File30 首都惑星ヴォルダルへの貨物輸送④ 選ばれたい人
今回主人公の出番は極少です。
相手の艦からの連結通路が繋がると、その先には准将閣下と若い女性が出迎えをしていた。
「戦艦カシナートへようこそ。では貴賓室に案内させましょう。マリア・ハルエス少尉。お三方を貴賓室に」
「此方へどうぞ」
女性士官が3人を内部へと促す。
しかし、
「私はショウンさんとシュタインベルガーさんに少しお話があるので、先にいっておいてください」
「荷物はあとから私がお運びします」
評議員閣下とサラさんは、俺と准将閣下に用事があるらしく、補佐官に先に行くように進めた。
「では、私は先に向かわせていただきます」
そういうと、補佐官は女性士官に自分の荷物を押し付けた。
視点変換 ◇ジェームス・ハンズクリット◇
まったく、一刻も早くあんな船からは退散して正解だな。
あのカタツムリめ!
ルナーシュ様になれなれしい口調で話しかけられおって!
それに、女の姿があそこまで整っているのなら、始めから女の姿でこの俺の前に現れるべきだろう!
その上で、この俺に滅私奉公をするのが当然の行動だろうが!
そうすれば、カタツムリとわかったあとでも使ってやったというのに!
それと、先ほどのルナーシュ様がおっしゃった、私をクビにするなどというのは、あのカタツムリを大人しくさせるための方便だ。
この優秀すぎる俺を手放すわけがない。
それにしても、あの優男は忌々しいな。
この俺よりもいい出世コースにのってやがる!
あの歳で准将とは信じられない!
そうだ!出世の為の裏工作をしたと流言を振り撒いてやるか。
それにしてもこの船の貴賓室は遠いな。
「おい!貴賓室はまだか!?」
「もう少しです」
「後でちゃんとルナーシュ様もご案内しろよ」
まったく。
あんなカタツムリと優男になんの話があるというのだ。
「こちらです」
「ふん。少し地味だが、戦艦内部のものだからこんなものか」
そこにピピッという音が響いた。
「失礼、通信です。はい。案内は終了しました…」
どうやらこの女の軍用端末からの音だったらしい。
それにしても戦艦の貴賓室は地味だな。
もう少し装飾に凝ればよいものを。
さて、まずはこの女に、俺に使われる名誉をあたえてやるか。
「失礼しました。では私はこれで」
「待て」
「なんでしょう?」
「この俺がお前を使ってやる。シャワーを浴びてこい」
「そういうことをご所望なら、この船の速度なら数時間で惑星ヴォルダルに到着しますので、ご辛抱ください」
この女…少尉程度が俺の命令に逆らいやがって!
「俺が使ってやるといってるんだ!俺に逆らうのは、ルナーシュ評議員に逆らうのと同じだぞ!」
「どうやら艦長の判断は正しかったようですね」
するといきなり、この女は俺の腕をねじりあげて手足を拘束し、俺の銃をとりあげた。
「きっ貴様っ!なんのまねだっ?!」
「ジェームス・ハンズクリット。貴様には安全運航妨害罪・暴行未遂罪・侮辱罪で捕縛指示がでている。
通報者はウィルティア・ルナーシュ。
被害者はショウン・ライアット。
よって、ヴォルダルに到着するまでは、この部屋で監禁・拘束される。ついでに私への強要罪も追加だ」
「ここは貴賓室だぞっ!そんなことに使っていいわけがないだろう!」
「軍艦に貴賓室は本来は不要。しかし、貴様のような無駄に地位のある人間を閉じ込めるための牢獄をかねているから問題ない」
「何だとっ!?准将を呼べっ!この俺を不当な扱いをしやがって!」
「これは准将の指示です」
「そんな権限はあるはずないだろうが!」
「補佐官なのにしらないのか?我々銀河共和国防衛軍は、治安維持のために出動することもあるため、緊急時の逮捕権限を有しているぞ」
「ならばこれは不当逮捕だ!劣等種族のカタツムリに対してしたことなど、罪であるはずがないだろうが!」
「いまので侮辱罪が増えたな。私もシュメール人なのだ」
カタツムリの女は、俺の銃と荷物を手に、扉に向かった。
そして部屋からでると、
「そうそう。貴様は惑星ヴォルダルに到着した時点で、補佐官資格の剥奪・身柄をGCPOに移されるそうだ。貴様の母親も、致し方ないと納得したらしいぞ」
それだけ言い捨てて、扉を閉めた。
そして室外からの強制ロックの音が聞こえた。
「そんな…嘘だ!嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
時間は少しもどり…
視点変換 ◇ウィルティア・ルナーシュ◇
彼が女性士官に連れていかれると、
「ショウンさん。通信機を借りてよろしいですか?」
「どうぞ。使い方はわかりますか?」
「大丈夫です」
私はショウンさんの船の通信機をかりて、2ヵ所に対して同時に通信を発信しました。
すると、さして時間を置かずに両方から返信がきました。
『君から連絡とはめずらしいな。何かあったのかね?ルナーシュくん』
片方は、銀河共和国評議会・管理本部部長のコーディム・ボーウッドさん。
人柄のよいお顔をしたおじ様で、私が評議員になったばかりの頃からの知り合いです。
『お久しぶりねルナーシュ評議員。今日はどうしたの?評議会の管理本部長もいるみたいだけど』
もう一人は、私の補佐官、ジェームス・ハンズクリット母親であり、ハンズクリットコーポレーション社長であるエメルダ・ハンズクリット婦人です。
私は襟を正し、深呼吸をしてから口を開いた。
「今回ご連絡したのは、評議員補佐官のジェームス・ハンズクリットの所業についてです」
『息子がなにかしでかしたのね…。色々噂は聞いていたわ』
『ご家族を前に心苦しいが、彼の行動はひどいの一言につきる』
評議会の身内でもあり、エメルダ婦人にとっては実の息子。そのこともあって心苦しかったのですが、どうやらある程度は事前にわかっていたようでした。
『それで…息子は何を?』
「宇宙船の船長に対する安全運航妨害・暴行未遂。そしてシュメール人である私の中学生時代の友人への、『カタツムリ』という侮辱罪。そして、私の私設秘書であるサラ・トライミナルへの強姦未遂です!
