天上に贈る告白
正火斗は歩きながら、空を見上げた。
" 父さん "
生前、一度も呼んだことのない呼び方で呼んでみる。
あなたを3年前 僕は酷く なじった
あなたを恥じたし 汚らしくて 最低だと思った
だけれど結局今
僕は あなたが愛した人の愛する人を 守れて
幸せだと感じている。とても
もし、もしも……
もしもあの親子が
何の説明もなくても数千万円を
喜んで受けとるような人間だったら──
僕は間違いなくそうしていただろう
けれども そうではなかった
僕と桜田風子にとって 実際は
5億5千万円と言う数字はどうでも良かった
仮に晴臣の死の真相を知る誰かが脅し
だが保険金をよこせば息子には一生話さないと誓えば
桜田風子はそのお金を全て差し出すだろう
僕は その倍の金額を積んでもいいと言える
そう言うことなんだ
僕らは
風晴に5億5千万円を渡したかったわけじゃない
それは確かに東京にいた頃は目的だったが
いつの間にかここで
遥か後方のものになっていた
僕らは 何よりも
彼の 両親の愛を信じる心を 守ってやりたかった
彼はとても優しくて純粋で、強い
それでも 今回は思いがけず
出生の秘密もからみ 母親との関係を揺るがした
父親の死の事実も重なれば
彼と言えども、もたなかったのではないかと
僕は思う
水樹には間に合わなかった
崩れていくのを止めることも叶わなかった
今度こそは できたと思う
今度こそ は
木漏れ陽の輝きを 正火斗は瞳を細めて見上げた。
" 父さん "
だからこそ 僕は今 自分が恐ろしい
────とても
昨日風晴は
"友達だと思ってるなら、ちゃんと忠告きけよ! "
と言った。僕を心配してくれて
けれども僕は、自信が無かった。
僕は君を友達として思えているんだろうか?
背筋が凍るような思いだった。
万が一にも あってはならない想い
それが今、自分の中に微塵もないと
果たして言い切れるのか?
途端に それまで感じていたものの 何もかもに
吐き気を覚える
話した安堵感も
楽しかった会話も
共に笑った喜びも
極限の信頼も
分かち合ったあの不安と戸惑い、恐れも
そして もっと一緒にいたいと 願うこの気持ちも
絶対に 友情以上であってはならない
そんなことになっては 決して いけない
自分への おぞましさに 寒気を感じる
宝来総司は その愛で桜田晴臣から全てを奪った。
普通の人生、幸せな家庭、未来、生命、何もかも だ。
確かに彼の隣りにもっといられたなら と 思った。
思ってしまっていた。
今はもうそれが 怖くてならない
いてはならない
いるべきじゃない
自分と彼は もう会わない方が良い
二度と────
二度と 会わない
それが 最後に 君へ できることだ と 思った
僕は君への秘密の十字架を背負おう
そして 君の前には現れない
永遠に
正火斗は足を止めた。
畑野駅に着いた。
ポケットからスマートフォンを出して、彼は妹に電話をかけた。
「……水樹?僕だ。……そう、帰らなければいけなくなった。……うん……うん、伝えておいてくれ。
聖と風晴に……」
これでいい
「さようなら、と」




