File41 惑星ランレイへの貨物輸送③ 平穏な1日・夜
午後の行動です
警部殿との話も終わり、茶菓子の作成も終わると、夕食の仕度にかかる。
トースト・チキンソテー・サラダ・コーヒーという簡単なものだけの夕食が終わり、風呂が済めばまた暇な時間になるわけだが、俺は大抵は本を読んでいる。
最近は推理ものを読んでいたりする。
その最中に、トニーのやつから通信がきたのだが、繋がると同時にいきなり本題らしき話をしはじめた。
『よう。昼間にファルコンってやつから通信がきただろ?』
「ああ」
『あいつ、昨日登録したらしい新人でな。ササラの奴に頼み込んで、名簿リストを閲覧しながらぶつぶついってたらしい。で、いきなりササラにお前の番号を聞き出したらしい』
ササラの奴め。
リストに乗っている番号は船同士の連絡用だから問題ないが、腕輪型端末の個人番号なら許さないところだ。
「しかし、なんでそれを知ってるんだ?」
『近くで見てたからだ。たしか、銀河最速の勝負をしろ!だったか。お前とは一番縁遠い話だな』
「そういえばあいつ、俺がキレ気味に返答したらすぐに切ったな」
『あいつ、配達依頼受付のロビーで何回も番号間違えた上に、何度も大声だしてたから警備員に睨み付けられてたんだよ』
「なるほど」
あのファルコンとか言う馬鹿の話をしているところに、通信が割り込んできた。
『こんばんはショウンさん』
その相手は、リキュキエルの御嬢様副社長だった。
「…なんでこの番号を使えるんだ?」
『私くらいになると、それくらいは簡単です』
リストに乗っている船同士の連絡用番号は、ギルドに登録している貨物輸送業者にしか配布されない特殊な回路を組み込まない限り入り込めない特殊回線のはずだ。
まあ、この御嬢様なら手に入れられないことはないだろう。
『おい。誰だこの子供は?』
そしてもちろん、トニーの奴は初対面だ。
「レイアナ・リオアース。リキュキエル・エンタープライズ社CEO・ガリウス・リオアースの一人娘だ。この回線には、一応合法的に入ってきたらしい」
『なんだそりゃ?それに、なんでそんなセレブと知り合いなんだ?』
「客だよ」
『ああ、なる程。純粋な貨物船の俺達じゃあ客は乗せねえからな』
自分を無視して話をしていたのが気に入らなかったのか、御嬢様が強引に割り込んできた。
『初めまして。私はレイアナ・リオアースと申します。どうぞお見知り置きを』
『おっおう…。おれはトニー・マードックだ。ショウンの同業者だ』
御嬢様の慇懃なあいさつに、トニーのやつが戸惑っていた。
まあ、貨物輸送業者はこういう挨拶とは無縁だから仕方ない。
「それで、なんの用なんだ?」
『ちょっとお伝えしたいことがありまして』
「リキュキエル・エンタープライズ社の副社長がわざわざなにを伝えようってんだ?」
立場を考えると、大企業の副社長が、俺みたいな一介の配達業者になんの話があるんだ?ということになる。
『実は惑星ランレイの新しい宇宙港の建設に協賛することになったんです』
『そういや、あそこの宇宙港は解体されるんだったな』
「さすがに新しいのができてからだろ」
『そのための物資輸送の仕事が、公共事業として発注される予定なんですが、その主軸がスターフライト社に決まってしまったんです』
その一言に、俺もトニーも固まってしまった。
スターフライト社がまともに機能しているなら、なんの問題もない。
だが、最近の連続ストライキに、社内派閥の対立など、きな臭いどころか、消臭剤をぶちまけたくなるくらいの現状では不安しかない。
「アウトだ」
『駄目だろ』
『まったくその通りです。なので、公共事業が発表されてからになりますが、何かの時にはお力添えをいただければ。と』
つまり、公共事業の真っ最中にもかかわらず、ストライキを起こした時に、協力してくれということらしい。
「つまり、要請が出た時には、自分のところの荷物を選んでくれ。と?」
『はい♪謝礼は弾みますので。それと、ショウンさんには個別の御願いもありますし』
やっぱりか。
この御嬢様が純粋な御願いだけで話しかけて来るわけがないのだ。
