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炎と水と〜黒竜池に眠る秘密〜僕達の推理道程  作者: シロクマシロウ子
解決編・水

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黒竜の道へ


ー登場人物紹介ー

桜田風晴さくらだかぜはる・・・田舎の農業高校2年。

桜田風子さくらだふうこ・・・風晴の母親。民宿を営む。

桜田晴臣さくらだはるおみ・・・風晴の父親。市議会議員。


大道正火斗だいどうまさひと・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。

大道水樹だいどうみずき・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。

安西秀一あんざいしゅういち・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。

桂木慎かつらぎしん・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。

神宮寺清雅じんぐうじきよまさ・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。

椎名美鈴しいなみすず・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。


井原雪枝いはらゆきえ・・・風子に屋敷を貸すオーナー。

大河弓子おおかわゆみこ・・・夏休みの間の民宿の手伝い人。

大山おおやまキエ・・・黒竜池によく行く老婆。


北橋勝介きたはししょうすけ・・・フリージャーナリスト。

安藤星那あんどうせいな・・・朝毎新報・新聞記者。


羽柴真吾はしばしんご・・・関光組組員。6年前から消息不明。

緑川みどりかわまどか・・・羽柴真吾の女。6年前から消息不明。


 


 正火斗の言葉に、緑川まどかは高らかに笑った。


「4人だからって何?だから私が諦めるとでも思っているの?やり方は色々あるわよ」


 彼女は風子に拳銃を振り上げて、頭を殴った。


「あっ……!」


 声を上げて風子が崩れる。


「母さん!!」


 寄ろうとした風晴のTシャツの襟元を、後ろから緑川まどかは (つか)んだ。


「こいつが鍵でしょう? 誰にとっても」


 カチリと音がして、風晴の頭に銃口が付けられた。

 風子は まだ起き上がれなかったが


「やめて……」


 と声を漏らした。

 対岸にいる正火斗に まどかは叫んだ。


「スマートフォンを池に落としなさい! さもないとこいつの頭をぶち抜くわよ!」


 距離があっても 正火斗が自分を見たのは分かった────風晴は首を横に振る。


「別にいいけれど?落とさなくても。殺したくて殺したくてたまらない相手だもの」


 まどかの手が拳銃を握り直した。そして……


「やめろ!」


 正火斗の声がして、それから


 パシャン…… と 


 スマートフォンが落ちた水音がした。


「アハハハハハハハ!!」


 楽しそうに笑うまどかの声が黒竜池の森に響き渡る。風晴は 狂ってる と思った。


「もう一つ出してもらうものがあるわ」


 まどかの眼差しも口調も真剣なものに変わっていた。

 一瞬で。


「桜田晴臣(はるおみ)の携帯電話よ! アレはどこ!!?」


 これまでにない厳しい口調だった。

 (ひざまず)く格好でいた風晴の頭を引っ張る。冷たい銃口が額に当たった。


 北橋も、正火斗も動けない。


「さっきので黒竜池に落としたなんて言うのはきかないわよ。仲間が持ってるんでしょう!? 出しなさいよ!! さもないと……」


 まどかが引き金に指をかけた。


「待って!! 携帯電話はあの地蔵の中よ!」


 風子が赤い布を巻く地蔵を指差す。


「はぁ!?」


 まどかは鬼の形相で聞き返した。もはや井原雪枝の影はない。


「犯人を(あぶ)り出すために風晴達は罠を仕掛けた。エサはこの子自身だったの。突き落とされる覚悟をしていたから、携帯電話は濡れないようにあの地蔵の中の空洞に入れてあるの。私は馬鹿なことをするこの子を止めに来たのよ…………」


 風子の説明に、まどかは風晴を立たせた。


「立って!一緒に地蔵に来るのよ、ホラ!」


 銃を背中に突き付けられ風晴は従った。銃口に押されながら、お地蔵様の所まで行った。

 布をまくり上げて……まどかは手を入れる。


「奥の方よ。結構深いから」


 風子が元の位置から言う。

 まどかがグッと手を差し入れた瞬間────


「あ"ぁ…………!!」


 と声を上げてその左手を引き抜いた。そこには赤い血が流れ落ちていた。草刈り鎌を握ったのだろう。

 右手から 拳銃がこぼれ落ちた。

 北橋と正火斗は地蔵に走り出す。

 地面に落ちた拳銃を──風晴は蹴り飛ばした。


「こいつ!!!」


 凄まじい勢いでまどかは風晴に飛び掛かろうとした──

 そして 踏ん張った足が滑った。


「うぁ!!」


 バシャン!


 と まどかが池に 吸い込まれるように落ちた。

 だが、彼女は泳ぎもうまそうだし、小柄で引きずり込まれることはない…………はずだった。

 しかしその時──水面はいつもよりも大きく(うず)を生んだ。

 北橋の差し込んだ鉄板はまだそのままだ。

 あれによって相殺(そうさい)されて消された水流達が、今また新たに形成されようとしている。そしてそれは、これまでよりも激しいのかもしれない。

 何か異変を感じたのか、まどかは急いで(ふち)に来た。そして地蔵に手をかけた。


 すぐそばにいた風晴は一瞬だけ──迷った。

 だが その人に手を伸ばして 近づいた。


 まどかも風晴につかまろうと、もう一方の手を伸ばした。


 その時、緑川まどかの持つ地蔵が砕け散った。


「あ"ぁ!!」


 彼女は風晴の手を取れなかった。水中へと戻された。

 そして────


 普段よりも勢いを増した水流達は緑川まどかを引きずり込み 飲み込んだ。


 彼女の姿は……あっ言う間に見えなくなり


 いくらか水面がバシャバシャと音を立てたが


 すぐに それすらも 止み


 そして その姿は ……消えた。




 風晴は呆然(ぼうぜん)とその波打つ水面を見つめた。

 横にいつの間にか正火斗が来ていて、差し出したままだった彼の手を取った。


「良かったんだ。……これで」


 正火斗は言った。

 そして、近くまで来ていた北橋も告げた。


「あの女なら、手を取った瞬間に君を引っ張り込んで、そして自分だけ上がろうとしたさ。間違いなく」


 砕けた地蔵の破片には赤い布がかかり、そして……地蔵の頭が転がっている。


 風晴は 思い出していた。

 大山のおばあちゃんの言葉を──



  "あの池は、子供を殺す親を 許さないのさ"








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― 新着の感想 ―
そういや鎌があったねえ。 まあ、保存状態も悪そうだし、そもそも握ったくらいじゃほとんど切れないんだけど、違和感を感じて引いちゃったかな? ワタシだったら積極的にヤりにいきそうだ(-ω-;) 手を突っ…
え? え⁉️ た、助けないの? さ、殺人になっちゃいますよ? (´・ω・`)
 お約束の展開をどう返すかと思っていたら草刈り鎌。酷いことを考えるなぁ……。  で、それに続く事故のオチ。多分これがこの作品テーマであり、一番やりたかった演出なんでしょうね。伏線回収お見事です。  …
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