残り少ない道だから
ー登場人物紹介ー
◆桜田風晴・・・田舎の農業高校2年。
◆桜田風子・・・風晴の母親。民宿を営む。
◆桜田晴臣・・・風晴の父親。市議会議員。
◆桜田孝臣・・・晴臣の弟。ミステリー同好会顧問。地学教師。
◆大道正火斗・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。
◆安西秀一・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。
◆桂木慎・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。
◆神宮寺清雅・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆椎名美鈴・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆真淵耕平・・・灰畑駐在所勤務。巡査部長。
◆真淵実咲・・・耕平の妻。
◆真淵聖・・・耕平と実咲の長男。農業高校2年。
◆真淵和弥・・・耕平と実咲の次男。
◆北橋勝介・・・フリージャーナリスト。
◆安藤星那・・・朝毎新報・新聞記者。
安藤星那が東京に帰った日は、聖が午後から民宿に来ることになっていた。
スマートフォンで通話した時、黒竜池での緑川まどかとの事件の顛末は大体話してあった。すると聖は、壊れてしまったお地蔵さんを見に行きたいと言ったのだ。
到着すると民宿の2階に上がって、聖はオープンスペースでミステリー同好会メンバーとも会った。
彼らの方は 黒竜池の水流データの解析を仕上げていた。そして東京に戻れば出来なくなることを、やっていこうとしていた。
「明日は僕らは流良川に行こうかと思っているけど。2人は?」
秀一の問いに 2人は首を振った。明日は もう始業式だった。午前あがりだが 高校に行かなくてはいけない。
「そっか。県立だと私達より始まるの早いんだね。残念」
水樹が言った。
「午後からなら合流できるけど、そんなに長くやるもの?」
風晴の質問には 椎名が答えた。
「正直、黒竜池の補助データとして一応取るだけなので、
長くやる必要はないかも……」
「いいじゃんか、やることなくっても。明後日はもう帰るんだし、その時は2人は学校ってことだろう?
一緒に居れる時間いて、UNOでもトランプでも……なんか一緒に遊ぼうぜ」
桂木が言う。そうか。──見送りはできないんだ。
すると 聖が思わぬ提案をした。
「僕……明日泊まりに来ようかな」
お────!っと歓声が上がる。
「お金……払ったらいい?」
聖が風晴に聞く。風晴は首を振って
「いらない。友達だろ」
と言った。聖はニッコリとした。
「パジャマパーティー!パジャマパーティーだよね!?」
「怖い話しとかやりませんか?みんなで?」
話が沸いている中、風晴は秀一に聞いた────姿の無い人物について。
「正火斗は?なんでいないんだ?」
「さっき電話があって抜けた。仕事のだと思う。多分男子部屋だよ」
風晴と聖は顔を見合わせた。
男子部屋をノックすると、返事が聞こえた。
風晴は迷ったが 聖が正火斗に会いたいと言うので、黒竜池に向かう前に寄ってみた。
開けようとしたら、中から開いた。
「聖、来ていたんだな」
正火斗は聖を見て言った。風晴にはただうなずく。それだけで入って良いんだと分かった。
風晴は部屋に上がると、そこですぐに まとめてある荷物が目についた。もしかして……
「帰らなくちゃいけないのか?すぐに東京に?」
だが正火斗は首を振った。
「準備していただけ。まだ大丈夫だ」
少し安堵する。聖も正火斗の荷物を近づいて 見ていた。
「明日の夜、聖が泊まりに来れそうだって。だから、みんなで最後にゲームとか怪談とか出来たらって、さっきオープンスペースで話してきたんだ」
「なんとか……なると思う」
少し歯切れの悪い言葉だったが、正火斗はそう答えた。
すると 後ろから声がした。
「正火斗……この本貸してほしい…」
聖だ。荷物の中にある"生物解体図説" と言う本を指差している。
「ああ、それ絵が分かり易いんだ。あげようか?」
と正火斗は言ったが、聖は断った。
「中、見てみたいだけ。気に入ったら買う。……明日返すから」
「分かった。どうぞ 持っていって」
聖は正火斗にうなずくと、本を引き抜いて自分のリュックに入れていた。
風晴は正火斗を見た。
「なんでお前が "生物解体図説"?」
「それ 哺乳類や鳥類や、あと人間もついているから。身体の仕組みは、知識として入れておいた方が良いだろう?何かの時に役立つかもしれない」
その答えに思わず言ってしまった。
「一体東京でどんな暮らししてるんだよ、お前って」
正火斗の表情が曇った。風晴も しまったとは気づいたが、もう止められなかった。
「お前のいる世界なんか、オレには想像もつかないけれど……危ない橋ばかり渡るようなことをしているなら──本当に止めろよ、正火斗。お前 そんなことしなくったって、ちゃんと生きられるはずなんだから」
ちゃんと生きるべき人間だ。本当は。
義父への復讐になんて 生きずに。
「水樹は前を向いた。自分で治そうと あがいて、秀一を捕まえた。次はお前じゃないのかよ!?」
正火斗は風晴を見たまま 言葉は 無かった。
風晴は最後に言った。
「友達だと思ってるなら ちゃんと忠告きけよ!……行こう、聖!」
風晴は聖を引っ張った。聖は 心配そうに正火斗を見ながらも、男子部屋から出て行った。
次が解決編・水 ラストエピソードになります。
よろしくお願い致します。




