表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/24

第16話 デュランダル




 彩雲学園本校舎屋上。

 午後5時10分。






 MADを含めて、およそ利用可能な通信手段は全て妨害されていた。

 そのせいで、被害は続々と増えていた。


 学園から離れた位置にいる3年生はいまだ戻らず、教師と一緒に行動していたため、被害にあわずに戻れた生徒たちはごく僅か。


 裏門から学園も襲撃され、十三名家の跡取りが攫われた。


 戻ってきた教師たちは頭を抱えていた。


 今いる生徒の安全を確保するために、彩雲学園から動くわけにもいかない。

 しかし、攫われた生徒たちも放ってはおけない。


 少なくとも3年生たちの状況がわかるまでは動くに動けない。

 それが彩雲学園の教師たちの状況だった。


 それを松岡から聞いた護は、騎士として松岡に指示を出した。


「このままここにいる生徒の護衛をお願いします。誰も学園の外に出さないでください」

「誘拐された生徒はどうする?」

「俺が助けにいきます。ホールを狙うレムリアを放っておくわけにもいきませんしね」

「まぁ、各方面と連絡が途絶えている以上、お前の言葉に従うが……1人で大丈夫なのか?」

「平気ですよ。そもそも1人ではありませんしね」


 そういって護は空を見上げた。


 護の視界には夕暮れ時の空が映っていたが、どこか違和感があった。

 それもそうだろう。

 それは近くの空を映し出しているだけなのだから。


 本校舎に微かな振動が走った。

 地震よりも小さな揺れだった。

 しかし、まるで何かが着陸したような揺れに、松岡が怪訝そうな表情を浮かべた。


 しかし、その怪訝そうな表情は驚きのモノへと変化した。


 いきなり何もない空間が開いたからだ。

 そしてそこから1人の女性が出てきた。


 茶色の髪の大人びた女性。

 しかし着ているのはアストリア軍の白い軍服だった。


「遅れてすみません。サー・ドレッドノート。騎士座乗艦デュランダル。ただいまお迎えにあがりました」

「騎士座乗艦!? ステルス機能か!?」

「最新鋭の魔動装置を使った光学迷彩だそうですよ。俺はよくわかりませんけど。とりあえず、無闇に動かないでください。もう教師では足手まといですから」

「……軍に任せろってことか……」

「そうですね。安心してください。絶対に助け出しますから」


 そういって、護はデュランダルに乗り込んだ。






◆◇◆






 騎士座乗艦デュランダル・メインブリッジ。

 午後5時17分。






 護が搭乗したと同時に、デュランダルは彩雲学園から離れて浮上していた。

 メインブリッジに護が姿を現すと、メインブリッジにいる全員が右手で拳を作り、左胸に当てた。

 アストリア式の敬礼だった。


 その敬礼に対して、護はため息を吐いた。


「何度も言ってませんか? 敬礼はいらない、と」

「何度も返していませんか? 無理な相談です、と」


 髭を蓄え、軍服を着崩した中年の男性が、護の言葉にそう返した。

 その顔には豪快という言葉がピッタリな笑みが浮かんでいた。


「ホーエンハイム艦長。一応、俺はあなたたちの上官扱いだと思うんですが?」

「ええ。騎士は軍では准将扱いですからね。ですから敬礼をする。間違ってるのはサー・ドレッドノート。あなたのほうだ」


 ホーエンハイムはそういうと、敬礼を解く。

 それに合わせて、メインブリッジにいた全員が作業に戻った。


「さぁ、サー・ドレッドノート。あなたの“愛馬”に号令を」

「ミカエラさん……俺は自分の艦を“愛馬”と呼ぶような悪趣味な真似はしませんよ……」

「騎士の大部分がそういいますよ。特殊なのはあなたです。それと、部下に“さん”付けはやめるようにいいませんでしたか?」


 ミカエラは長く伸びた茶色の髪をなびかせながら、艦長席の近くにあるオペレーターの席に座った。

 それを見て、護も自分の位置に移動する。


 場所はメインブリッジの中央。

