File13 首都惑星ヴォルダルでの買い物① 御嬢様との遭遇
ネタがストック出来たので連載再開です!
更新は不定期になるとおもいます
無事に退院し、軍学校のガキ共の裁判がおわり、軍からの慰謝料と、GCPOからの金一封で、廃船となった船のローンはなんとか払い終えた。
だが、船がないままでは貨物輸送業者の仕事ができるはずはない。
ならば新しい船を購入するしかないわけだが、俺が基点としている惑星オルランゲアでは、扱っている船の数が少なく、俺の眼鏡に叶う船がなかった。
何より価格の面で。
そんな時、テレビで中古新古の宇宙船の販売会が、首都惑星ヴォルダルで開かれるCMをみた。
さらに銀河貨物輸送業者組合には、詳しいパンフレットが置かれていた。
なので俺は、首都に行く事に決めた。
首都惑星ヴォルダルまでは定期便をつかう。
評判が悪く、ストばかり起こすスターフライト社のではなく、リキュキエル・エンタープライズ社の運営する定期便だ。
リキュキエル社の定期便は、『旅は優雅に』がコンセプトなため、船の全室が個室で、ラウンジやレストランなど色々と充実している。
そのため、寝室用カプセルと売店だけの船よりはお高めだが、スターフライト社がストを繰り返している今の状況だと、きちんと時刻表通りに動いてくれているだけでありがたい。
そのリキュキエル社の客船『リューブン』号の船内展望ラウンジで、俺は超空間移動中に映し出される、惑星上からの宇宙空間、いわゆる星空をながめていた。
自分が運転に一切関わらないというのは実に楽でいいが、物足りないのも事実だ。
「我が社の定期便はいかがでございますかお客様?」
そこに、若い女の声がかけられた。
正確に言えば、若いではなく幼いだ。
俺に声をかけてきたのは、金髪碧眼に白い肌。
シンプルだが上等な生地で出来ているシャツにスカート。
ロングヘアーを綺麗な一本三つ編みにした、美少女といっていい、10歳位の女の子だった。
「快適だよ。快適すぎるからすぐに降りないと船の操縦を忘れそうだ」
「そうなったら私が就職先をお世話いたしますわ。そうだ♪リキュキエル・エンタープライズ社副社長の専属料理人というのはいかがでしょう?」
女の子は大輪の華のような笑顔を浮かべ、俺の顔を見つめてくる。
その手の趣味の連中なら、興奮して暴走しかねないくらいだ。
が、俺には通用しない。
「断る」
「むう…美少女の私の専属ともなれば誰もが羨ましがる地位なのに…」
「そういう台詞はあと10年たって、身長も体つきもそれなりになってからにしろ」
「5年で十分です!」
この女の子はレイアナ・リオアース。
この船を所有・運航するリキュキエル・エンタープライズ社CEO・ガリウス・リオアースの一人娘だ。
以前に俺の船に客として乗ってきた時に、俺の作った料理にえらく感激し、それ以降、時々なにかと理由をつけては俺の船に客として乗ってきて、自分の所に引き抜こうとしてくる。
「何で私の専属料理人になってくれないんですか?」
「俺は貨物輸送業者だからな」
なので、どうしてもこういうやり取りが生まれてくる。
姉ちゃん達といい、レズ集団のボスといい、どうしてそう俺を料理人にしたがるんだ?
軽くため息をついていると、レイアナの後ろから、執事服を着こなした若い男が身を乗り出してきた。
「では!今すぐに女性に変身していただいた後に、この私めの愛人に…」
「あなたはすっこんでなさい!」
「ぐおぉぉぉっ!」
優雅な動作で、俺に一礼をしながらアホな要求をしてきた男の脛に、ガツン!という音と共に、レイアナの靴の爪先がめり込んだ。
男は悶絶し、蹴られた脛を押さえながらその場に倒れこんだ。
「おっ…お嬢様っ…強化プラタイトの仕込まれた靴で脛を直撃はご勘弁を…」
「だまりなさい!恥ずかしい真似をして!」
「と…ともかくお久しぶりでございますライアット様…」
蹴られた脛を押さえ、痛み悶えながらあいさつしてきたこいつは、レイアナの専属執事兼護衛のトーマス・フェイフォス。
秘書としても護衛としても優秀だが、女好きでナンパばかりしている奴だ。
まあこの馬鹿はともかく、なんだってリキュキエルのお嬢様がここにいるのかが謎だ。
「それよりどうしてここに?この船がそちらさんの所有なのはしってるが」
「取引の帰りなんです。それに、そろそろちゃんと学校にもいきたいですし、友人にも会いたいですし」
その理由を尋ねたら、あっさりと答えてくれた。
まあ、隠すような内容でもなかったからだろうが。
「お父様と取引先の方がいちいち私を指名するんです。まあ、取引先は私が子供だから自分達に有利な条件を押し付ける気が満々でしたけどね」
レイアナは、心底うんざりした表情を浮かべていた。
わずか10歳で父親の代理を務めあげるのだから、さぞかし御苦労なことだろう。
「大変だな。大企業の跡取りも…」
俺はしなくてもいいため息をついてしまった。
「そういえば、首都惑星へは船の購入に?」
優雅に紅茶を飲みながら、レイアナは俺の目的を指摘してくる。
「なんでわかるんだ?てのは愚問か」
