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ブラック・デモン・ダウン-2-

 魔神の口から放たれた閃光は、飛行船を掠め、そのまま大気を直進する。

 掠っただけとはいえ、ものすごい衝撃が飛行船に走る。

 甲板が揺れ、思わず膝をついた。

 そして、閃光は地上にある山を一つ、消し飛ばしたのだった。


「なんだよそれ……」


 あまりの威力に、呆然とする。

 あんなもん、まともに直撃してたら、死ぬとか死なないとか、そういうレベルじゃねぇぞ。

 一瞬で消滅していただろう。

 何せ、山が抉れ、地面に大穴が空いているくらいなんだからな。


「凄い威力ですね……」

「……だね」

「とんでもない威力ね」


 しかしまあ、これで気持ちが引き締まった。

 あれは単なるうねうねしてる空飛ぶ深海魚じゃない。

 この世界を壊そうとする、魔神なんだってな。

 再びスティンガーミサイルを構える。

 照準筒で敵を視認する。

 魔神はこちらを見ている。黒い小さな瞳と、ぽっかりと開く巨大な口腔。

 またあの閃光が放たれるのではないかと戦々恐々だ。

 すぐさま飛行船は進路を変えて、魔神の正面から逃げようとする。

 奴はその巨体さが手伝ってか、そう簡単には方向転換出来ないらしい。ひとまず、奴の側面に回り込めば、攻撃出来ないだろう。


「…………」


 息を静め、スティンガーの引き金を引く。

 再び勢いよく飛び出した弾頭が、魔神目掛けて飛来する。

 魔術障壁は――無い。

 思った通りだ。先ほどの奏の攻撃で壊れたのか、あるいは魔神自身の攻撃で解除されたのか知らないが、魔術障壁が無くなっている。

 俺の放ったミサイルは、魔神の側面に直撃し爆発する。

 炎が魔神の体を焦がす。


「おし、いける!」


 思わずガッツポーズ。すぐさま再装填。

 威力は低いかもしれないが、塵も積もれば何とやらだ。

 俺と奏の砲撃が、魔神の体を抉っていく。


「先ほどの攻撃、撃ってこないですね」


 そういやそうだな。

 あんな大技連発されたら、さすがに溜まったもんじゃないが。

 それなりに溜めの動作が必要なのかもしれない。ゲームだと、大抵ああいう攻撃が来る前はカウントダウンがあるもんだが。


「まあ、あれが来る前に倒すしかねぇな」

「もう少し近づいてくれれば、僕も攻撃出来るんですが……」

「しかしこれ以上近付くのは危険じゃね?」

「ですが、虎穴に入らなければ、虎を狩る事は出来ないとも言います」


 何か俺の知ってることわざと違う。

 まあ意味は似た感じだろうけど、真正面から虎と戦うとは剛毅だな。

 そんな事を考えていると、魔神に動きが見える。

 体の表面は、俺と奏の攻撃によって、ところどころから血が噴き出ており、それなりに傷を与える事が出来た。

 しかし、それでも表面的なだけで、致命傷には程遠い。

 魔神は、そのヒレのような羽をゆっくりと広げた。

 トビウオみたいだな、なんて呑気な事を思っていた時だった。


 羽の先から光が迸る。


 光は、幾重にも枝分かれし、光弾となって、飛行船へと向かってくる。

 ってマジかよ。

 どう見ても当たったらヤバいやつだろ、これは。

 光はどんどんと分裂し、こちらに到達する頃には、百以上の光弾へと分岐していた。


「くっ、総員掴まれ!」


 ファラさんの声と同時に、飛行船に衝撃が走る。

 光の弾は、飛行船を貫いていく。

 甲板や船体に穴が空く。


「うお! こりゃやべぇぞ!」

「逃げるしかない、ですかね」

「逃げるったってよ……」


 ここは空の上だぜ。天国以外、逃げ道はねぇよ。

 しかしそんな突っ込みも空しく響く。

 アムダは瞳を閉じて詠唱を始めた。


「剣よ。我が剣よ。

 其は風の始まりにして、空の終わりを告げる椋鳥よ。

 なれば我が問いに答えよ。

 曰く、汝を掴むもの、ありやなしや。

 天の階――バック・フィリオン」


 風がアムダの周囲に渦巻き、剣の形を成す。

 美しい長剣となり、彼の右手に収まった。


「風神剣バック・フィリオンは、風を操ります。

 これで何とか、飛行船を不時着させますよ」

「でかした!」


 とぼけた顔して、やる時はやる奴だ。

 剣を構えると、突風が吹き荒れる。

 しかしその風は、俺たちを包み込み、傷付いた飛行船を安定させる。

 これで、何とか助かる、か。


「そう甘くはないようだ」

「へ?」


 おっさんの声に顔を上げると、真正面に魔神の姿があった。

 金魚みたいに口をぽっかりと開けている。

 暗いその奥から、光が洩れて見える。

 これ、やべぇんじゃねぇのか。


「ってやべぇやつだ!」

「回避! 船を回せ!」

「制御出来ません! 回避不可能です!」


 絶望的な報告が聞こえた。

 魔神の口から、光の粒子が溢れ出す。

 そして――再び閃光が放たれる。

 ああ、死んだ。

 そう確信した時、船の舳先に一人の男が立つ。

 アムダだ。

 剣を構え――


「水よ、鏡と成りて言の葉を封じよ!」


 力ある言葉に反応し、アムダの前方に巨大な水鏡が作られる。

 閃光が、その鏡に直撃する。

 まさか、あれで防げるのか!