 そこに騎士の席はある。


 ホーエンハイムが視線で座るように促す。

 騎士座乗艦に求められるのは、アストリア最高戦力である騎士を素早く目的地に運ぶことであり、騎士の能力を最大限に引き出すことである。


 その騎士座乗艦の運用に騎士は携わらない。

 騎士は現場まで乗っていき、そこから出動するだけなのだ。


 それでも騎士が乗っている際は、騎士がトップゆえに、艦の発進の際には号令をかける必要がある。

 これが護は嫌いだった。


 艦に乗っているのは全員が年上であり、アストリア軍のエリートたちだからだ。

 そんな人たちに命令するのは気が引けるのだ


 けれど、号令をかけねば艦は発進しない。

 護はため息を吐いて、席に座ると、できるだけ威厳を込めて発進を命じた。


「デュランダル、発進。ホールの上空まで移動しろ」

「はっ! デュランダル発進! 目標、ホール上空!」


 ホーエンハイムが護の意図を汲んで、適切な指示を各員に指示を出していく。

 その様子を眺めながら、護はオペレーター席に座るミカエラに、状況の説明を求めた。


「状況は?」

「はい。彩雲市全域で魔術、魔法、機械を問わず通信が妨害されています。デュランダルの通信も妨害されているため、かなり強力なジャミングです。また、信号などの一部、機械にも影響が見られます」

「魔法ですか?」

「おそらくは。詳しいことはわかっていませんが、人目のつかない場所に魔法の術式が描かれています。それが原因かと」

「レムリア連邦が誘拐事件を起こしたのは、そういう人目のつかない所に、人を寄せ付けないためだったのかもしれませんなぁ」


 ホーエンハイムの言葉に護は頷く。

 しかし、それに気付いたところでもう遅い。

 すでに通信は妨害されている。


 こちらは連携を分断されているのだ。


「他の騎士は? どうせ来ているんでしょ?」

「東京湾でサー・ブレイク、サー・ストライクの両名が警戒に当たっています。通信が妨害される前に、敵らしき一団を補足したと連絡がありました」


 護は物騒な2つ名を持つ2人を思い浮かべて、顔を顰めた。


「また攻撃力のある2人を配置したな。海上で戦闘が終わらなかったら、東京は火の海になるぞ……」

「心配はいらないでしょう。あのお二方に限っていえば、壊すことを失敗するとは思えません。敵はおそらくステルス飛空艇で彩雲市に突入しようと試みるはずですしね」


 どれだけ巧妙なステルス機能を持っていても、完璧に隠れることは不可能だ。

 そして、サー・ストライクにはステルス自体が通用しない。


 護は眼帯をつけた女性を思い浮かべて、それもそうかと頷いた。


「そっちはわかりました。彩雲市の状況は?」

「混乱していますね。あちこちで魔術の反応が見られます。そのせいで、魔力探知での敵の捜索も難航しています」

「そこらへんを見込んでの通信妨害か……敵の思い通りに運んでるな」

「そうとも限りますまい。あなたがいることは予想外なはずですから」


 護は懐かしい声に振り向いた。

 そこには、メインブリッジにちょうど入ってきた老人がいた。


 アストリアの大臣が着用する青色の服を着た老人の名はジョン・レイオン。

 アストリアの外務大臣を長きに渡って務める重鎮だ。


「レイオン外務大臣!? どうしてこちらに?」

「あなたがここにいる理由付けですよ。サー・ドレッドノート。私の護衛として日本に来ていた。そういうことです」

「……なるほど。それでこの艦に?」

「ええ。まぁ、日本政府も流石にアストリアが事前にあなたを送り込んだことには気付くでしょうが、表立って非難はできますまい。こうして、してやられているわけですしね」


 レイオンは好々爺のように笑いながら、護の横にある席に腰を下ろした。

 そして、護に対して現在の日本について説明を始めた。


「今の日本政府は一枚岩ではありません。十三名家はそれぞれ勢力争いを始めていますから。これも、レイヴンズが活躍してしまったせいですなぁ。外の敵には団結して戦えますが、一旦、その脅威が薄れると、人の集まりは分裂し始めます」

