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炎と水と〜黒竜池に眠る秘密〜僕達の推理道程  作者: シロクマシロウ子
解決編・炎

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これまで歩んできたあなたに


ー登場人物紹介ー

桜田風晴さくらだかぜはる・・・田舎の農業高校2年。

桜田風子さくらだふうこ・・・風晴の母親。民宿を営む。


大道正火斗だいどうまさひと・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。

大道水樹だいどうみずき・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。

安西秀一あんざいしゅういち・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。

桂木慎かつらぎしん・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。

神宮寺清雅じんぐうじきよまさ・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。

椎名美鈴しいなみすず・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。


井原雪枝いはらゆきえ・・・風子に屋敷を貸すオーナー。

大河弓子おおかわゆみこ・・・夏休みの間の民宿の手伝い人。

安藤星那あんどうせいな・・・朝毎新報・新聞記者。


真淵耕平まぶちこうへい・・・灰畑駐在所勤務。巡査部長。

真淵実咲まぶちみさき・・・耕平の妻。

真淵聖まぶちひじり・・・耕平と実咲の長男。農業高校2年。





 



 民宿の台所で、秀一は花火のためのチャッカマンを探していた。台所のことは全く分からない。そのためか なかなか出てこなかった。


 何か物音がしたわけでも無かった。

 "視線を感じる" という表現があるなら ()()だった。

 振り返ると────台所の入り口に水樹が立っていた。


「…………!!」


 驚いて、むしろ声は出なかった。

 彼女は居心地が悪そうに言った。 


「ごめん。取りに来たものがあって……」


「ああ! うん……!」


 必要以上に力強い返事になった。

 そうだ返事返事返事返事返事返事返事返事…………こここここここ告白の 返事を返さないと!

 頭とは裏腹に、身体(からだ)は水樹を避けて台所の流しの下に向いた。

 もう何を探しているかはさっっっぱり分からない!!


 水樹も反対側の戸棚を開けている音がした。

 何かを動かしているような音がカチャカチャとする。


 秀一は何を探しているかは最早(もはや)不明になっていたが、答え答え答え答え答え答え答え答え答え答え…………と思ってシンク下にまで潜り込んでいた。

 答えは、そのザルやボールの置かれた闇の中には無いが。


 ふと、水樹が


「アレ? 無いなぁ……チャッカマン……」


 と言う声が聞こえて、彼は振り返った。


「え"!?」 同時に


 ゴンッッ


 と豪快な音が鳴り響いた。

 思い切り 棚上に頭をぶつける。


「……ッったぁ…………!!!」


 衝撃に火花を見たような気がする。思わず声が上がった。膝をついたまま頭を抱えていると、その声がした。

 ────近くで。


「秀一、大丈夫?」


 頭がガンガンしていたけれど、一瞬でそれは別の何かに変わる。顔を上げるのが怖かった。何かを 見透かされそうで────何を?

 次の瞬間、彼女の手が自分の頭に触れたのを感じた。


 ドキリ として


 物凄い勢いで身を引く!!……引いてしまった。


 体勢は変わって 顔が上がる。

 見ると水樹の右手はまだ宙に上がったままで、そして

 ────そして、彼女の驚きに見開いた瞳は、瞬時に悲しみに染まった。


(あ…………!)


 取り返しのつかないことをしたことは分かった。どうしたら取り戻せるのかは分からない。どうしたら──


 水樹は手を静かに下ろして 自分の膝に置いた。その悲しみを隠すかのように瞳を伏せる。


「ごめん。……いやだよね。私に触られるのなんか」


 彼女の言葉があまりにも意外すぎて、むしろ込み上げた疑問はちゃんと口から出た。


「どうして?どうして……僕が嫌だと思うと……思うの?」


 顔を上げないまま 水樹は答えた。


「私は……汚いもの」


 秀一は耳を疑った。

 水樹は続ける。


「私は嘘や罠で人の恋愛感情を(もてあそ)んだもの。ズルくて卑怯で…………汚い。秀一も見てたでしょ。私がいろんな男子とイチャつくの。だから、嫌になっても……仕方ないよ」


