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エピローグ






 4月15日。




 彩雲学園・本校舎屋上。




 3日ぶりに再開した彩雲学園。

 その昼休みに、護と美咲は屋上にいた。


 美咲が護を呼び出したのだ。


「久しぶりに授業したせいで、何だか疲れちゃった」


 両手を高く上げて伸びをする美咲に、護は苦笑した。


「Aクラスの授業ってなにやってるんだ?」

「あんまり他のクラスと変わらないわ。ちょっと難易度が高いけど」


 そのちょっとが恐ろしいほど高いんだろうな、と護は頬を引きつらせた。


「結城君なら多分、飽きちゃうようなことばかりだと思うわ」

「俺はFクラスの授業にもついていくだけで精一杯だから、飽きる前に諦めるだろうな」

「え? Fクラスってそんなに難しい授業をやっているの?」

「そんなわけないだろう。普通だよ。普通。俺は平均以下の能力しか持ち合わせていないんだよ」


 その護の言葉を謙遜と受け取ったのか、美咲はムッとした表情を浮かべて、護に近寄った。


「ならなんで騎士になれたの?」

「偶然……かな」

「偶然で騎士になれるの?」


 納得いかない、という感じの美咲に対して、どう説明するべきか、護は頭を悩ませた。


 しばらく考え込んだあと、護はため息を吐いて美咲に質問を投げかけた。


「ギアの中核に使われるラピスには、種類があるのは知ってるよな?」

「当然よ。高純度、高性能なものから黒・白・橙色・紫色 ・桃色・赤色・青色・黄色・緑色・灰色・茶色の計11個。地球で採掘されるのは赤から茶まで。それ以外はエスティアでしか取れないわ」

「教科書通りの完璧な返しだな。じゃあ、これは知ってるか? ラピスと人には相性があるってことを」

「相性?」


 美咲を首を傾げたのを見て、護は頷く。


 美咲が知らないのも無理はなかった。

 アストリアでもごく一部の研究者しか知らない仮設なのだから。


 仮説とはいえ、実例は存在した。

 それが護である。


 ラピスと人には相性がある。

 通常の人間にとって、その相性は誤差の範囲であり、しっくり来るや、使いやすいという僅かな感覚としてしか現れない。

 しかし、稀にそれが顕著な人間がいる。


 特定のラピス以外は受け付けない特異体質。

 それが護だった。


「まぁ、普通は気にもならない程度だけど、なんていうかな。拒絶反応っていうか、生理的に無理っていうか」

「えっと、どういうこと?」

「つまり、特定のラピスと相性が良い人間は、他のラピスを拒絶するってことだ。俺はあるラピスとの相性がすこぶる良い代わりに、他のラピスとの相性が最悪なんだ」

「そんな話聞いたことないけど……それと騎士になったのは偶然ってどういうこと?」


 美咲は釈然としないといった様子で、額に指を当てた。

 護はそんな美咲に対して、説明するより見てもらうことにした。


 右手につけているギアの開閉ボタンを押したのだ。

 それで中にセットされているラピスが美咲の視界に飛び込んだ。


「嘘!? 黒のラピス!? それも3つ!? この学園だって1つしか保持してないのに!?」

「ま、美咲のその反応が正しいよ。黒のラピスは産出量が極めて少ない。十三名家の九条の娘が驚くほど希少だ。そして、この黒のラピスが俺と相性のいいラピスなんだ」

「えっと……待って。騎士である結城君が黒のラピスを使ってるのは、理解できるけど……騎士になる前はどうしてたの?」

「俺は2年半くらい前まで、騎士になる前までは碌に魔術を使えなかった。中学も魔術のカリキュラムがない学校だったしな。当然、相性の話なんて知らないから、俺も周りも俺には魔術を使う才能がないと思ってた。だから、俺はずっと体術を磨いてた」


 護はギアを閉じると、屋上の外へと視線を向けた。


 混乱に包まれた彩雲市も、数日の間でどうにか平静を取り戻し始めていた。


「それって……それまでは魔術の訓練すらしてなかったってこと? でも、護は自由自在に魔術を使えてた! あそこまで自在に使えるようになるのには、絶対に2年じゃ足りない!」

「黒のラピスは、アストリアでも術式を刻むのが難しいラピスだ。当然、失敗した場合の損失も計り知れない。だから刻まれたのは単純な防御魔術であるプロテクションだけだった。それしか使えないから、自然とそれの扱いは上手くなった。それだけだ」

「本当に特化型なのね……」

「俺が偶然っていった理由はわかったか? 黒のラピスなんて、普通ならまずお目にかかれない。けど、リリーシャ・アストリアならそれは別だ。俺が騎士になれたのは、たまたまリリーシャ・アストリアを助けたから。まぁ、一緒に逃げただけだけどな。それで、その功績として、殿下は俺に最大限の便宜を図ってくれた。力を与えてくれたといってもいいかな」