「それを纏めるのが政府の役割だと思うんですが?」

「既に政府など飾りですよ。十三名家が実権を握ってます。だから、最近はアストリアの干渉を拒むんです。十三名家としても、日本を守ってきたプライドがありますからなぁ」


 政治の話に護はため息を吐いた。

 その結果がこれでは、なんのために十三名家が力を持っているのかわかったものではないからだ。


「その点、我らは常に外に敵がおり、そして優秀なリーダーを有している。おかげでこうして次善策を講じることができた」

「とはいえ、後手後手なのも事実ですよ。いまだに敵の位置は掴めていませんからね」

「それは確かにそうですが、あなたがいる以上、ホールの安全は確保されたも同然です。被害が小さいか大きいか。これからはそういう戦いとなるでしょう」

「……生徒が攫われています。中には知り合いもいます。見捨てるわけにはいきません」


 護の目の前には、混乱する市内の映像が流れていた。

 その中に泣き叫ぶ子供の姿もある。


 信号が停まったせいで、交通機関は麻痺しており、それを解決するはずの警察も通信が遮断されているせいで効率よく動けていない。


 時間が経てば経つほど事態は深刻になる。

 それは生徒たちの身の安全も同様だった。


 カラミティの動力に魔力を完全に奪われた場合、予想されるのは魔力欠乏。

 急激に魔力を失った場合に発生する症状で、最悪の場合は死に至る。


 時間をかければそれだけ生徒の魔力は奪われる。

 魔力を奪われた生徒の命も危険に晒される。


「敵の索敵を急いでください。魔力を溜め込んでいる以上、どこで反応があるはずです」

「了解しました。けれど、もうデュランダルの索敵機能を全て使っているんですけどね」

「できる限り全力を尽くしてください」

「了解しました」


 護は小さく息を吐いた。

 敵が見つからなければ、なにもできない。


 捕まったのは美咲だけではないのは承知していたが、それでも護は美咲の身が心配だった。


 胸に湧き上がった焦りの感情を、護は押し殺して、索敵が成功すること祈った。






 ◆◇◆






 彩雲市・廃工場。

 同時刻。




 デュランダルが空から索敵を続ける中、リッツとローガンは美咲を連れて、レムリア軍の拠点である廃工場に到着していた。


 リッツは腕を折られ、ローガンも体の内も外もボロボロだった。


「くそっ! あの小僧め……!」


 痛む腕を押さえながら、リッツは攫った生徒たちのほうを見た。


 小型の魔力炉には膨大な量の魔力が充填されていた。

 それでも攫った生徒の半分程度であり、まだまだ増えるのは明らかだった。


 A級魔法師であるローガンを子ども扱いするほどの生徒が現れたことは予想外ではあったが、計画は想像以上に順調だった。


 リッツは部下に拘束されている美咲に視線を向けた。


「お前は予備だ。痛めつけてやりたい気分だが、“今”は我慢してやる」


 今、という言葉を強調するリッツを、美咲はにらみつけた。

 そんな反抗的な態度に、リッツは薄ら笑いを浮かべた。


「もうじきそんな目もできなくなるさ……。今は哀れな生徒たちを見ているんだな」


 リッツが指差した方向には、ぐったりとした生徒たちが寝かされていた。

 すぐに魔力欠乏だとわかった美咲は、叫んだ。


「そんなっ!? このまま放っておけば命に関わるわ!」

「だからどうした? 知ったことか」

「民間人を巻き込むなんて! レムリア軍には人道というものがないの!?」

「あるさ。ただ、我々はお前たちを同じ人間として扱う気はないという話だ。魔力を吸い上げたら、ここに置いていく。運よく助かろうが、運悪く命を落そうが知らんよ。部品のようなものだからな」


 美咲はリッツの言葉を聞いて、魔力炉のほうを見た。

 そこでは魔力を吸い上げる機械によって、強制的に体内の魔力を魔力炉に送り込まれる生徒たちがいた。


 その口からは苦しそうな呻き声が漏れていた。


「やめさせて! 私が代わりに!」

「言っただろう? お前は予備だ。なにかアクシデントが発生したら、喜んで使ってやるさ。それまでは大人しくしてろ。変な真似をしたら、あっちの倒れている奴等を殺す」


 そうリッツは美咲を脅すと、腕の治療のために数名の部下と共に廃工場の奥へと入っていった。


 美咲は倒れている生徒のほうを見て、目を見開いた。


 目を瞑って倒れている女子生徒に見覚えがあったからだ。

 護と話をしているのを見かけたことがあった。


 その少女以外にも、見かけたことのある生徒が多くいた。

 名前も知らない生徒も大勢いたが、それでも美咲は憤りを覚えた。


「放しなさい。逃げたりしないわ」


 美咲の手を拘束していたレムリアの兵士は、美咲の目を見て、手を離した。

 美咲が体を痛めていること知っていたからだ。


 美咲は痛む体を引きずるようにして、寝かされている生徒たちのほうに向かった。


 そして一番近くにいた生徒の傍に座ると、手を取って励まし始めた。


「大丈夫。必ず助けが来るから……気を強く持って」


 それしかできない自分に無力さを感じつつ、美咲はそれでも生徒たちを励ますことを止めなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