#45 少女は守り切る
「ルカッ! すまない、何体か抜けたッ!」
「大、丈夫っ!」
ルカはそう言うと、先程と同じように腕に根を這わせ始める。
(大丈夫、同じ手順でやって、行動不能に)
重々しくも接近してくるゴーレムにしっかりと視線を合わせ、構える。
今度は5体。さっきよりも多いが、やれるはず。いいや、やるんだ。
一気に捉える必要があるから、さっきよりも多めの魔力を用意して、丁寧に、丁寧に練り上げる。
そして、発射を――、
「ルカちゃん、右だっ!」
アルフレッドの叫び声に、反射的にルカが視線を向ける。
「――《盾蔓》ッ!」
そこには、既に攻撃の準備を終えたゴーレムが1体。
慌てて放出した魔法は、たった1体に向けて使うにはいささか過剰ではあったが、捕縛することには成功する……が。
「しまった!」
ルカは、今の一撃で元々5体に撃ち込むはずだった魔法を使ってしまった。もちろん、魔力が足りないとかそういう問題はまだ発生していないが、それよりもなにより、魔法を練り上げるための時間が足りない。
(なにか、なにかないのっ!?)
回避行動を取ろうと、身体を拗じらせる。
瞬間、カランッと、金属音がすぐ近くから鳴った。
どこから? ルカは武器を装備していない。エアハルトやアルフレッドが鳴らしたにしてはあまりにも音が近すぎる。本当に、ルカの装備しているものが鳴らしたような、そんな。
「かばんっ!」
ルカは思い切ってかばんの中に手をつっこむ。少々角張ったようなガラス瓶、違う。干し肉、違う。円筒状の金属容器、これだっ!
取り出して、形状を見る。おそらく蓋であろう、継ぎ目がある。果たしてこれがどんな道具なのかどうかは、わからない。けれど、なんでもいいから、打開策になってくれさえすれば。
そんな思いで、ルカは蓋を取り外す。そうすると、筒の中から、魔力が流れ出ていることが感ぜられる。おそらく、こちらが噴出口。ならば、
「発射っ!」
筒の口をゴーレムたちに向け、ルカは思い切りにそう叫ぶ。瞬間、ルカの身体から思い切りに魔力が吸い取られていっていくのが感じられる。
突然の感覚にフラリと目眩がするが、今、倒れるわけにはいかない。なんとか踏ん張りながら、筒が魔力を吸い取るのならばと、自分から魔力を流し込む。
「お願い、なんとかなって――」
ルカが、そう希い、そして。
ルカの身体が、後ろに吹き飛ばされる。
だがしかし、それは攻撃を受けたからではない。筒から放出された衝撃波が、その反作用によりルカの身体を吹き飛ばしたのだ。
「がはっ」
壁に叩きつけられ、そのまま地面に倒れ込む。……大丈夫、痛いだけでまだ動ける。それよりも、
なんとかルカが顔を上げ、前を見ると心配そうにこちらを見つめてくるアルフレッドと、自分と同じように吹き飛ばされたゴーレムたち。……よし、とりあえず一旦は及第点だろう。
痛む身体に鞭を打ち、なんとか起こす。まだ、動けなくなるわけにはいかない。
だがしかし、道具側が無理矢理に魔力を吸い出すほどに使った。それほどに、今の一撃でルカは大きく魔力を失っていた。
ルカは後から知ることになったが、今使った道具は爆裂筒という魔道具だった。
爆裂筒は、エアハルトが使っていた《重弾烈》のように衝撃波を生成、放出する。そういう意味では、おそらくこの状況において最も有効な魔道具を引き当てたと言っても過言ではない。
だがしかし、ある意味では最もリスキーな魔道具を引き当てたとも言えた。爆裂筒は擬似的に《重弾烈》を引き起こすことができる一方で、非常に消費する魔力が多い。……いや、正しく言うのであれば本人の身体が許容できる瞬間的な魔力上限の8割ほどを強制的に発動させ、それを爆裂筒から衝撃波として放出するというもの。そのため、この魔道具は衝撃波系の魔法の命令式を知らなくても使え、また、魔法を練り上げるなどの時間もすべてカットできるという利点の代わりに、威力の制御、そして魔力の節約ができない。
故に、継戦能力に欠ける。
もちろんこのときのルカはそんなこと知る由もなかったのだが、とはいえ、自身の身体から抜けた魔力の多さは痛感していた。
