外部File バレンタイン記念 SS 友達(女の子)からのチョコ
バレンタイン記念です
舞台は、ショウンが学生(中学生)だったころのお話です
ある惑星上のとある都市。
そのとある町の中学校への道を、一組の男女が歩いていた。
「なあ、頼むよ」
「なんで俺に頼むんだよ」
「友達だろ」
制服を着た彼らは、先にある中学校の生徒であり、小学校からの友人であった。
「だからって男の俺にバレンタインの本命チョコを要求するな」
その片方、絹糸のような銀色の長い髪を、校則にしたがってポニーテールにしている女子生徒が、男子のような口調で、横にいる平凡を絵に書いたような男子生徒のお願いを一蹴した。
「今日は女じゃないか!」
「たしかにそうだけど、俺が女の姿でお前にチョコを渡したところで、クラスメイト全員が知ってるんだぞ?」
「わかってるよ!それでも女の子から本命っぽいチョコを貰うっていう欲求を満たしたいんだよ!心配するな!チョコは用意してある!」
「お前大丈夫か?」
「大丈夫だ!」
(早いとこ医者に連れていくか…)
男子生徒の鼻息の荒さに、女子生徒は半ば呆れていた。
ちなみに、先の男子生徒の
「今日は女じゃないか!」
という発言は、決して間違いではない。
銀髪の女子生徒、ショウン・ライアットはシュメール人である。
中学に入ってすぐに、性別変更が可能になり、月に一度『月のもの』が始まると、普段の男子の姿から、女子の姿にかわる。
その時は女子の制服を着用することが、義務づけられているのだ。
そして昼休み。
「ほらほら男共!チョコをくれてやる!」
クラスでも社交性が高く、人気者でもある女子生徒、エイシャ・デランダが、いわゆる徳用チョコをばら蒔くと、チョコに餓えた男子生徒が彼女の下に集まり、
「「「「「うおぉぉぉぉぉぉチョコだあぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」」
阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されていた。
もちろん、撒く方も撒かれる方も、ノリでやっているだけだが。
「ほら、チョコくれるらしいぞ」
「完全に義理だろあれは」
そのチョコ撒き風景をみながら、ショウンと、その友人であるケビン・コールマンは昼食を食べていた。
そしてそのチョコをばら蒔いているエイシャ・デランダがチョコを撒き終わると、ケビンは意気揚々と立ち上がり、ショウンに自分が買ってきたチョコを差し出した。
「さあショウン!これを俺に渡してくれ!」
ショウンはチョコを受けとると、
「ほれ」
まるでプリントを渡すようにチョコを差し出した。
「ちがーう!もっと恥ずかしそうにはにかみつつ!」
「こ、こうか?」
ショウンは、ケビンに言われたとおりの表情を浮かべたつもりで差し出してみた。
「ちがうちがう!そこは、『ケビン君…これ…受け取ってくださいっ!』みたいな感じで手渡してくるんだよ!」
「け…ケビン君。これ受け取ってください」
また言われたとおりの表情と台詞を言うも、ダメ出しをくらう。
先ほどチョコをばら蒔いていたエイシャ・デランダの視界に、2人のやり取りが目にはいった。
「なにあれ?」
「ケビンのやつが、女の子に本命チョコを渡してもらうのを味わいたいんだっ!て、たまたま『月のもの』だったショウンに相手役頼んだんだってさ」
「アホじゃん」
クラスメイトたちは、ショウン・ライアットがシュメール人で、基本性別が男子なのを知っている。
ゆえにその光景は、コントのようであった。
それから15分間。
昼休みが終わる寸前になっても、まだOKをもらえていなかった。
「ダメダメダメダメ!もっとこう…ほのかに色気を漂わせる感じで!なんでできないかなあ!」
ケビンのあまりのダメ出しに、ショウンはついに限界がきた。
演劇部でもないのに、ここまでやらされたあげくの罵詈雑言は看過できなかった。
なので、チョコの包装をといて中身をだすと、ハート形のミルクチョコレートにホワイトチョコで『ILoveYou』と書かれたチョコを、
「ふんっ!」
拳で叩き割った。
「あーっ!俺の本命チョコ!」
自分で購入したチョコが叩き割られて愕然とするケビンに、500クレジット硬貨くらいのチョコの欠片を手に取ったショウンが近寄ってくる。
「お前よくもこんな酷いことを…ってなんだよ?!」
ケビンは文句を言おうとするが、ショウンに睨み付けられ、壁に追い詰められた。
ケビンを追い詰めたショウンは、手にもったそのチョコを口にくわえた。
「ほら。たへろよ」
「え?」
「くひ開けろ」
ショウン・ライアットはシュメール人であり、基本性別は男子である。
しかし、シュメール人は男女どちらの性別も選べるため、基本性別が同一であったとしても、恋愛感情が発生すると、世間一般にも知られている。
ゆえに、普段から仲良くしていたショウン・ライアットが、密かにケビン・コールマンに恋愛感情を抱いていたとしても不思議ではない。
その突然の壁ドンとチョコの口渡しに、クラスメイトの視線が集中する。
(マジか?)
