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炎と水と〜黒竜池に眠る秘密〜僕達の推理道程  作者: シロクマシロウ子
解決編・水

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合流を目指して


ー登場人物紹介ー

桜田風晴さくらだかぜはる・・・田舎の農業高校2年。

桜田風子さくらだふうこ・・・風晴の母親。民宿を営む。

桜田晴臣さくらだはるおみ・・・風晴の父親。市議会議員。

桜田孝臣さくらだたかおみ・・・晴臣の弟。ミステリー同好会顧問。地学教師。


大道正火斗だいどうまさひと・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。

大道水樹だいどうみずき・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。

安西秀一あんざいしゅういち・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。

桂木慎かつらぎしん・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。

神宮寺清雅じんぐうじきよまさ・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。

椎名美鈴しいなみすず・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。


宝来総司ほうらいそうじ・・・正火斗、水樹の実父。元陽邪馬市市長。桜田晴臣が行方不明になる同日に転落死。


大河弓子おおかわゆみこ・・・夏休みの間の民宿の手伝い人。


北橋勝介きたはししょうすけ・・・フリージャーナリスト。

安藤星那あんどうせいな・・・朝毎新報・新聞記者。

 


 翌日の朝は、安藤星那(あんどうせいな)が民宿を出て東京に戻る日だった。

晴れた日だったこともあって、ミステリー同好会メンバーと風子(ふうこ)は民宿前に見送りに出た。神宮寺は ほぼ涙目だ。


「風子さん長くお世話になりました。本当にありがとうございました」


 礼儀正しい彼女は 深々とお辞儀をした。差し出された手を握って、風子もお辞儀を返す。


「安藤さんには お葬式のお手伝いまでして頂いて、こちらこそ ありがとうございました」


 安藤はさらに言葉を加えた。


「あの、もしまたどこかで民宿や旅館をなさるのなら……朝毎新報(あさまいしんぽう)の安藤までご連絡って頂けませんか?」


 と 名刺を渡す。

 そうなのだ────風子と風晴もまた、どこかには引っ越しを考えなくてはいけない。借りていた建物のオーナーの"井原雪枝(いはらゆきえ)"は 本人ではなかったのだから。民宿も 当然やめる。


「お料理 美味しかったので……忘れたくなくて」


 彼女は言った。

 風子は少し驚いたが、すぐに微笑んで


「やる時には必ず、お知らせ致します」


 と 大きくうなずいた。

 それを見てから、安藤は高校生達に視線を移した。


「それじゃあ 一足早く東京に戻ります。みんな元気でね。風晴くんも」


 と言った。

 神宮寺は


「僕はきっと朝毎新報に就職します! 待っていて下さい、安藤さん!!」


 と彼女に叫んだ。

 安藤はニッコリと微笑んだが、誰もが心の中で───最短であと6年は厳し過ぎるだろう……とは思ってはいた。


 そうして 安藤はランドクルーザーに乗って民宿を去って言った。

 遠くなる黄色の車体を見ながら 水樹は呟いた。


「仕事って言ってたけれど…………北橋さん良かったのかなぁ?見送りもしないで」









 東京本社から、安藤星那は以前からそろそろ戻ってくるように催促(さいそく)はされていた。あとは支社の連中に任せて、戻って東京の事件に着手しろ──と。

 けれども出来なかったのだ。卵子提供詐欺の話が出て、どうしても放っておけなくなった。顧問を亡くした高校生達と 優しい民宿の親子が気になった。

 それから……


 北橋勝介(しょうすけ)の姿が頭に浮かんだ。

 でも すぐに 打ち消す!

 見送りにも来ない男。


「やっぱり ろくでもないヤツだったのよ」


 そんな言葉を口にしていた時、前方の流良(ながら)川土手に見慣れたレクサスを見つけた。


「……あれって……」


 車外に出て、彼はその長身を 車に寄りかからせて立っていた。

 住宅街を低速できた安藤は、その姿に()()()()()()()()()()


「……っと!! 待って待って!!」


 彼が慌てて運転席の窓に声をかけて来た。流石に 危ないので安藤は減速した────渋々だが。

 右に寄せて 停車する。

 北橋が安堵(あんど)したのか、後方でその様子を見守っていた。けれどもサイドミラーに映るその姿に、安藤はむしろ腹が立ってきていた。

 見送りにも来ないくせに!

 車のドアを開け、草地に立った。


「危ないじゃないの!?一体なんのつもり?」


 咄嗟(とっさ)にそんな言葉が出たのに、彼は笑った。


「見送りのつもり。高校生達と一緒だと、後々面倒臭いから あの子達は」


 困惑して、安藤星那は北橋勝介を見つめた。北橋はその眼差(まなざ)しを受け止めて 真っ直ぐに見返す。

 彼は話し始めた。


(ゆい)さんは……山岸結は、元々兄貴の恋人で奥さんだった。兄貴が行方不明になってからは、一緒に "殺されたかもしれない 帰らない"────そんな怒りと 悲しみを分かち合って、支え合った。

 オレ達に男女の接触は一切無かった。だけれどある期間、自分にとってあの人がとても大切だったことは事実だと思う。だからこそオレは彼女に立ち直って欲しかった。兄貴の家に1人いたあの人を実家に強引に戻した。彼女は高校の時の同級生と再婚したよ。今は幸せに暮らしている」


 彼の話に、安藤は無意識にうなずいていた。ゆっくりと……尋ねる。


「あなたは……?あなたは、立ち直る気はあるの?」


 北橋もうなずいた。力強く。


「そう思ってる。兄貴の遺体を(とむら)えて、羽柴真吾も死んだ。緑川まどかも。

 だから 誰かを探すつもりだ。東京に戻ったら」


 ああ そう言うことね


 安藤は納得した。どうりで、一度も連絡先を聞かれないわけだ。彼は新しい出会いを求めているんだ。


 私ではなくて


「あなたの幸せを祈ってます。それでは 失礼します」


 それだけ告げて、ランドクルーザーの運転席を開けて再び乗り込んだ。シートベルトを伸ばして 付ける。

 その間に 彼が近づいて来ていた。運転席の窓ガラスをコンコンと叩かれる。


 何なのよ、もう


 安藤はガラスを下げて顔を出した。背の高い彼の顔はすぐそこにあった。


「もう行くわ。さようなら」


 そう言った安藤に、かがんで北橋はおでこにキスをした。

 彼女は目を見開いて固まった。

 その姿を見つめて北橋は笑顔で言った。


「東京で探すよ。必ず見つける。何しろ、黄色のランドクルーザーだから」






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― 新着の感想 ―
え? え⁉️ 意外なところでラブコメの波動が‼️ ⁽⁽◝(•௰•)◜⁾⁾ 黄色は目立つし、見つけるのもきっとすぐですね〜。 (*´ω`*)
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