欲の顛末
ー登場人物紹介ー
◆桜田風晴・・・田舎の農業高校2年。
◆桜田風子・・・風晴の母親。民宿を営む。
◆桜田晴臣・・・風晴の父親。市議会議員。
◆桜田孝臣・・・晴臣の弟。ミステリー同好会顧問。地学教師。
◆桜田和臣・・・晴臣の弟。桜田建設社長。
◆大道正火斗・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。
◆安西秀一・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。
◆桂木慎・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。
◆神宮寺清雅・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆椎名美鈴・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆井原雪枝・・・風子に屋敷を貸すオーナー。
◆大河弓子・・・夏休みの間の民宿の手伝い人。
◆北橋勝介・・・フリージャーナリスト。
◆安藤星那・・・朝毎新報・新聞記者。
◆羽柴真吾・・・関光組組員。6年前から消息不明。
◆松下達男・・・関光組組員。羽柴の舎弟。
◆緑川まどか・・・羽柴真吾の女。6年前から消息不明。
緑川まどかが黒竜池に消えた 翌日の夕食の席に────刑事達は現れた。
その日の夕食は煮込みハンバーグだった。切ると中からカッテージチーズとゴーダチーズが溶ろけ出る、チーズ入りハンバーグ。みんなが凄い勢いで食べて、全員が完食していた。
そうして、デザートのミカン入り牛乳寒天を食べているところだった。
「すみませんね。……色々と重要なことが分かってきまして。ご協力もして頂きましたので、 報せに伺いました」
1人は、以前 輪命回病院の後で謝罪に来た刑事だった。今日は後輩のような若い刑事を 1人連れている。
彼は挨拶してから 北橋にスマートフォンを 渡していた。
黒竜池で起こった全てが録画されていたため、北橋は証拠として提出していたのだ。
北橋がスマートフォンをしまうと、刑事は話し始めた。
「身元不明だった最後の白骨体のDNAは、井原雪枝さんと一致しました。
この白骨体は他の遺体と からまって引き上げられ損傷が激しかったのですが、いくつかの刺された跡のようなものも指摘されていました。おそらく、死因は腹部への刺し傷で間違いないでしょう。
尚、今井薫子さんの遺品の写真立てから、彼女がダイビングを沖縄旅行で楽しむ姿が写っていました。
そして、そのとき着ていたものと同じと見られるウェットスーツが、井原雪枝の自宅で、今日発見されています」
正火斗がうなずいている。
2人が同一人物だった物証になる。
「輪命回病院の職員名簿のデータもパソコンから既に確認済みです。後々、緑川まどかと繋がりがあった整形外科医や産婦人科医達は捕まるでしょう。しっかりと何があったか説明してもらいますよ」
椎名や安藤はあからさまに、音の出ない拍手やガッツポーズをした。他のメンバーも 表情が明るくなる。
「それで──ですね。井原雪枝の所持品から、今日こんなものが見つかりまして。桜田さんにお持ちしたんですが……」
刑事は、それなりの厚みのある書類封筒を一つ持っていた。視線は やや離れて座っていた風晴と風子の2人を さまよう。
風晴と風子は"なんだろう?"と顔を見合わせが、風子が刑事に言った。
「なんですか?ここで渡してもらって大丈夫です」
もう、その空間には信頼できる人間達しかいない。何が出てきても大丈夫だ。
刑事は 封筒を風晴に渡した。
風晴は 少し困惑しながら封筒を受け取った。封筒も、そして──開けてみると出てきた書類も英語だらけだった。丁度隣りが正火斗だったので、風晴は彼に助けを求めた。
「オレ全然分からない。コレ、何が書いてある?」
正火斗は書類の何枚かをめくって、それから話しだした。彼の口調にも驚きは溢れていた。
「アメリカの生命保険会社だ。桜田晴臣の生命保険が……こっちにもかけられてる。受取人は息子の桜田風晴。
金額が…………」
彼はそこで一度言葉を切って、それから 呟くように言った。
「……200万ドル」
「200万ドルって……」
水樹は口に手を当てている。
北橋もポカンとして言った。
「2億5千万円以上にはなるぞ…………!!」
一瞬の静寂。
「「「ええ────────⁉️」」」
広間には絶叫が こだました。
風晴自身には言葉が無かった。
ただ、呆然とその訳の分からない書類を見つめる。
正火斗が一枚に指をさした。
確かにあった。
＄2,000,000
そして
KAZEHARU SAKURADA
の印字された文字。
「合わせたら、5億5千万越えですよ!」
「アイスおごれ! 桜田、アイス! アイス百万本!」
「民宿どころか旅館建てれますよ!」
みんなが好き勝手言う声が飛び交う。
そんな中で安藤星那の声がした。
「冬に水に飛び込むとか、爆弾仕掛けるとか、狂ってる犯人だと思っていたけれど。5億5千万が待ってるなら────やる人間っているかもしれないわよねぇ」
彼女がホゥとため息をつく隣りで、北橋が付け足す。
「井原雪枝の資産は、融資や株の失敗で1億を切っていた。それでも、黙っていたら普通より楽には暮らせていただろうよ。
だがどうしても もぎ取りたかったんだ、緑川まどかは。眼前に、大金がぶら下がっているのを知っていたから」
みんなの歓喜に刑事達も微笑んでいた。
「これは私の……ただの個人的な意見ですよ?警察としての追及ではなくて。
その書類は2018年の11月に作成されています。今井薫子の偽装自殺はその1ヶ月後。すぐ、その後が桜田晴臣さんの行方不明です。
このアメリカの生命保険会社への加入を、晴臣さんが知っていたかは……ちょっと私には分かりませんね。彼女は今井薫子としての秘書の立場を使い、彼の印鑑や事務業務を自由にしていた。日本の生命保険会社に彼が加入したものに紛れ込ませて、自分だけの秘密にしていたんじゃないでしょうか。
結果──皮肉にも、晴臣さんからの息子さんへのプレゼントは膨れ上がった」
最後には 彼も笑い出していた。
風晴は頭を抱えていたが、とりあえず みんなに言うことにした。
「アイスおごる」
歓声が沸き起こった。