(だっ大胆すぎますっ!)
(ケビン、後で殺す…)
ケビン・コールマンは、今現在完璧な美少女である友人の、チョコをくわえた唇に魅了されていた。
(マジか…。ショウンの奴はシュメール人。シュメール人は恋愛感情を抱いた相手と番になれる性別を選ぶ!そして今のコイツは間違いなく美少女!だったら…いいんだよな?)
ケビンが口を開け、眼を閉じて近づくと、ショウンは右手でケビンの歯を掴み、くわえていたチョコを左手で掴んだ。
「調子にのるなよケビン?何度も何度も下らねえことやらせやがって。まだ続けるつもりなうえに、詫びも入れないつもりなら、このまま歯を折る」
右手に力を込めながら、冷たい視線をケビンに向ける。
格闘技やCQCを訓練している友人が怒った時、本気でおっかないのをケビンは知っている。
「ひゅいまへんれひた!もうひゅうひょうひまふ!」
ケビンが、本気で謝罪すると、左手にあったチョコをケビンの口に指で押し込んだ。
「こんどおごれよ」
そのショウンの言葉に、ケビンは思わず頷いた。
そうして壁ドンからケビンを解放したショウンに、
「なあライアット。俺にもさっきのをやってくれ!」
「ずるいぞ!俺が先だ!」
「指はっ!指はぺろぺろしていいのか?」
クラスメートの男子がショウンに群がってきた。
じつは先ほどの行動は、ショウン・ライアットが姉と慕う、サラフィニア・ドラッケン嬢が、男性を圧倒するときに使用する手段の一つであったのだが、思春期の青少年にとっては思いの外、刺激が強かったらしい。
「なんなんだいきなり!?」
男子生徒達は、見た目美少女のショウンにチョコを食べさせてもらおうと必死になっていた。
そんななか、1人の女子生徒がショウンに話しかけてきた。
「ねえ、ライアット君…」
「あ、委員長!助けてくれ!」
これ幸いと、ショウンは真面目で誠実な委員長に助けを求めた。
が、彼女の発した言葉は信じられないものであった。
「私にも今のをしてほしいのっ!なんなら歯も折っていいから!」
「「「「「「え?」」」」」」
その彼女の言葉を聞いた、その場にいたクラスメイト全員が言葉を失った。
「いやいやいやいや!委員長なにいってるの!」
「お願い!前々からずっと御近づきになりたかったの!御姉様!」
「同い年だから!」
ショウンの手を握って懇願してくる委員長の爆弾発言に、全員が困惑する。
しかしその混乱は、教師の登場によって終息せざるをえなかった。
後日。
ケビンはショウンを伴ってファミレスに来ていた。
「なんで男の姿なんだよ!」
「『月のもの』は終ったからな」
私服姿のショウンは、ケビンの怒りをよそに、一番高いステーキのセットを食べている。
「俺が承知したのは女の方だ!いますぐ女になれ!」
「いやだね」
歯ぎしりするケビンをからかいながら、ステーキを口に運んでいくのだった。
タイトルは、ケビン視点からのものです。
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