File39 惑星ランレイへの貨物輸送① 信用と実績という言葉は時に恐い
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惑星ダナークズ。
この星にはとにかくレジャー施設が多い。
といっても遊園地や動物園といったファミリーで楽しむものではなく、ゴルフ・クレー射撃・乗馬・サーキット・ヨットマリーナといったセレブな感じのレジャー施設が多いところだ。
カジノコロニーの『ロングショット』が近くに有るのもその辺りが理由だろう。
さらには、大気や自然環境も良好なので、製薬会社の研究所や工場なんかも多い。
その自然環境の良さは、金持ちのためのレジャー施設が多いため、彼等の健康を考えての環境整備やエコロジー活動のお陰なのは皮肉な話だ。
その『ロングショット』からダナークズの宇宙港に帰還し、チャーリー達を下ろしたあと、報酬をいただき、船のチェックに1日費やした日の夜。
フードコートで元・晋蓬皇国領に本店があるという『とんかつの丸活』という店のカツ丼を食べようとしていたところ、不意に声をかけられた。
「お久しぶりですライアットさん!」
その声の主は、以前知り合った艦長の卵、マリーダ・ウェスロックだった。
「よう。久し振りだな」
「以前の事件では本当にお世話になりました」
「ま、元気そうでよかった」
彼女は学校の制服姿で、にこやかな笑顔を浮かべていた。
心的外傷後ストレス障害を発症している様子もないので一安心だ。
しかし、制服姿の彼女が、ここダナークズ宇宙港にいることは謎だ。
「ところで、なんでこんなところにいるんだ?時期的にはまだ演習航海中だろう」
「船のメンテナンスのために停泊してるんです」
なるほどな理由だった。
「あのう…ところでライアットさんはいつまでここに?」
マリーダは、なんとなくそわそわした様子で俺の予定を訪ねてきた。
「明日の朝イチには依頼を受けてすぐに出るかな」
「じゃあ、いまから一緒に…」
俺の返答に、なぜか嬉しそうになにか言おうとした矢先に、
「いたいた。マリーダ。懇親会遅れるわよ」
マリーダと同じ制服を着た眼鏡の女子生徒が、マリーダの肩をしっかりと掴んだ。
「ちょっとまってワエナ!私はパスで…」
「艦長の貴女が欠席してどうするのよ」
マリーダは、驚きつつも心の底から嫌そうなオーラをだしながら断ろうとするが、おそらく事件の時には倉庫に居たのであろう女子生徒・ワエナがそれを許さなかった。
「あんなおじさんおばさんと一緒で息苦しいのはいやーっ!」
マリーダは逃げ出そうとしたが、今度はしっかりと首根っこを掴まれてしまった。
その様子が、魚でも盗んで捕まったドラ猫のようで、思わず笑いそうになったのは秘密だ。
「前回といい今回といい、本当に有り難うございました」
マリーダを捕獲した女子生徒・ワエナは、俺に丁寧に頭を下げてきた。
「懇親会、がんばってな」
俺は事件のことには触れず、軽く手を振り返した。
事件のことはショックだったろうに、それでも前を向いている彼女達なら、いい船乗りになるだろう。
翌朝。
早めにカウンターに向かい、良さそうな依頼がないか、腕輪型端末を検査機にかざしながら受付嬢に訪ねた。
「すぐに出れる依頼のリストがあれば見せて欲しいんだが」
「ショウン・ライアット様ですね。少々お待ちください」
受付嬢はにこやかに対応してくれた。
さすがにここにまでは、俺の作ったデザートが広まってはいないらしくほっとした。
「現在出庫待ちはこれだけありますね」
彼女の見せてくれたリストには、30件程の依頼が載っていた。
暫くすれば、同業者が依頼を次々に持っていくだろう。
そのなかのひとつに、俺は目を止めた。
「…これはランレイ行きの医薬品の配達か…。この前と同じ会社か?そういや前は会社名は確認してなかったな」
普段は依頼先をきちんと確認するのだが、あの時は受付嬢たちの迫力のせいで、そこまで確認はしなかった。
いや、早いとこその場から逃げ出したくて、積み荷のチェックだけで受けたのだ。
この前のは、消毒液やら医療用の縫合パッチやら、外傷の時に使用するものが殆どだったが、それに加え今回は内服薬や注射液や無針注射器本体なんかも追加され、量も増えている。
「なになに…ソンブレロ社?」
会社名を確認したとき、なぜかよくはわからないが、なんとなく不穏な、嫌な空気を感じ取ったような気がした。
俺はその不安から、受付嬢にたずねてみた。
「ヤバイ会社じゃないよな?」
「信用と実績のある製薬会社ですよ?」
「聞いたことないんだけど」
「病院相手が専門の製薬会社みたいですよ。どうします?お受けになりますか?」
受付嬢は事も無げに返答してきた。
その事も無げさがさらに不気味だ。
とはいえ、じいちゃんからの教えに、医療品・医薬品の依頼はできるだけ受けるようにと言われてきた。
まあ、前回の依頼にも怪しいところはなかったし、その後になにか事件があったわけでもないので、俺は不安にかられながらも、依頼を受けて停泊地に向かった。
停泊地に到着したと同時に荷物がとどいたので、すぐに積み込みを開始、30分ほどで完了した。
貨物室の扉が閉まっているのを始めとして、全てのチェックを完了させると、管制塔に通信をいれる。
「管制塔。こちら登録ナンバーSEC201103。貨客船『ホワイトカーゴⅡ』。出港許可を求む」
『こちら管制塔。『ホワイトカーゴⅡ』出港を許可する』
「了解、管制塔。ランレイのお天気は大丈夫かい?」
『今のところは安定してるな。到着までそのままなことを祈るよ』
実は惑星ランレイは、磁気嵐がよく起こることで有名だ。
ランレイが鉱山惑星だからと言われているが、原因は不明だ。
ちなみに磁気嵐が起こると、銀河標準時で最短4時間、最長5日間という記録がある。
「エンジン点火。微速前進」
そんな不安を考えつつも、宇宙港の外縁部まで船を進めたのち、超空間跳躍可能な宙域まで第一船速で移動すると、エネルギーをチャージする。
「超空間跳躍の座標軸固定。目標惑星ランレイ。エネルギーチャージ開始」
そして数分でチャージは完了し、
「エネルギーチャージ完了。超空間跳躍開始」
超空間のトンネルに侵入する。
「超空間に侵入。これより自動航行装置に移行する」
これで後は、惑星ランレイまではのんびりできる。
何事もなければ…
ソンブレロ社は信用ある老舗の製薬会社です!
『丁―ういるす』なんかは製作していません!
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