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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第六章 王都セントラル編
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84話 光と剣の継承者たち ― 騎士の誓い、聖女の決意

✪読んでくださり、ありがとうございます。

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王宮の中庭には、幾つもの戦いの痕跡が刻まれていた。砕けた石畳、折れた槍、焦げた魔法の焼け跡――そのどれもが、ここに至るまでの人々の覚悟を物語っている。


「ルシウス、南の塔は制圧完了。ただ、西棟の一部にまだ動きがある。敵が潜んでいるかもしれない」


血に染まった肩を軽く押さえながら、ユリウスが駆け込む。ルシウスは小さく頷き、剣の柄に手を置いたまま冷静に指示を出した。


「援護を回せ。俺たちはこのまま中庭を抜けて、王座の間へ向かう」


交わる兄弟の視線。言葉にせずとも、通じ合うものがある。


「俺たちの父の名誉は、俺たちが取り戻す」

「そして……アリアの道を、俺たちで切り開くんだ」


ユリウスが口元を綻ばせ、ルシウスは深く頷いた。その背後で、仲間の騎士たちが整列し、王宮の奥へと再び駆け出していく。



その頃、地下の隠された通路の奥。ひんやりとした石壁に囲まれ、アリアはイリスを抱きかかえながら小さく息を整えていた。


怖くないわけじゃない。でも、それ以上に、もう逃げたくなかった。


「……私は、大丈夫よ。怖くても、立ち止まらないって決めたから」


アリアの言葉に応えるように、イリスが「ぽよん」と跳ねる。そして荷の中から、器用にひとつの小袋を引き出した。


「それ……」


アリアが袋を開くと、淡いピンク色に輝く魔石が顔をのぞかせた。母――ユリが遺したものだ。


その瞬間、アリアの胸に、幼いころの記憶がよみがえる。


夜、静かな祈りの時間。母の手にその魔石が握られていたこと。何度も、光に向かって語りかけていたこと。


「どうして今……?」


イリスが魔石にそっと触れる。ぽよんと跳ね、包み込むように体を寄せる。次の瞬間、ふわりと光があふれ出した。


その光の中から、まるで幻のように、映像が浮かび上がる。


若き日の母・ユリ。そして、その前に立つひとりの女性――聖女サクラ。静かで、強く、優しい目。その姿はどこか、今のアリアと重なって見えた。


言葉にはならないが、確かに伝わってくる想いがある。


『継ぐ者は、命じられる者ではなく、自ら選び取る者でなければならぬ――』


アリアは息を呑んだ。


母は、ただ自分に何かを押し付けたかったわけではなかった。彼女が求めていたのは、「私がどうしたいか」――それを問い続けてくれる母だった。


「……私が、選ぶ」


そのとき、光が静かに収まり、イリスがぽよんと跳ねて、もう一度小袋の中をつつく。アリアが覗き込むと、そこには小さな指輪がひとつ、入っていた。


「……これ、は……?」


アリアはそっと指輪を取り出した。金と銀が織り交ざったような不思議な色合いの細工。その表面には、四つの花が刻まれていた。


菊、桜、百合、そして……葵。


アリアは息を呑む。


「……菊は、初代の聖女・キク様。桜は、二代目の聖女・サクラ様。そして、百合は……お母様」


そっと指先で百合の模様をなぞりながら、胸に温かな想いがこみ上げてくる。


だが、四つめの花――葵だけは、少し違っていた。


(……葵?)


なぜか、その花にだけ、不思議な懐かしさがあった。今のアリアの名前ではないはずなのに、どこかで確かに、それは自分の名だったような気がする。


(なんで……?)


理由はわからない。ただ、心の奥の奥で、それが自分に繋がる何かであることだけは、強く感じられた。


まるでこの指輪が、聖女たちの血を越え、魂の記憶まで受け継いでいるかのように。


「最初から……私に届くように、作られていたの……?」


奇跡か、運命か、それとも、えにしか。


アリアはそのすべてを抱きしめるように、指輪をそっと指にはめた。


指輪は驚くほど自然に、アリアの指にぴたりとおさまった。


それは、「聖女を継ぐ者」だけが身に着けることを許される印。まるで、初めから彼女の帰りを待っていたように――。


「……継ぐ、よ。私の意志で」


その瞬間、指輪が淡く光り出し、アリアの体をふわりと包み込む。髪に、瞳に、呼吸のひとつひとつに、あたたかい力が宿る。


アリアは静かに立ち上がった。その背筋には、もはや迷いの影はない。



再び地上に戻ったアリアの姿に、マコトが目を見張った。


「……随分と、顔つきが変わったな」


「はい。覚悟を決めました。私は……もう逃げません。自分で選んだ、この道を生きます」


アリアは、師であるマコトにまっすぐに向き合って答えた。


マコトは静かに頷き、微笑を浮かべる。


「……それでこそ、俺の弟子だ」


その隣で、エリオットが長杖を肩に担ぎながら言う。


「なら、俺たちは支える側に徹するだけだな。アリア、お前が選んだ未来を信じてる」


アリアは小さく、でも確かに頷いた。


その瞬間、廊下の奥から足音が駆けてくる。


「アリア! マコト先生!」


ユリウスだった。彼の後ろにはルシウスの姿もある。二人とも戦装束のまま、眉間に緊張の影を刻んでいた。


「どうしたの?」


「敵の一部が地下回廊へ逃げ込みました。……父を陥れた元重臣の一人、その部下がそこに潜伏しているという情報もあります」


「ルシウスと俺は、これからその区域を制圧に向かう。ここから先は、我々兄弟の務めだ」


そう言ったルシウスの目は鋭く、けれど決して怒りに呑まれてはいなかった。


アリアはその背中を見つめる。過去に囚われるのではなく、過去と向き合う強さ。ヴィクトルの息子たちは、確かにその意志を受け継いでいた。


「……どうか、無事で」


その祈りに、ルシウスも小さくうなずいた。


マコトは、アリアの肩に手を置く。


「俺たちも行こう。聖女として、アリアが立つべき場所へ」


アリアはうなずき、指輪をそっと撫でた。


──この手の中に、託された想いがある。

過去を生きた花々が刻まれた、たったひとつの証。

そしてそれは、これから未来を選び取る“私”の覚悟でもある。


戦いの音が、再び遠くから響く。


――王座の間は、もうすぐそこだ。


アリアの目には、もう迷いはない。彼女の指には、四つの花を刻んだ指輪が、静かに輝いていた。




ーーー85話へつづく


※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

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