タイムレース2
※現在登場人物紹介は取り払い、こちらを特別表示中です。
A県夜洛市 輪命回病院
西棟側 東棟側
7階 屋上
6階 産婦人科・乳腺外科 小児科
5階 呼吸器循環器内科・外科 心臓外科
4階 消化器内科・外科 脳外科・神経内科
3階 リハビリテーションルーム 整形外科
2階 手術室 ICU HCU 透析室
1階 外来患者受け付け インフォメーション
コンビニエンスストア 救急センター
正火斗は、警察本部長江元政信のいるテーブルに行き、その両腕をついた。
『輪命回病院院長に今すぐ電話なさって下さい。避難訓練を始めるので、職員の指示に従うように館内放送を流せ、と。一階にいる人だけは自分で避難が可能で、外に出たら東側駐車場に集まるように、です。各フロアは、職員の指示が行くまで待機、でお願いします。』
『なんだと?』
正火斗は言葉を繰り返しはしなかった。時間が無い。
『神宮寺、風晴に連絡を。6階産婦人科・乳腺外科病棟の職員に爆弾写真を開示。患者と新生児を、エレベーター3機で一階に降ろすように言え。』
『はい!』
神宮寺は早速始めた。
『椎名も、安西に電話を。6階小児科はエレベーター1機を使用。子供なら2回使用で行けるはずだ。間に合うから落ち着けと伝えろ。』
いや、間に合わせる。
椎名は大きくうなずいて、タブレットを置いてスマートフォンをポケットから取り出した。
『安藤さん、僕のスマートフォンから大道水樹を 出して 電話して下さい。一階中央エレベーターで、降りてくる子供達を東側出口から外に出るように誘導。』
『了解!』
安藤は警察官達から、正火斗のスマートフォンをもぎ取った。
正火斗が何をしているか分かりだしたのだろう。会議室に1人含まれていた女性幹部が
『待って!輪命回病院で産んだから分かるわ。あそこの新生児ケースはカートタイプで大きいの。業務エレベーターも使って!』
と声をかけた。
正火斗が声の方に
『ありがとうございます。』
と返して、あとは神宮寺を見た。神宮寺は部長にうなずく。
かけ終わった椎名に、また指示した。
『桂木に連絡して3階の職員に爆弾写真を開示。3 階の患者は、職員と階段を使用して避難するように伝えろ。ゆっくり安全な避難で良し。1階や2階は、ほとんど被害がないはずだ。職員に、患者を急がせるなと、警告を忘れるな。』
3階は整形外科だ。階段で転ぶ方が大きな怪我につながる。爆破で吹き飛ばされるのでなければ、だが。
矢継ぎ早に指示を飛ばす正火斗を尻目に、見かねた幹部の1人が江元本部長に言った。
『本部長、はやく院長に電話して下さい。一番遅いです。』と。
輪命回病院の館内には避難訓練の放送が流れだした。その時、風晴と安西は、それぞれにもう分かれて避難を手伝っていた。
産婦人科・乳腺外科病棟は、爆弾がまさしく仕掛けられている場所だ。勇気を出して、安西と爆弾を触って引っ張ってみたけれど、全く壁から剥がせなかった。
それからナースステーションにスマートフォンの写真を見せに行ったが、すぐには婦長には信じてもらえなかった。だが、すぐそこに現物はある。連れて行って見せたら、一目瞭然だった。
自分達ができるのは、あとは避難させることくらいだ。
安西と風晴は、爆弾写真を撮ったときに、合わせてスマートフォンのタイマーをセットした。今確認したら、
残りはあと19分。
20分を切った。
風晴は新生児室に、婦長と一緒に来ていた。
『ケースのカートが大きいから、抱っこしてくれない?』
と、言われて、気づくともう手に乗せられるところだった。予想以上に小さくて、軽くて、小さくて、、、、でも、頭のほうが こっつり と重い。腕の中に、なんとも言えない温かみが宿る。
『昨日産まれたばかりなの。よく寝てるのに、とんだ騒ぎよねぇ!』
婦長は、右2台左2台の4台のカートを押しながら、さらにもう一台をはさんで持っていこうとしている。風晴は慌てて、5台目を引く手伝いをする。
『大丈夫?首が座ってないから両手で抱っこしなくちゃ落としそうじゃない?』
確かにそうだった。5台目の方向だけ整えて、あとは両手が必要だった。小さな生命を大切に抱く。
『妊婦さんと患者さん達、下に降りましたー!』
と声がして、廊下前方から3、4人もの看護師が現れた。嬉しい応援だった。
あっという間に先にいた婦長を補助し、残っていたカートを運び出す。風晴のように、腕に抱いた看護師もいた。
『お母さん達が生命懸けで産んだ、宝物だからね。』
運びながら誰かが言った。
その宝物を腕に感じて、風晴も走った。
水樹は一階で子供達を東口通路に誘導していた。だいたいの子供達は自分の足で外に出ることができ、走っていく子供もいた。車椅子の子供には職員がついている。
お盆休みで最も職員が少ない時期だが、ここは何とかなりそうだった。
3階の患者達だろう。階段からも出てくる人達が見えた。そんな中、階段を上に上がろうとする人物がいて、水樹は目を留めた。
背の高い清掃員の男だった。キャップもかぶっている。
(なんだろう、あの人。)
と見ていると、階段の上の方から、声が聞こえた。
『松下さん松下さん、避難訓練ですよ。院長先生が、全員駐車場に出ろ って。』
水樹は目を見開いた。
(兄さんが言ってた。" 松下達男 " を名乗る男が犯人だって。)
その男は階上から来た人には笑いながら何かを告げて ことわり、さらに上へと進んでいく。
水樹は迷った。兄には、近づくな と言われている。
だが、気づいたら追っていた。
許せない
どうしても
あんなに、桜田や聖を 苦しめた人間を




