過去と未来と
ー登場人物紹介ー
◆桜田風晴・・・田舎の農業高校2年。
◆桜田風子・・・風晴の母親。民宿を営む。
◆桜田晴臣・・・風晴の父親。市議会議員。
◆桜田孝臣・・・晴臣の弟。ミステリー同好会顧問。地学教師。
◆桜田和臣・・・晴臣の弟。桜田建設社長。
◆大道正火斗・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。
◆安西秀一・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。
◆桂木慎・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。
◆神宮寺清雅・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆椎名美鈴・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆井原雪枝・・・風子に屋敷を貸すオーナー。
◆大河弓子・・・夏休みの間の民宿の手伝い人。
◆北橋勝介・・・フリージャーナリスト。
◆安藤星那・・・朝毎新報・新聞記者。
◆羽柴真吾・・・関光組組員。6年前から消息不明。
◆松下達男・・・関光組組員。羽柴の舎弟。
◆緑川まどか・・・羽柴真吾の女。6年前から消息不明。
刑事達は帰ったが、広間はまだ にぎやかに湧いていた。
総額5億5千万円以上の金額を受け取ることになった風晴は大きなため息をつく。デザートの牛乳寒天を食べる手はもう、そのためには動かなかった。
その様子を見てテーブル向かい側から、母親は声をかけた。
「風晴、あなた昨日の夜言いに来たじゃない?農業に関する支援センターを建ててみたいって。
農協とは別の──誰でも気軽に低額で利用できる、高額農業機械のレンタル。他にも、草刈りや雪寄せ用の機械を貸し出して、高齢者の暮らしに役立てたい──って。
あれ良いと思うわ。あなたの提案を私は応援する」
「…………母さん」
風晴は母を見て呟いた。
隣にいた正火斗がうなずいて言う。
「農業機械は高額でしょうから、助かる人が沢山いるでしょう。それに、そろえたら億単位になるのが明白です。誰の目にも分かる使い方として望ましいと思います。勿論、全額使う必要はありませんが」
だが 風晴は戸惑った。
「だけどオレ、経営なんて何も分からない。名前では母さんに社長になってもらいたいけれど。オレ達2人だけで できるかな……?」
「そのことなんだけどね、風晴」
母は 座る姿勢を正した。
「和臣さんに、私達少し経営について教えてもらわない?」
その名前が母の口から出てきて、風晴はひどく驚いた。
何しろ ほぼ絶縁状態の、父の実家の 建設会社社長だ。
「実はお葬式以降、和臣さんの奥様とはたまに連絡を取り合うようになっていたの。とっても良い方。奥様を通じて、和臣さんが昔とは変わったのが分かったわ」
母は柔らかく微笑んだ。
「桜田建設は今、緩やかだけどちゃんと黒字になっている。それは彼のキャリアだわ。農業ではないけれど、私達よりも経営を知っているでしょう。
代表は私が なって、いつかはあなたに必ず譲ります。和臣さんにはアドバイザーのようになってもらって、そして、ちゃんとお給料を支払ったらいいんじゃないかしら」
これを聞いて なるほど、と、風晴も思った。
「雇用してしっかりと立場を分けるんですね。彼はコンサルタントと言うわけだ。しかも彼の方も、収入があればきっと助かる」
正火斗も風子の意見を支持した。
だが、風晴は母に確かめた。
「確かに悪くないと思う。だけど……母さんはそれで本当にいいの?」
風子はテーブルの上の手を重ねて握った。
「井原さん──緑川まどかさんのことは 本当にショックだったし、あなたを殺そうとした彼女を 私はこれからも許さない。
だけどね、風晴。むこうが、たとえいつか手に入るための大金を目当てにした行為だったとしても……私は 1人であなたを育てる期間に、ここで暮らして収入があって本当に助かった。それを知っているわ。
だから 和臣さんと協力しても良いかと思えたの。彼の子育てはこれからみたいだし」
「小さな女の子がいるんだっけ?」
風晴が聞くと、その答えは他から返ってきた。
「有ちゃんだよ、風晴。3歳くらいの子。プラレールが好きで、風晴のおさがりのドクターイエローを使ってる」
秀一だった。席が近かったから、会話が聞こえていたようだ。風晴は彼にうなずいた。
「あったな、そんなの。役立ってるなら良かった」
風子は満面の笑顔で言った。
「いとこ同士だものね、あなた達」
夕食の後、風子の勧めもあって、風晴は言った通りミステリー同好会メンバーにアイスをおごることを実行した。
朝から天気の良い日で、今もまだ夕暮れが紫がかる程度で明るかった。朝夕は暑さも落ち着いてきている。
みんなで歩いてミマルマーケットに行った。閉店時間には間に合った。
ああだこうだとみんなでアイスを選んで、スーパーマーケットを出る時には、もう暗くなっていた。
民宿に向かう道の途中には流良川があり、対岸の方を見ると、ちょっとした夜景のように街明かりがポツポツと瞬いている。
椎名や水樹は、わぁと言って、
「写真撮りたいです!」
となったので、男子達は顔を合わせた。
「じゃ、ここで食ってくか」
スーパーの袋から、それぞれにアイスを渡す。抹茶のカップアイス、練乳氷イチゴ、サイダーの棒アイス、生チョコ入り棒アイス、飲むタイプのバニラアイス、レモン氷アイス、そして、ハーゲンダッツバニラだった。
このハーゲンダッツバニラは神宮寺の選んだものだったが、レジでは新たな事実が発見された。
「ハーゲンダッツバニラのプラスチックスプーンだけは自動的にレジでオバちゃんが入れてくれました。……別格なんですね」
神宮寺が、そのスプーンを まさに見ながら言った。
「他のスプーンは全く何にも説明されなかった。桜田先生に聞いてなかったら、サッカー台で取り忘れていたかも知れない」
安西は抹茶のカップアイスに、木のヘラだ。真剣に言った。
「桜田先生は知っていたかな?ハーゲンダッツは別扱いだって」
正火斗は生チョコ入りの棒アイスだ。
「どうだったんだろう?ハーゲンダッツあんまり買わなかったんじゃない?でも、" オレは知ってた " って言いそう」
水樹が、椎名と写真を撮りながら言った。彼女達のレモンの氷アイスと練乳氷イチゴは、今は袋に入ったまま置かれていた。
桂木は、早くもサイダーの棒アイスを食べ終わっていた。
風晴は飲めるタイプのパック型アイスだったので、溶けるのを待ってまだ開けていない。
「お前、はやっ!!」
と言った。言われて桂木は得意げに立ち上がった。
「棒アイス落とさずバランス良く食べたぜ、サクラチャン!教えを守ってこれからも生きていきますっ!」
彼は前方に流れる川に向かって、ちょっと大きめに言った。民家の無いところではあるが
「桂木先輩静かに!」
「桜田センセ、そこかよって思ってるって!!」
とあちこちから声がかかり、笑いが混じる。
川縁では、鈴虫やコオロギの声も高まってきていた。
夏は終わりへと 着実に近づいていた────
リアルの方の日時が、今日は8月17日日曜日になります。
ドンデン返しを含む全ての完結を今週内(8月24日まで)にはする予定でおります。しばしお付き合いを宜しくお願い致します。
読んで頂きまして本当にありがとうございました。
シロクマシロウ子




