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炎と水と〜黒竜池に眠る秘密〜僕達の推理道程  作者: シロクマシロウ子
最終編・道

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僕だけが知る道3


ー登場人物紹介ー

桜田風晴さくらだかぜはる・・・田舎の農業高校2年。

桜田風子さくらだふうこ・・・風晴の母親。民宿を営む。

桜田晴臣さくらだはるおみ・・・風晴の父親。市議会議員。

桜田孝臣さくらだたかおみ・・・晴臣の弟。ミステリー同好会顧問。地学教師。

桜田和臣さくらだかずおみ・・・晴臣の弟。桜田建設社長。


大道正火斗だいどうまさひと・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。

大道水樹だいどうみずき・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。

安西秀一あんざいしゅういち・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。

桂木慎かつらぎしん・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。

神宮寺清雅じんぐうじきよまさ・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。

椎名美鈴しいなみすず・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。


宝来総司ほうらいそうじ・・・正火斗、水樹の実父。元陽邪馬市市長。桜田晴臣が行方不明になる同日に転落死。


井原雪枝いはらゆきえ・・・風子に屋敷を貸すオーナー。


羽柴真吾はしばしんご・・・関光組組員。6年前から消息不明。

松下達男まつしたたつお・・・関光組組員。羽柴の舎弟。

緑川みどりかわまどか・・・羽柴真吾の女。6年前から消息不明。


 



 資金を継ぎ込んで、大規模捜索をすれば見つかるというような単純な池では……黒竜池はいかないようだった。



 しかも自分のやっている事業と池の捜索は全く異なる分野だし、自分は黒竜池の行方不明者達とはなんの関わりもない……ことになっている。



 やりだしてみると、事態の難しさに頭を悩ませた。



 K大学地質工学部に 桜田孝臣(さくらだたかおみ)がいたことは救いだった。

 研究内容から、彼が兄である晴臣(はるおみ)を引き上げたがっていることは明白だったからだ。


 鳳翔院(おうしょういん)学園の職員人事は学園長が主で理事会は関わっていない。大道の名前で()()()()寄付金を渡し、著名な桜田孝臣教授の引き抜きを希望した。彼の地質研究に、さらなる助成金を出したいと申し出も。実際にそうした。

 彼になんとしても、引き上げを実行させたかった。



 高等部に上がってからは、生徒会には関わらず " ミステリー同好会 " なるものを立ち上げる。

 そして、顧問を1年の途中から特別講師として来た桜田孝臣に頼んだ。だが、こうまでしたのに彼がなかなか捜索の決断をしてくれないので、自分は実はかなりヤキモキしていた。

 できることなら晴臣の息子が進路を決定する前に何とかしてやりたかったからだ。しかもこちらも卒業してしまう前に。

 いい加減、桜田先生に真実を全て打ち明けてしまおうかと迷い出した頃、彼はようやく決断してくれた────黒竜池に沈む兄の遺体の捜索を。




 そうして僕はあの日、民宿の玄関で水樹と共に桜田親子の前に立っていた。

 3年越しだった。






 住宅街の一画にあった公園に入って、正火斗は自動販売機でスポーツドリンクを落とした。

 陽は高くなりつつあり日差しはやや きつい。それでも 日陰に入って風にあたるとだいぶ涼しい。朝夕は気温が低くくなってきており、一頃(ひところ)の うだるような灼熱とはもう違っていた。夏は終わろうとしている。


 日陰のベンチに座り、キャップを開けてゴクゴクと飲んだ。まだ電車までは時間がたっぷりあった。

 ベンチの端にはトンボが止まる。

 正火斗はA県でのことを 改めて思い返した。





 初日は、あえて自分と水樹だけが自家用車の送迎で先に民宿に着くようにした。

 宝来総司(ほうらいそうじ)────桜田風子(ふうこ)にとっての神城(かみしろ)総司 に似ている自分が行って、その反応がどうなるか まるで予想がつかなかったからだ。


 晴臣は 父へのメールには、風子は理解してくれていると書いていた。むしろ 自分達の唯一の支援者だと。だが そういうものは当事者にとっては違うこともあるし、苦労したこの6年間で変わっている可能性もあった。



 結局──彼女は全く見知らぬ初対面の人間のように接した。それで僕は察した。

 やはり 桜田風晴(かぜはる)は何も知らないのだと。

 父親の死の真相も。それに至るまでの悲劇も。



 むしろ彼は……

 彼は両親の愛を信じていた。


 おそらくはこの6年間────彼は多くを失い 傷つき、()みにじられてきたはずだった。

 自分はここに来る前は、桜田風晴と言う少年はもう ひねくれたり、心を閉ざしたりしてしまっている人間像だろうと勝手に想像していた。

 でも それは間違いだった。


 一日目の話し合いの最後に彼の言った言葉を思い出す。




 母さんはそいつらに言った。

 "あなた方は何も晴臣さんを知らない。私は、私の知っ

  ている晴臣さんを信じる。これからもそうやって風晴と

  生きていきます" って。


 だから オレはそう言った母さんを信じていく。

 死ぬまで





 初めてだったかもしれない

 ここまで

 (かな)わないと感じる相手に会ったのは────


 彼の信じているものは自分には決してないものだった。

 たとえ それが いくらかの 誤解と思い込みを 含んでいるとしても


 彼の6年間を支えたものは

 これだったのだろうと思った

 多分これからも、この核があれば

 この人は真っ直ぐ生きていく



 だから それを守ろうと あの夜 決めた





 こうして 僕のA県での滞在の最大の目的は、黒竜池の謎を解くことでもなく、桜田晴臣の死の真相を明かすことでも────やはり なくなった。



 僕はここに()()()()のためにいた。

 父親の同性の恋人との不倫、果ての偽装自殺という事実を

 桜田風晴に隠すために。




 僕は ただそのためだけに 彼の隣りにいた。







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