その時、また別の通信が割り込んできた。
『はぁーいショウン!起きてる?起きてるよね?』
その正体は、見た目はショートカットでスレンダー。
顔も可愛らしく愛嬌があるが、借金女王の異名を取る貨物輸送業者だった。
『うるせえぞアルニー!』
『あ、トニーもいる!ちょうどいいわ!お金貸して!』
「『いやだ!』」
『速答しなくてもいいじゃん!』
そしてその異名の名に恥じない発言をしてくれた。
『あの…どなたですか?』
アルニーの勢いに呆れていたらしいレイアナが、恐る恐る声をかけてきた。
「借金女王だ」
『サムの奴に借りた金を返さない女だ』
『アルニー・エスフォルよ!』
俺達の返答に、アルニーは歯を剥き出してきた。
こいつはからかうと実に面白い。
『ところでその女の子はだれなの?』
ようやく落ち着いたところで、ようやく俺とトニー以外の人物がいることに気がついた。
『初めまして、私はレイアナ・リオアース。リキュキエル・エンタープライズ社の副社長を務めています』
レイアナが丁寧な挨拶をするも、アルニーはその内容についていけず、無言の時間が流れた。
『え?マジ?マジでリキュキエル・エンタープライズ社の副社長なの?』
ようやく内容が頭にはいると、当然ながらに騒ぎたてることになる。
「ああ。間違いなく、リキュキエル・エンタープライズ社の副社長で御嬢様だ」
『じゃあ超お金持ちじゃん!お願い!お金貸して!』
アルニーの突然の台詞に、俺もトニーもレイアナも耳を疑った。
「初対面の相手に借金を頼むな!」
『しかもそのお嬢ちゃん、サムと同じくらいだよな?最悪だなこいつ!』
俺とトニーが、この非常識娘に説教をしようとするが、
『よろしいですよ♪』
当の御嬢様はにこやかに微笑みながら肯定の返事をした。
俺とトニーは驚いたが、当の借金女王は満面の笑みを浮かべた。
『本当?!』
『はい。私のポケットマネーですから無利子だと1億クレジットぽっちしかお貸しできませんが…』
『十分すぎるよ~!』
アルニーは同業者からは絶対に借りられない額を前にして、夢見心地だった。
しかしそれは、この御嬢様の甘い甘い罠だった。
『では返済期限は1ヶ月後。これを1秒でも過ぎたら、脳だけを取り出してサイボーグになってもらって、ランレイの鉱山に放り込んで銀河標準時で24時間365日労働をして返していただきます』
『え?』
御嬢様の言葉に、借金女王は自分の耳を疑った。
御嬢様はそんなことは一切気に留めずに言葉を続けた。
『元金はもちろん、サイボーグへの手術費用も払っていただきますから、全部で2億クレジット以上になりますわね♪ではデータでお送りいたしますので個別番号を教えてくださいませ♪』
御嬢様の、淡々としつつも楽しそうな説明に、俺もトニーもうすら寒いものを感じた。
『いやいやいやいやいやいや!おかしいでしょう?!』
『何がでしょう?』
『1秒遅れただけで、無断でサイボーグにして強制労働ってありえないよ!』
『あら。無利子でお貸しするのですからそれくらいのリスクは当然でしょう?さ、個別番号をお願いいたしますわ♪』
アルニーが必死で反論するが、レイアナには一切通用しなかった。
『やっぱりお断りしますぅぅぅっ!』
アルニーはそう叫んでから通信を切った。
『やりすぎてしまいましたでしょうか?』
『いやあ、いい薬になったろうよ』
レイアナは申し訳なさそうだったが、俺とトニーは納得した表情だった。
怒涛の暇な時間が終わりを告げると、日課の時間になる。
操縦室コックピットの計器類をチェックの時間。
それが終われば航海日誌を書く時間だ。
『宇宙世紀00XX年…』
などと壮大に書くわけはなく、なにか特別な事がない限りは、今日の日付と作った料理。
通信の相手とその内容くらいだ。
それがおわったら後は寝るだけ。
できることなら、明日も平穏無事であって欲しい。
会話のシーンはリモートみたいになっていますが、SF作品では昔からよくあるシーンですよね。
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