いきなりの山場
ー登場人物紹介ー
◆桜田風晴・・・田舎の農業高校2年。
◆大道正火斗・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。
◆安西秀一・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。
◆桂木慎・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。
◆神宮寺清雅・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆椎名美鈴・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆真淵耕平・・・灰畑駐在所勤務。巡査部長。
◆真淵聖・・・耕平の長男。農業高校2年。
◆羽柴真吾・・・関光組組員。6年前から消息不明。
◆緑川まどか・・・羽柴真吾の女。6年前から消息不明。
その頃 2階に上がったメンバー達もまた、オープンスペースで話をしていたのだ。
「保険金、金額上がってたな。3億超えじゃ本当に狙われるぞ、桜田」
桂木は真剣な顔で言った。
「羽柴真吾は消えたけれど緑川まどかは残ってる。しかも首謀者は彼女の方だ」
安西も分かっていた。
「私達、もうすぐ帰らなくちゃいけないですよね。桜田くんに何をしていけるでしょうか……」
椎名の言葉に沈黙が広がった──が、神宮寺が
「思い出を作りませんか!?」
と急に叫んだ。
「なんで命狙われてるのに……思い出?」
椎名に睨まれて神宮寺はオドオドしながら説明する。
「いれる時間が限られているなら 楽しい思い出作ったらいいかなって。どうせ僕らじゃできることないし……」
「桜田くんを見捨てるんですか!」
椎名は怒ったが、安西と桂木は笑顔だ。
「悪くないんじゃないか?ビクビクしてるより風晴と楽しんでさ。で、その間になんか策を部長に考えてもらうとか」
桂木に続いて 安西も賛同した。
「明後日ちょうど椎名の誕生日だろう。誕生会ってことにして 何かやろうか?バーベキューとか手持ち花火とか」
「僕、ケーキ作っても良いですよ!みんなに!」
神宮寺が言ってくれたが、3人の頭には 彼が母の日に作った"雪崩発生雪山ケーキドカ盛り"の写真が浮かぶ。
「あ!ケーキは 桜田くんが作ってくれてることになってました」
「神宮寺は肉焼いてくれよ、肉。1番重要な役割なんだぞ」
「花火のバケツとか紙皿数えるとか、もう仕事は無限にあるよ」
3人の必死の意見に、神宮寺もなんとか思い止まったようだ。
「……確かに、前に桜田くんが作ると言ってましたね。準備を頑張ります。
僕ら6人に北橋さん、安藤さん、桜田くん、風子さんに大河さん…あとは……」
「真淵!声かけてみたらいんじゃないか?」
桂木が指を鳴らして言った。
「私はいいですよ。バーベキューと花火ってことで呼んだらどうでしょう?」
椎名は気遣いのある発言だった。
「じゃあ、水樹に真淵くんに連絡してもらおうか」
と安西の言葉に──全員が静かになった。
安西は3人の顔を見回して
「何?……何なの?」
と聞いた。
桂木が まずゆっくり答えた。
「何って……そこへ連絡頼むの彼氏としてどうなんだろうと思ったんだよ」
「それも、3日前にできたばかりの彼女に ですよね?」
と神宮寺。
「水樹さんが親しくなろうとしていた相手にあえて連絡させるって、安西先輩は平気なんですか?」
はい、椎名だ。
「ちがう!全然ちがう!!!」
真っ赤になって 安西は否定した。
「そうですよね。好きなら心配ですもんね。真淵くんへの連絡は桜田くんに頼みましょう」
「そうじゃなくて!……彼氏とか彼女とか、ちがうから……」
一瞬 間を置いて
「「「はい!?」」」
と3人が聞き返す。
安西は赤い顔で眼鏡に手をやり、答えた。
「彼氏とか彼女とかになってない。付き合ってない」
「「「え────────!!?」」」
オープンスペースに3人の声は響き渡った。
桂木と椎名と神宮寺に 安西は散々責められた。
逃げるように外に出てきた。自動販売機に行くと言って。
警察達は午後から来たので、もう夕暮れ時だった。最近は雲も多くなり、日が短くなってきてる気がする。ゆっくりとだが、確実に 夏は終わりに近づいている。
方向は自動販売機の方でも、ハッキリ言って何処ということもなく 安西は歩き出した。
(分かってる。分かってはいるんだ。何かしなくてはいけないって。──水樹に)
だが考えようとして 彼女を思い浮かべると──
途端に どうしたらいいか分からなくなる。
だって大道水樹なんだ
美しくて綺麗で美麗で可憐でまばゆくて……
比類無くて尊くて完璧だ。
そう言う人間に何て言う?
"好きだ"
なんて言ったって彼女にとっては
天気予報の雨 程度の響きかもしれない。
いや、曇りかも
多分雨より頻度が高いから。
そもそも水樹に目を奪われない男なんていない。
誰だって彼女に惹かれる彼女に焦がれる。
自分だって……水樹が
すすすすすすす好き……だ
輪命回病院で爆破に巻き込まれるかもと思った時も
襲われそうになったと北橋さんから聞いた時も
心臓が止まる想いだった。
大切で大切で仕方ないんだと分かった。
だから……だから仮に"好きだ"と告白はしたとしても
告白は!しても!だ!
……でも"付き合って下さい"なんて頼めるだろうか。
申し入れることすら 申し訳ない気がする。
そうしてお願いしたって、水樹に僕が何をしてあげられるだろう。
勉強ばかりして勉強だけが取り得の自分なのに。
与えられるものなんか 何も無いじゃないか。
色々考えて歩いていたら、自動販売機を越えて坂の上の方まで来ていた。
(ええっと……風晴のお爺さんの畑って……これかな?)
上がりきると、野原のようなものが広がっているのがわかる。緑の敷地の中に、色とりどりの花が入り混じっていた。山岳の向こうに西陽は隠れ始め、安西は少しの間 その風景を見て 心地良い風に吹かれた。
「秀一!」
突然 呼ばれた声に、自分が今いる方が夢の中なのではないかと思う。
坂の下に目をやると……それも恐る恐るになったが、
やはり──彼女がいた。
水樹は走ってきていた。まだ暑さの残る夕暮れに、坂を駆け上がるのはかなりの負担のようで、彼女は息を切らしていた。
真っ白な頬は桃色がさし、ミントグリーンのTシャツが上下する。長い髪は風に吹かれていて、その姿が安西の瞳にはとにかく……
綺麗だ
ただそう映る。
水樹は駆け寄ってきて
「スマホ置いてったでしょ?夕食の時間だから呼びに来た。それから……」
そこで 彼女は息を整えて時間を置いた。
「それから、話があって……」
何も言えずただ見つめる。その安西の瞳を水樹が覗き込むようにして──目が合った。
ドクンッ と
鼓動は跳ね上がる。
「わ、私は 秀一が好きなんだけど。あの……秀一は?」
今言葉が理解できてないかもしれない。
「え?」
色々脳の許容量がオーバーしてる。
「秀一は私のことは……嫌い?それとも……好き?」
水樹はまっすぐ秀一を見た。彼は その瞳に吸い込まれそうになった。
「嫌いなわけない」
好きだ──そんな言葉では伝えきれないほどに。
きっと ずっと長く。 大きく。 強く。
「良かった」
水樹が胸に手を当てて瞳を潤ませた。その輝きに見惚れているうちに、彼女は続けた。
「私と……私と……つ、付き合ってくれませんか?」
水樹は胸の拳を握り込んだ。手が震えぬように。
秀一は
自分の世界の全てが止まるのを
感じた。