 そのせいで、無理やり騎士に称号を与えられた、という言葉を口にしようとして、護はなんとか飲み込んだ。


 騎士の称号を拒まなかったのは、他ならぬ護自身だったからだ。

 あの日の決断をどれだけ後悔していても、もう騎士になったことを誰かのせいにはしない。

 そう護は決めていた。


「だから、偶然……。でも結城君の体術は結城君のモノでしょう?」

「まぁな。正直、体術だけには自信を持ってるよ。結局、殿下を連れて逃げることができたのも、体術があったからこそだしな」


 美咲は護の話を聞いて、何度も頷いた。


 そんな美咲を不思議そうに護は見た。


「どうした?」

「私やレオナさんに対して、一々構えないのはリリーシャ殿下と親しいからでしょ? 2人の逃避行の話も聞きたいなぁ」

「面白くもなんともないから却下だ」

「えー、ケチ」

「ケチでいいよ。それで? 呼び出した理由はなんだよ?」


 護がそういうと、美咲は両手を叩いて笑みを深めた。

 その笑みにドキリとして、護は微かに姿勢を正してしまった。


 そんな護の変化に満足しつつ、美咲は柔らかな笑みを浮かべたまま告げた。


「助けてもらったお礼がまだだったから。ありがとう、“護君”」


 そういうと、美咲は護の手を取った。


「さぁ、話は終わり。カフェテリアに行きましょ」

「お、おい! 引っ張るなよ!」






◆◇◆






 その日の夕方。

 護は寮の自室でリリーシャと話していた。


 話していたといっても、MADを通してではあったが。


『そうですか。生徒たちは回復していますか』

「ああ、俺の知り合いたちもまだ入院してはいるけど元気だ」

『あなたのおかげ……と知るのは美咲さんだけですか……』


 リリーシャは微かに沈んだ声でそう呟いた。


 サー・ドレッドノートが事件の解決に尽力したことは広まっていても、護がサー・ドレッドノートと知る者はごく少数。

 結城護も、サー・ドレッドノートも、護ではあったが、双方の評価は一致は決してしなかった。


「仕方ないだろう。正体バラしてるのは九条だけだし、そもそもシアは俺の存在を一般に公表する気はないんだろう?」

『……どうしてそう思うんですか?』

「俺が特殊であっても、例外じゃないから、かな。多分、俺みたいな奴は探せば結構いる。ただ、子供の頃に魔術の才能がないってレッテルを貼られてるだけだ。俺の正体を明かして、体質のことを知られれば、そいつらに日の目が当たるだろうけど……同時に俺みたいなのが量産されることに繋がる。望まない奴を戦場に送り出すの、嫌いだろう?」

『珍しく思慮深いですね。その通りです。あなたの正体が露見すれば、すぐに体質も露見する。そして、どの国も思うでしょう。サー・ドレッドノートは例外的に強いわけではない。ただ、アストリアが正しい装備を与えただけ、と』


 ゆえに公表したりはしない。

 顔がバレてはいずれ全てを知られる。


 護の平穏も大切ではあったが、同時に戦火が拡大することを防がねばとリリーシャは考えていた。


『ですから、それらを踏まえて提案します。あなたが望むなら……普通の高校への転校を許可します。日本政府もサー・ドレッドノートが彩雲市にいたことは知ったはず。そこに留まれば正体がバレるかもしれません』

「……まぁ今回の件で転校を希望する奴らもいるし、不自然じゃないだろうけど……遠慮しとくよ。俺はこの学園で友人ができた。そいつらと……3年間を過ごしてみたい」

『そう、ですか……。それならそのように取り計らいましょう。また、いつレムリアが攻めて来るとも限りませんしね』


 リリーシャは護の返答を意外に思いつつも、受け入れた。


 転校をしても、転校先を洗い出されるはず。

 そこで監視を受けてしまえば意味はない。

 ならば、彩雲学園に留まっていたほうがまだ平穏だといえる。


『護……。学園は楽しいですか?』

「微妙かな。楽しくなるような気はしてるけど」

『そうですか。それは良かったです。そういえば、父があなたに勲章を贈りたいといっていましたが?』


 今回の件については、国王を含めたアストリア王国の重鎮たちは、護に気を使っていた。

 もっといえば、護を都合よく利用されたリリーシャに対して、気を使っていた。


 その一環として、滅多に与えられない勲章を授与するという行動に出たのだ。


 しかし。


「必要ない。俺は……リリーシャ・アストリアの騎士だから。シアから貰う勲章ならありがたく頂くけど、国王からの勲章は必要ないよ」

『……ありがとう。そういってくれると救われます。では、そんな私の騎士に命令があります。明日、アメリカに行く用事があるので、同行してください』

「ちょっ!? アメリカ!? 授業が始まってるんだけど……ってか明日って……」

『準備をしておいてください。私のサー・ドレッドノート』


 楽しげなリリーシャに対して、護は疲れたような声で応じる。


「仰せのままに……我が(マイロード)


 そう答えた護は、そのときになって美咲にランチの約束をさせられていたことを思い出した。


 さて、どうやって断るべきか。


 護はリリーシャの他愛ない話を聞き流しながら、頭を捻り始めた。


 ここまでお付き合い頂いた皆様。

 まことにありがとうございます。


 この難攻不落の≪ドレッドノート≫は、文庫一冊分くらいの分量で話を纏められるか、という点に主眼を置いていました。

 その中で、できればなろうではあまりない近現代物でも書いてみるか、と挑戦したものです。


 一応、次の話や、護とリリーシャが出会った事件の話のプロットもあるのですが、それはまた次回の機会にしたいと思います。

 次は難攻不落の≪ドレッドノート≫2とか続とかにするかは未定ですが、とりあえず、この話はここで完結させていただきます。

 続きが楽しみだという感想があり、心苦しいですが、軍師の書籍版もありますし、他にも書いてみたい作品もあります。


 実際は、ダラダラと連載を続けるのは嫌だ、という理由ですが笑


 次に書くのが難攻不落の≪ドレッドノート≫になるか、それとも軍師になるか、新作になるか未定ですが、どうぞそのときもよろしくお願いいたします。


 感想をくれた皆様、ブックマークしてくれた皆様、ポイントを入れてくれた皆様。

 励みになりました。

 ありがとうございました。



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