表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/176

#20 大罪人と幼女は出発する

「さて、荷物の準備はいいか?」


「うん!」


外套コートも着たな?」


「うん! っていうか、それは見えてるよね?」


「再三聞くぞ、忘れ物はないな?」


「おっけー!」


「それじゃあ、行くぞ!」


「うん!」


 エアハルトがイスから立ち上がる。ルカもぴょんっと飛び降りる。


「そんじゃ、行ってくる」


「行ってくるねー!」


「……ホントに行くの?」


 と、二人以外の声が聞こえる。部屋の中にある、三つ目のイスに座った少女。その声は、少し心配そうだった。


「まあ、ルカの願いでもあったしな」


「そう……気をつけてね」


「当たり前だ。土産期待しておけよ」


「……行ってらっしゃい」


 家の扉を開いて、エアハルトは外に出る。その後ろをルカが追いかける。

 二つの人影を見送ったミリアは、ため息をついた。


「ったく、私くらい連れてってくれてもいいのに」


 イスから立ち上がり、ミリアは扉を閉じた。扉くらいちゃんと閉じなさい、と。

 

「なんで、言えなかったんだろ。簡単だったでしょ、それくらい」


 むしろ、それを言うために今日は来たというのに。


「あーあ、私のバーカ」


 なんで、私も行ってきますって言えなかったんだろ。なんで、私は行ってらっしゃいだったんだろうか。

 ミリアは、後悔した。






「それで、今からはファフマールに行くの?」


「そうだ。だか、それなりに距離はあるし、途中でいくつか街による。それに、道中では野宿のときもある。まあ、とりあえずは手近な町のうちの一つ、コルチという町を目指す」


「コルチ?」


 森の中、静かだった中を歩く二人の声だけが聞こえる。


「ああ、コルチという町の近くにはちょっとした旧跡……ダンジョンと呼ばれるものがあってだな」


「なにそれ」


「ダンジョンってのは、簡単に言えば不思議な迷路だ」


 ダンジョンとは、どのような作られ方をしたのか、誰を作ったのか、全く不詳な建造物だった。

 あるものは地下に、あるものは山に。あるいは、あるものは塔の内部であったり。

 しかしその特徴は、どちらかというとその特質である。


 ダンジョンは、一定周期で内部構造を変化させる。

 入るたびに、そのルートを変える。


「ダンジョンが姿を変える少し前、ダンジョン全体が地鳴りを起こす。そしてそれからしばらくすると、ダンジョンの壁が点滅しだすんだ」


 ここまでの原理はわかっていない。ここから起こることの原理もわかっていない。けれど、この点滅が加速して、全体が光るとダンジョンは動き出す。


「そういうことから、ダンジョンは生ける遺物とも呼ばれる」


 ダンジョンが動くとき、冒険者たちに「安全地帯」や「結界部屋」と呼ばれるような場所以外は、すっかりと変貌を遂げる。この変動に巻き込まれた場合、どうなるかはわかっていない。


「この途中は、基本的に安全地帯で過ごすことが慣例だとされている。巻き込まれたらどうなるかはわかっていないということと、もし仮に無事だったとしても、どこに飛ばされるかがわからないからだ」


 ただ、この変動により面白いことが起こっているというのも事実である。


「ダンジョンには、お宝が存在している」


 浅い場所にあることも、深い場所にあることも。姿が変動することにより、常に色んな場所を転々とするのだ。


「たまにあるのが、別の冒険者の落とし物だ」


 冒険者たちが安全地帯へと急ぐとき、その途中で物を落としても見捨てることが多い。命あっての物種ということだ。

 そして、ダンジョンで落とせば、変動によりそれはどこが遠いところに飛ばされたりする。


「原則、そうやって落としたものにはダンジョン内に限り、所有権を失う。言ってしまえば、ダンジョンで物を拾ったら自分のものにしてもいい、ということだ」


 そうされる理由は二つ。一つは、仮に拾ったとしても、それの持ち主を見つけることが非常に困難だから。

 そしてもう一つは、


「ダンジョンの難易度は常に変動する。拾ったものでも使わないと、生きていけない場合があるからだ」


 ゴクリ。ルカが唾を飲んだ。


 唾を飲んで、少し考えた。なぜ、エアはそんな話をしているのだろうか。

 なぜ、そんな話を私に教えているのだろうか。いや、ダンジョンとは何かを私が聞いたからだろう。しかし、ここまで詳しい話をどうして。


 というか、そんなダンジョンがあるような場所に立ち寄る理由は……? エアの口ぶりからすれば、別の町を通るルートがあるはず。しかし、どうしてコルチという町を?


 なぜ、なぜ――。


「ねえ、どうしてコルチにしたの?」


「ん、それが気になるか? 理由は二つ」


 一つは、ここには冒険者が多く集まる。クエストの数も多く集まるし、少し金を稼ぐこともできる。

 また、一部のクエストを利用すれば、次の町までの「足」を確保することもできる。


「そしてもう一つは、ちょうどいいかなって」


「な……にが?」


「魔法の練習に」


 ルカは、嫌な予感しかしていなかった。


 そういえば、少し前にエアは「相手をどうしようか」とか「ルカにちょうどいいものはないか」などと言っていた。


 そして「魔法の練習」に「ちょうどいい」。その上これから行く町には「ダンジョン」がある。そしてその町が「ちょうどいい」……と。


 つまり、考えうるものは。


「ルカの魔法の練習をするのに、ダンジョンがちょうどいいんじゃないかなって」


 頭おかしいんじゃないだろうか。ルカは頭を抱えた。






「日暮れだな」


「そう、だね」


 森の中をひたすら歩いていた。大通りを歩けばもっと速いといえば速いのだが、一応避けられる場所での遭遇はできるだけ避ける目的もあり、森の中を歩いていた。


「はい」


「……なに、これ」


「言ったろ? 道中で魔法の練習するって」


 エアハルトが差し出したのは、金属塊だった。


「うん、コルチの町でするんじゃないの?」


「それは戦闘魔法だろう。今からやるのは非戦闘魔法だ」


 ルカは顔をしかめた。


「今から、ルカには標識針マーキングニードルを作ってもらう」


「無理無理無理無理無理無理無理無理! 待って、考え直して、無理ー!」


「すんげえ否定だな。これ以上ないくらいの」


「だって、だって私その、ま、ま、マーキングなんちゃらってやつ、作ったことないもん!」


「誰でもはじめはそうだろうが」


「うっ……」


 エアハルトは、はぁ。とため息をついた。


「見本見せるから、ちゃんと。それからやって見るんだ。いいな?」


「う、うにゅう……」


 ルカは、俯きながら、小さく頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