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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第六章 王都セントラル編
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86話 エレノアの追跡 - 真実を繋ぐ記憶の書庫

✪読んでくださり、ありがとうございます。

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地下書庫の空気は冷たく、ひんやりとした石の壁が、長年積もった秘密の重みに沈黙していた。


「……この辺りだ。リリアの記録があるとすれば」


カイルが灯した魔法の灯が、薄暗い書架を照らす。埃にまみれた記録簿をめくるエレノアの手が止まる。


「――あった。リリア・ロウレンツ。一家全員、事故死。出火元は寝室。原因不明」


彼女の声が揺れる。


「……でも、こんな小さな一文だけ。火事で“全員死亡”。それだけで済まされていたの?」


エレノアの脳裏に、金髪で快活に笑っていた少女の姿がよみがえる。リリア。彼女はエレノアの幼い頃の友人だった。アルトリア王国の中庭で、母・エレナの研究の合間に遊び合った少女――商家の娘で、気さくで明るく、温かい家族に囲まれていた。


なのに――なぜ。


カイルが一枚、別の報告書を差し出す。


「こっちは“事故現場に第三者の侵入痕跡あり”とある。王宮の調査記録だ。公には伏せられていたようだな」


エレノアはその文を食い入るように見つめる。


「やっぱり……リリアの家族も、私の両親と同じ……」


喉の奥が詰まりそうになる。父セオドアと母エレナもまた、事故とされていた。だが、あの日――王立魔法塔の一角が爆発し、両親は命を落としたあの現場にも、確かに“外部からの侵入の形跡”があったという記録が残っていた。


思い出すのは、エレノアがまだ幼かった頃。


両親を亡くし、絶望の中にいた彼女の手を取ってくれたのが、父の友人だったオーウェン・アルバート――アリアの父だった。


彼は優しく、寡黙で、だが確かな強さと知識を持つ男だった。古代魔法の共同研究に関わる中で、彼女を保護し、まるで本当の父親のように接してくれた。あの穏やかな数年こそが、エレノアにとって心の支えだった。


だが、その幸せは長くは続かなかった。


「……“君を、これ以上巻き込むわけにはいかない”」


別れの日、オーウェンはそう言った。何かを察したのだ。古代魔法研究が、単なる学術ではなく、何か大きな陰謀に利用されようとしていることを――


エレノアを抱きしめ、ウィステリア王国の女官長に託したオーウェンの手は、わずかに震えていた。


「きっと、また会えるから」


その言葉は、二度と叶うことはなかった。


彼もまた、後に“事故”で亡くなったと知らされた。けれど、遺された記録に残っていたのは、彼の研究室の破壊と、“外部からの侵入痕跡”という共通点だった。


「父も母も、オーウェンさんも……そしてリリアの家族も。皆、同じように“消された”」


エレノアは震える声でつぶやく。目の奥が熱くなる。


「古代魔法の研究に関わる者は、誰であろうと“邪魔”だった……。そういうことね」


その怒りと哀しみが、魔力となって内から湧き上がる。


「……私は、絶対に許さない」


その時、書庫の奥から物音がした。


カイルが即座に剣に手をかける。


「……来たか」


影のように現れた数人の兵士。黒い装束に身を包み、王宮兵とは異なる紋章を身につけている。


「ここは立ち入り禁止区域です。すみやかに立ち去っていただきましょうか」


エレノアは魔力を込めた杖を構える。


「“事故”の真相を闇に葬るために来たのなら、あなたたちは遅かった。私はもうすべてを知った」


彼女の声に、迷いはない。


カイルは静かに腰の剣を抜いた。その刃は魔力を帯び、淡く青い光を帯びる。


「お前たち、どこの所属だ? ここは王宮直属の魔術師しか入れぬ場のはずだが」


返答はない。黒装束の一人が短く笛を吹いた。途端に、さらに数名の刺客が影から姿を現す。


「……なるほど。答えるつもりもないってことね」


エレノアが杖を構えた瞬間、魔法陣が床に浮かび上がる。彼女の足元から迸る光は、複数の防御と探知の結界を展開した。


「カイル、副団長。背中を預けてもいいかしら」


「当然だ、団長殿」


彼の声には僅かな皮肉がにじむ。だが、呼吸は完全に戦闘に集中していた。


最初の一人が飛びかかる。だが、結界に阻まれ、跳ね返された刃が空を切る。


すかさずカイルが間合いを詰める。鋭い剣閃が、相手の肩を切り裂いた。悲鳴が響く。


その間にもエレノアは呪文を紡ぐ。


「《重結界・水牢》」


黒装束の一人の足元に水が湧き出し、瞬く間に球状の水塊となって包み込んだ。呼吸を奪われ、もがく姿に、仲間たちが動揺する。


「私の魔法は逃げる者を見逃さない」


エレノアの眼差しは冷たい。


刺客たちは形勢の不利を悟ったのか、一人、また一人と撤退を始める。


だが、最後に残った男が、書架の一角に手をかけた――


「書類を燃やす気……っ!」


瞬間、カイルが駆けた。剣で男の腕を弾き飛ばす。


「これ以上、口封じをさせるか!」


倒れた男の胸元から転がり落ちた紋章――それは、エレノアが幼い頃、王国魔術院の一角で見た記憶と一致していた。


「この紋……やはり、王国の内部に“消す者”がいた……!」


エレノアは拳を握りしめる。カイルが肩を貸すように立ち上がった。


「行こう。今はここを離れるべきだ」


「ええ、でも私はもう迷わない」


魔力を押さえ、杖を静かに下ろす。


「これは、私の両親だけの話じゃない。オーウェンさんも、リリアも……王国に潜む“闇”を暴くために、私はここまで来たんだ」


カイルは無言でうなずいた。


地下書庫の扉が閉まる。そこに残された古びた記録と血の跡は、長い年月を経てもなお、真実を求める者の歩みを止めることはできなかった。


――そして、エレノアの覚悟は、静かにその名を告げる。


「これは、戦いだ」



ーーー87話へつづく

※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

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