 彼女は、顔を上げて、()()()


「ごめんね。私なんかが好きになって」


 泣き笑いような笑顔────


 それは秀一の胸を刺した。


 ただ 美しいからでは ──なくて


「返事 いらないよ。困らせて 本当にごめん」


 水樹はそして────視線を秀一から外した。


 彼は、彼女が行こうとしているのが分かった。

 立ち去ろうとしているのだと

 この自分から。


 嫌だ


 立ち上がりかけた水樹の右手をつかんだ。

 さっき自分の頭に触れたその手。

 白くて 細くて 優美で…………尊い。


 決して(よご)れてなどいない

 (けが)れてなどいない

 あなたは


 あなたは 僕の女王だから────


 握ったその手に 細い指先に、口づけた。……そっと。


 彼女の動きが止まり、指先の震えが伝わってくる。

 その手を握って顔を上げた。


 目の前に彼女がいる。

 綺麗な だけではなくて


 傷つきやすくて

 泣き虫で

 でも勇ましくて果敢で

 優しい女性(ひと)


 そんなあなただからこそ


「好きだ」


 水樹の大きな瞳が揺れた。


「気づかなかったけれど……いや、気づくのが怖くて逃げていたけれど。きっと────ずっと前から。

 水樹が好きだった。物凄く。恐ろしいほど。馬鹿みたいに。大好きだった」


 水樹の手を握る自分の手の方が震えているのかもしれない。彼女が握り返してくれているのを感じて、勇気を振り絞る。


「僕に……水樹にできることなんて何もないと思ってた。だから伝えても……意味なんか無いって決めつけていたんだ。自分が傷付くことばかり怖くて」


 彼女の瞳は(きら)めいた。(うる)んで。


「もし、もしも……もしも この僕で水樹を幸せにできるなら、この想いで救えるなら──いくらでも捧げる。

 僕は水樹が好きだ。今までに見てきた、水樹が大好きだ」


 水樹の頬を伝って涙が(こぼ)れ落ちる。

 秀一は握っていた彼女の手をそのまま引いて、抱き寄せた。

 水樹も床に膝をつき、彼に(おお)(かぶ)さる

 ように崩れた。秀一は抱き止め、その髪にキスした。


「好きだ」


 再び告げて、愛する人を見つめる。水樹も顔を上げた。

 2人が顔を合わせて見つめ合う────


 その時



 シュ──────ッ!!



 と外から音がして、明るい色彩の光が窓を照らす。

 それが、次から次へと起こった。


 2人の視線は窓に移った。

 秀一はその光を見て言った。


「チャッカマン取ってきてって言ったくせにな」


「え?……え? じゃあ、秀一も? あれって……?」


 水樹も 風晴の嘘に気がついた。

 そして 2人は笑い出した。笑い合って……なんとかおさめて……


「花火やりに行こう。無くなっちゃう」


 と水樹がやっと言った。

 秀一はうなずいた。が、一度放した水樹の手を取ってしっかりと告げた。


「大道水樹さん、僕と付き合って下さい」


 水樹は満面の笑みで答えた。


「はい !!!」


 秀一は知っていた。

 その笑顔は幼い頃に見た無邪気なものと、そっくりだと言うことを。




 手を繋いだまま────2人は花火をやりに裏庭に向かった。








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― 新着の感想 ―
あああ、切ないー。 語彙力が欲しい。 花火の演出も素敵です。
ようやくかよ、安西秀一ぃ! まったく……………。 登場人物内のカップルが風晴と聖だけになるかと思ったよ。
素晴らしいエピソードですね。 。:゜(;´∩`;)゜:。 様々な嘘。 あるはずなのに見つからない。 燃えるほどの激情が相手を傷付けてしまうことも……。 二人の関係性。互いにずっと探していた。 …
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