておいたのになんの役にもたたなかったな。
まあそのかわりに、いろいろ儲かったからよしとするか。
あの連中、情報の偽造には注意していたようだが、現金の偽造には気が付かなかったみたいだな。
おかげで、依頼主から預かった金は丸々俺のものだ。
さらには、取引相手がGCPOにパクられたおかげで、偽金を追及されることもない。
このブツも俺自身が売りさばけば大金になる。
こいつも安物とすり替えて売り飛ばすか。
とはいえ暫くは、廃棄コロニーでもいって、ほとぼりを冷まさないとな。
あそこの女は久しぶりだ…。
視点終了
次くらいでもとにもどれます。
子供達には、
「どうして僕のガチャにはでてくれないの?」
とかいわれました。
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