 そう思った瞬間、鏡に罅の入る音が聞こえる。

 って防げてない!?


「うーん、これはちょっと……まずいですねぇ」


 飄々としたアムダの顔に、冷や汗がたらり。いやいや、頑張ってくれよ。

 そこに、奏がさっと現れる。


「アンフィニ! 虚数式高速展開! アムダの魔術を連続構築開始!」

『……リソースが足りないよ』

「こっちが最優先よ! 適当に削って!」

『……初期化完了したよ。概念魔術の再構築完了したよ』


 その言葉に、罅の入っていたアムダの魔法の鏡が、再び新品に戻った。

 何が起きたんだ?


「あたしの虚数魔術で、アムダの魔術を掛け直したのよ」

「もう何でもありだな、お前……」

「あら、知らなかったの?」


 まあおかげで消滅せずに済んだんだ。ここは大人しく感謝しとこう。

 作り直された水の鏡により、魔神の閃光はその勢いを失い、霧散する。

 これでひとまずは安心か。


「とりあえず、一旦飛行船を着陸させましょう。これ以上、ここで戦うのは危険です」

「賛成だ」


 仕切り直しが必要だな。

 なんて考えてると、少し離れた所にいたバシュトラが槍を取り出す。


「……ララモラ、行こう」

「はい、トラ様」


 お供のララモラが少し背伸びすると、そのままドラゴンの姿へと変容する。

 一体全体、どういう原理なんだろうか。

 服はどうなるんだ、とか。

 明らかに質量が変わってるぞ、とか。

 まあそんなどうでもいい突っ込みは無視して、バシュトラは竜に跨ると、颯爽と魔神の方へと飛び出した。


「……ってあいつ、勝手に行きやがった」

「自由人ですねぇ」

「そういう問題か?」


 基本的に、協調性のない連中の集まりであった。

 まああいつは放っておいても、勝手に何とかするだろう。

 今は自分たちの事を考えねばならない。


「ファラさん、このまま着陸は出来そうですか?」

「ああ、何とか着陸まではもっていこう」

「となると、一旦は建て直しだな」


 魔神はふよふよと周囲を漂っている。

 やはり一発撃つ毎にチャージが必要なようだ。

 その時間はおよそ5分から10分くらいか。

 まあなんにせよ、連発されないだけマシと言える。






 えっちらおっちらと、何とかボロボロの飛行船を不時着させる。

 魔神はある一定の距離を保つと、攻撃はしてこないようだ。

 地上から狙撃銃で魔神を覗くと、周囲を竜が飛び交っている。

 バシュトラだ。

 攻撃は仕掛けていないようで、その姿を観察しているよだった。


「さてと、どうすっかな」


 この位置からだと、ぎりぎりスティンガーの有効範囲か?

 構えた後、少し考える。

 もし、スティンガーミサイルが間違ってバシュトラをロックしたらどうなるんだろうか。

 一応、スティンガーミサイルにはIFFが付いているので、敵味方の区別は出来るはず。

 いやいや、だからと言って竜と魔神を識別するほど、現代兵器が進化しているとは到底思えない。


「……ま、いっか」


 気楽に考えて、早速発射。

 もしバシュトラに当たっても、多分大丈夫だ。そんな根拠のない自信で突き進む。

 ミサイルが再び白煙を吐き出しながら、空を上昇していく。

 緩く弧を描きながら、魔神のどてっぱらに突き刺さる。

 ぼん、と爆炎が広がる。ヒット。


「ここからちまちまと削っていくか」

「それで倒せるのかしらね」

「うーむ……」


 倒す前に、魔神が王都に到着しそうだ。

 しかしまあ、どうしたもんかね。

 思い悩んでいると、ファラさんがこちらに近付いて来る。


「少し面倒な事になった……」

「何かありました?」

「このまま進むと、タイニィゲートに魔神が辿り着く」

「……どっかで聞いた事あるな」


 どこだっけか。

 アムダが助け舟を出す。


「この間、二手に分かれた時、僕らが向かった先ですよ」

「ああ、そういや、お前らそんなとこに行ってたな」

「その名の通り、門みたいな要塞でしたけど……」

「まあゲート自体は問題ではない。問題は、ゲートを越えられるという意味合いだな」

「よく分からんが……」


 俺たちは顔を見合わせる。

 ゲートが一体どうしたというのか。


「タイニィゲートが造られたのは、今からおよそ百年ほど前。

 中央教会が行った亜人狩りによって引き起こされた戦乱の際に建造された。

 当時の亜人の侵攻を止めた要塞門だ。

 我々にとっては、勝利の象徴でもある。

 その頭上を易々と越えられるという事は、先人に申し訳が立たん。

 ……とまあ、貴族議会のお歴々はそう仰っておられる」


 ファラさんは肩をすくめる。やれやれ、と言いたげな表情だ。

 彼女もまあ貴族らしいが、板挟みみたいな役どころなのだろう。


「後はまあ、要塞の頭上を抜かれるのは、我が国の防衛上の問題でもある。

 何としてでも、ゲートで止めろと、先ほど連絡があったよ」

「そんな無茶な」

「無茶でも何でも、やるしかないのが下っ端の辛いところだ。

 とりあえず馬を用意させた。

 それでタイニィゲートまで先行しよう」


 彼女の言葉に、一同は頷いた。

 まったく、厄介な話ばっかりだ。

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