表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炎と水と〜黒竜池に眠る秘密〜僕達の推理道程  作者: シロクマシロウ子
解決編・炎

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

103/128

何気ない小道も


ー登場人物紹介ー

桜田風晴さくらだかぜはる・・・田舎の農業高校2年。

桜田風子さくらだふうこ・・・風晴の母親。民宿を営む。

桜田晴臣さくらだはるおみ・・・風晴の父親。市議会議員。

桜田孝臣さくらだたかおみ・・・晴臣の弟。ミステリー同好会顧問。地学教師。

桜田和臣さくらだかずおみ・・・晴臣の弟。桜田建設社長。


大道正火斗だいどうまさひと・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。

大道水樹だいどうみずき・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。

安西秀一あんざいしゅういち・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。

桂木慎かつらぎしん・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。

神宮寺清雅じんぐうじきよまさ・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。

椎名美鈴しいなみすず・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。


宝来総司ほうらいそうじ・・・正火斗、水樹の実父。元陽邪馬市市長。桜田晴臣が行方不明になる同日に転落死。

西岡幸子にしおかさちこ・・・桜田家の隣人。

井原雪枝いはらゆきえ・・・風子に屋敷を貸すオーナー。

大河弓子おおかわゆみこ・・・夏休みの間の民宿の手伝い人。

大山おおやまキエ・・・黒竜池によく行く老婆。


真淵耕平まぶちこうへい・・・灰畑駐在所勤務。巡査部長。

真淵実咲まぶちみさき・・・耕平の妻。

真淵聖まぶちひじり・・・耕平と実咲の長男。農業高校2年。

真淵和弥まぶちかずや・・・耕平と実咲の次男。


北橋勝介きたはししょうすけ・・・フリージャーナリスト。

安藤星那あんどうせいな・・・朝毎新報・新聞記者。


羽柴真吾はしばしんご・・・関光組組員。6年前から消息不明。

松下達男まつしたたつお・・・関光組組員。羽柴の舎弟。

緑川みどりかわまどか・・・羽柴真吾の女。6年前から消息不明。




物産館のずんだ&黒豆ソフトを買って、聖と風晴は日陰のベンチに座った。

ソフトクリームは、薄い緑と薄い灰色の2本のアイスクリームがねじれて作られていた。

冷たくて、美味い。

コーンのところまで行き着いた時、風晴は聖に話しかけた。


『なあ、聖。言いたくなかったら答えなくていいんだけど、()()()を聞いたとき、お前はどう思った?』


風晴は思い切って聞いた。

"あの話"とは、当然ーーー

聖のお母さんが自分の卵子ではなく、弟を産む時にハイブリッド卵子を選んだことだ。ーーー聖のような子供にならないために。

言葉は本心で、聖が言いたくなければ、そう言ってくれれば謝る気だった。ただ、彼がもし誰かに話したいと思っていたなら、、、、ただの思い込みだが、聞くのは自分しかいない とも思っていた。

あるいはオレが、聞いてやりたいだけなのかもしれないけれど。


『僕があんまり悪かったから、、、そうだよな,って。』


『え?』


風晴は思わず聞き返した。


『僕が悪かったから、、、お母さんがそう思っても、、仕方ないって、、思った。』


顔こそ、わずかに寂しげかもしれないが、聖のその言葉は淡々としたものだった。それこそが風晴に衝撃を与えた。

何も言えない。

何も知らない。

子供の頃の聖も。精神を病むほどに苦しんだ聖のお母さんの当時も。

黙って聖を見つめた。

聖は珍しく見返すと、言葉を続けた。


『お母さんも、お父さんも、、大変だとは感じてた。

でも、、僕にとっても大変がいっぱいで、、選ぶたびに、、間違えてた。失敗して、、悪い自分にばかりなった。

だから誰かに何かをなんて、、考えてもいけない気がした。

悪い僕が、悪い答えを、、その人にまで、きっと出すから。』


ソフトクリームが溶け出して、下のすぼみの先端から染み出してくる。だが、風晴は口をつけられなかった。


『お前、泣かなかったの、なんで?』


救うような言葉は何一つ浮かばず、単純な疑問だけが口から滑り出た。そんな絶望感の中にいたのに、、、


『それは昔で、、今は良くなったと、思ったから。』


ケロリとした感じで聖が言ったので、風晴は目を見張った。


『言ってくれたから。風晴がたくさん、、僕が " 良かった " って。』


そうして聖は笑った。ニコニコとまではいかないが。

ちゃんと笑顔だった。

なんでか分からないが、それで、風晴は泣きたいような気持ちになった。


()れてる、、垂れてる!』


聖に指差される。慌ててソフトクリームをコーンの下から吸った。すぐにまた上から食べるが、大忙しの状態になる。それを見て聖はまた笑ってくれていた。








選んだプレゼントは聖に持っていてもらうことにした。灰畑(はいはた)の住宅街で2人はそれぞれの家路に別れる。

別れ際、聖は口にした。しっかりと風晴を見て。


『風晴、ありがとう。病院で、、僕を信じるって、、言ってくれて。』


それから、聖は続けた。


『明日、正火斗にも、、お礼が言いたい。』


風晴はただうなずいた。

察しはついた。あのスマートフォンで話した時、何かアドバイスがあったのだろう。


聖はその言葉だけで、さよならも無くマウンテンバイクを漕ぎ出して、住宅の陰に消えて行った。

風晴は思った。


何気なく発していた一言も

想いを込めて告げる一言も

届いてるものなんだな

ちゃんと


受け止めて力に出来ることも、凄い。

聖は(もろ)さも弱さもあるけれど、強かった。

もしかしたら、誰よりも。


(なげ)くことも恨むことも憎むことも、

もしかしたら狂うことさえ

聖にこそ許されていたんじゃないだろうか。


でも聖は(ゆる)した

(ゆる)したんだ


全てを


その何もかも を。



突っ立っていたハンドルを動かし、向きを変えて、自分も家に向かう。


ふと、思った。


正火斗はどこまで見抜いていたんだろう。

やっぱり凄いヤツ。


だけどもし


彼もただ願い、祈っていたなら


本当に凄くて


そして


アイツも結構な馬鹿なのかもしれない。



風晴は1人マウンテンバイクを漕ぎながら笑いが溢れた。

陽は高かったが、雲も浮かんでいる日で、時折は陰った。

帰り道の最後に、風晴は秀一のことを考えた。


秀一もちゃんと言葉にして全部伝えられたら、きっと上手くいく。必ず。


ただ信じた。この場合は、馬鹿でもないはずだ。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
馬鹿でもないはずだ > 果たしてそうかな? 何も言えずにうじうじしてるんじゃないのか? 今も部屋に籠もって悶々と考え込んでいそう。
いいえ、安西は馬鹿です。 即OKしなかった時点でギルティと共に確定しています。 (⌐■-■) ソフトクリームは一度決壊が始まると、手がベタベタまで直行便ですよね。 いまだに覆せた試しが無いですよ。 …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