(補給、しないと……)
微塵も湧いてこない食欲に、口に入れることを拒みたい感覚に、無理矢理に目を背けながらかばんから取り出した干し肉を頬張る。ちょうどいい、少し体力も減っているところだ。水薬を1瓶開けると、干し肉とともに流し込んだ。……酷い味だ。
猛烈な吐き気に襲われながらも、しかし魔力が幾ばくか回復したことは感ぜれられた。守るんだ……守らなきゃいけない。私が。
衝撃波で弾き飛ばしたゴーレムは、核まで潰せたわけじゃない。ということは、すぐに再生してこちらに向かってくるはずだ。
それに、さっき右からやってきたゴーレム。あれはどこから……ああ、そういうことか。
入り口付近にルカが視線をやると、外から侵入してきたゴーレムが1体。そりゃそうだ。と、ルカがひとり理解、そして反省する。
ルカがエアハルトと訓練していた環境はダンジョンの構造変化時、つまり部屋が密室化しているときだった。それに対して今は別にそういうわけではない。つまり、外からの侵入もあり得るのだ。
ふと、ここが開いているのであらば誰かが近づいてきて来てしまうのではないか、そして入ってきてしまえば魔法を使っていることがバレるのではないかということを懸念した。だがしかし、ルカは問題ないだろうと、すぐに解釈する。
非干渉の原則がある、とエアハルトは言っていた。そうでなくても基本的にはダンジョンでは己の命が優先だ。わざわざ乱戦している様子が聞こえているところに突っ込んでくるような物好きはほとんどいない。
そもそもそんな人がいたところで、既にアルフレッドとクレアに見られているのだ。もはや手遅れといえば手遅れなのだ。
それよりも、そんな心配をするよりも。今、気にするべきは。
少し、考えに意識を持っていかれていたが、首を振り、前に向き直す。状況を再確認、今、なすべきことを考える。
とりあえずすぐにでも対応しないといけないゴーレムは、3体。後続に4体いる。今度は周囲の確認も怠らない。大丈夫だ。
魔力が足りるだろうか、と、少し考えたが、イザとなったら吐いてでも食べて補給すればいい。気持ち悪いことなど、今は捨てておけ。
「《植物召喚》ッ!」
今はとにかく、守るんだ!
しばらくして、ペタリ、と。ルカはその場に座り込んだ。
エアハルトが対応していた群れは、今や瓦礫の山となり、その全てが物言わぬようになっていた。
そうなってからというものは早くて、群れていたところからはぐれていたゴーレムを片っ端から潰して回り、つい今に、ルカが対応していた最後の1体を倒し終わったところだった。
「ルカ、よくやった」
「ふ、ふふん」
ヘトヘトで、どうしようもなく疲れていたが、エアハルトにそう褒められたことに嬉しくて、つい鼻を鳴らしてしまう。
まだ動けるか? と尋ねられたので、ルカはコクリと頷く。
「なら、アルフレッドの治療を頼む。俺はクレアの方をやる。本当はお前自身の回復もしないといけないんだが」
「大丈夫、私よりふたりのほうがマズイ状況なのはさすがにわかってるから」
「そうか」
エアハルトはそうとだけ言うと、クレアの方に向かった。ルカはそれを見届けると、アルフレッドの方に歩み寄る。
「ひっ」
「大丈夫です。傷つけようとか、そういうわけじゃないですから」
もしかしたら、目撃者の口封じをしようとか、そういうふうに見られてしまっているのかもしれない。大丈夫、大丈夫ですからと、ルカは諭すように言った。
「《治癒》」
唱えたのは、覚えたての回復魔法。骨折や大きな肉の抉れというような酷いものは無理だが、多少の切り傷や擦り傷、打撲程度なら治すことができる魔法だった。
ルカは怪我をしているところを探しながら、丁寧に、丁寧に治療をしていく。そうしていくうちにアルフレッド自身の気持ちも落ち着いたのか、俯きながら、口を開いた。
「ルカちゃんも、魔法使い、なのか?」
「ええ、そうです」
「……そうか」
はたしてその問いが、畏怖から来るものなのか、それとも興味からくるものなのか。受け取ったルカにはわからなかった。