これは今回だけのものですが、いままでの様々な問題行動・問題発言に我慢できなくなり、ご連絡しました」
「ルティア。私は気にしてないから。それに、かなり前の話だし…」
「駄目です!そこはきっちりしないと!」
サラは取り下げようとしますが、それだけは譲れません!
私の家族であるサラに乱暴をしようとしたことは、絶対に許せません!
『育て方を間違えたわね…。遠慮することはないわ、容赦なく処断してください。そちらにいるのは防衛軍の方ね』
「はっ!自分は銀河共和国防衛軍主力艦隊司令官兼旗艦カシナート艦長、ラインハルト・シュタインベルガー准将です」
『では、ジェネラル・シュタインベルガー。私の息子。評議員補佐官のジェームス・ハンズクリットを拘束してください。どうかお願いします』
「了解しました」
エメルダ婦人は、眉間を押さえながらも、御自身の息子の逮捕を承諾、そばにいたシュタインベルガー准将に要請してくださいました。
『ともかく彼の補佐官の解任と、GCPOへの逮捕要請をしておかなくてはな…』
お二人とも真剣な表情を浮かべ、溜め息をつきながら、ジェームス・ハンズクリットの補佐官解任を承諾してくださいました。
これで、ようやく彼から解放されます。
『ではルナーシュくん。君も准将の船でこちらにもどって来てくれ』
「いえ、こちらのライアットさんへの依頼が完遂していないので…」
せっかく邪魔者がいなくなったのに、別の船には移りたくありません。
しかし、
『こういった場合、依頼の修了証を発行し、銀河貨物輸送業者組合に報告すれば完遂扱いになるはずだ。それに、通報者本人が同席してくれなければ手続きが面倒になる』
と、正論をいわれてしまい、銀河共和国評議員としては、同行せざるを得ません。
「わかりました…」
あと二晩、ライアットさんといっしょに居たかったのに…
恨みますよボーウッドおじ様!
銀河貨物輸送業者組合に報告し、ライアットさんへの依頼が完了したことを報告。
支払いは、ライアットさんの意向で、ヴォルダルに到着してからになりました。
そしてついに、シュタインベルガー准将の船に乗り込むことになりました。
「あ、ちょっと待って下さい」
いつの間にか男性に戻っていたライアットさんが、保冷ボックスをもってきました。
「本当は今日の夜に出すつもりだったんだが、せっかくだから持っていってくれ」
中身を確認すると、中学3年の文化祭の時に人気になった、直径12㎝・高さ3.5㎝・100クレジットショップの磁器の器に入ったカスタードプディングでした。しかも6つ!
「安っぽいので申し訳ないがな」
とんでもない。私には最高のお土産です!
拘束されている彼がいない、『正式な貴賓室』に案内された私とサラは、ライアットくんから渡されたカスタードプディングの入った保冷ボックスを眺めていました。
「よかったの?告白しなくて。このあとはスケジュールはいっぱいになるわよ?」
サラが、私のスケジュールをチェックしながら、からかうように声をかけてきました。
「私じゃあまだ彼には敵わないもの」
私は今現在、銀河共和国評議員であり、子供の頃から天才と言われてきました。
でも、補佐官1人を御することもできなければ、評議会で意見を通すこともできません。
後ろ楯がなければ評議員ですら難しいかも知れないのです。
ご両親が亡くなり、15歳で世間の波に揉まれ、お祖父様が亡くなった後はたった1人で船を操り、宇宙を駆け回る彼に、私が敵うとは思いません。
お料理だって、私よりもずっと上手なんですから。
「そうよねえ。女の子の姿の時は、あなたより遥かにスタイルがいいものね♪胸は大きいし、ウエストは細いし、手足もスラッとしていて、肌もすべすべ、顔も美人だし♪」
「そっちじゃないです!」
サラはにやにやとしながらからかってきます。
確かにスタイルでは間違いなく負けてるけど…。
それに彼は、最初の時以外、私のことを『ルナーシュ評議員』としか呼んでくれなかった。
でも、待っていてください。
私は貴方に選ばれる人間になってみせますから!
視点終了
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