例のガキ共の事件では、俺は協力はしたものの、あくまでもいち被害者で、解決したのは軍学校の生徒達、というのが全面に報道されている。
その方が、軍の面子が保たれるかららしいし、俺も周りが騒がしくならないから有難い。
なので、俺の被害までは詳細に報道されてはいない。
が、リキュキエル社の副社長にとって、その辺りの情報を手にいれるのは造作もないことだろう。
「我がリキュキエルエンタープライズ社も、協賛しているんですよ」
「そりゃ流石だな」
「私の専属料理人になっていただけるなら、格安でご提供いたしますわよ?」
「お嬢様。それでは目的が矛盾してしまいますよ」
レイアナは、興奮した様子で俺には詰め寄ってくるが、トーマスに矛盾を指摘されると、恥ずかしそうに黙ってしまった。
興奮すると話がちぐはぐになるのは、やはりまだ子供ということなのだろう。
視点変換 ◇ロナ・フラング◇
私はロナ・フラング。
銀河貨物輸送業者組合の惑星ソアクル支部で受付嬢をしています。
そして今日は長めの休暇をとり、首都惑星ヴォルダルで行われる、ギャラクシーコミックフェスティバルに参加するために、同人仲間(腐女子)とこの船に乗っています。
オルランゲア発の便に乗っている理由としては、〆切ギリギリまでやっていた同人原稿の制作の作業と打ち合わせのため、オルランゲア在住の友人宅に集まっていたからです。
そして今は、展望ラウンジの一角に陣取り、船内の乗客・乗員を腐観察しています。
「あの2人は絶対そうよね。距離感が怪しいもの」
「あのショタっ子たちは最高ね!あんなにも無防備で…」
「あの人は受。あのリーマンは攻。あの船員さんも攻。あの学生は受…」
全員小声ですが、周りに聞こえたらドン引きもの間違いなしの会話を繰り広げています。
「ねえねえあの2人いい感じじゃない?」
「どれどれ?」
そのオルランゲアにいる友人・ティミーの指さした先を見つめると、そこにいたのは、よく知っている人でした。
「あの白い髪の方は受けね。茶髪の強引な誘いを、始めは嫌がるけど最後はって感じよね」
ティミーは興奮しながら妄想を爆発させていますが、私の場合は見つかってしまうと色々後で不味いことになりかねません。
船に乗っている事は問題ありませんが、目的を聞かれた時に、返答に困ります。
なので、ソファーに隠れる事にしました。
「どうしたの?」
「あの白い髪の人、知り合いなのよ」
「どういう人なわけ?」
「貨物配達業者で…シュメール人なの」
シュメール人と聞いた瞬間、ティミーを含めた全員が、ライアットさんに視線をむけました。
その理由としては、いま私達のブームになっている作品の登場人物に、シュメール人がでてくるからなのです。
「マジでシュメール人?」
「てことは、男の性別のままで男を好きになる可能性もあるっ!てことよね!」
「『女の俺じゃなくて、男の俺を見てくれっ!』が、リアルであるわけだ!」
全員が興奮し、妄想を始めました。
ムリもありません。
腐女子にとって、『萌え』の材料が目の前にあるのですから、興奮しないわけがありません。
「ねえ。立体映像ないの?男女両方の」
そう尋ねられた私は、こっそり撮っておいたライアットさんの立体映像を仲間にみせます。
そしてそれを見せると、ほぼ全員が驚愕の表情をみせた。
無理もありません。
なにしろライアットさんの女性の姿は、女の私から見ても見とれてしまうような美人。
その上スタイル抜群で、胸もスッゴイのですから。
「そりゃあ男は女バージョン見たら惚れるわ…」
「ぜひともこの巨乳を生で揉んでみたい…」
「ねえロナ。他に情報はないの?」
友人達は、鼻息を荒くしながら私に詰めよってきました。
「私も聞いただけの話ですけど、お料理上手で家事も上手らしいですよ」
「「「御奉仕系キターーー!」」」
全員が、小声で叫ぶという高度な技で驚きを表現しました。
「だったら絶対、知り合いとか友人が病気の時に看病に行ったりとか…」
「いやいや。宇宙船の中で長期滞在中に…」
こうして腐女子は目的地到着まで、妄想に胸膨らませるのでした。
用語解説
シュメール人:過酷な環境に陥った人類の進化の結果とも、遺伝子操作による改良人類とも言われている、雌雄同体のヒューマノイド。
産まれる時には男女どちらかの性別で産まれてきて、成長するともう片方の性別に変身する事が出来るようになる。
その為、シュメール人は例外なく中性的な容姿になり、変身時に髪が伸び縮みする個体も確認されている。
同時に、雌性体=女性の姿の時には、雄性体=男性の時の姿を連想させづらいように、乳房がより肥大する傾向にある。
精神傾向=心は産まれた時の性別に準ずるが、基本的には男女のどちらに対しても恋愛感情を持つことは可能である。(両刀使い)
普通のヒューマノイド同士でもたまに産まれることがあるため、現在は人権や権利は完全に保証されているが、生態が確認された初期には、迫害・人権剥奪などが行われ、現在でも差別的な考えを持つものがいるが、減少傾向にはある。
改めての主人公の種族説明です。
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