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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第六章 王都セントラル編
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81話-後編- 決戦前夜 - 誰かを想う夜

✪読んでくださり、ありがとうございます。

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サクラの祈りを継いだアリアとユリが静かに抱き合っていたその頃、王宮の各所では、仲間たちがそれぞれの持ち場で夜を迎えていた。




静まり返った王都の片隅で、グレゴールは教会の軒先に立っていた。


「……こんな時間に、何をしてるのかって?」


月明かりの下、手にした籠には焼き菓子や果物、子どもたちが喜びそうな甘いおやつが詰められている。


「祈りに来たわけじゃないよ。ただ……甥っ子や姪っ子たちが、命を懸けて明日を迎えようとしてる夜だ。何もせずにいられる性分じゃない」


冗談めかしながらも、彼の声はどこか深く真剣だった。


「ここにはな、昔……オーウェン兄貴と来たことがあるんだ。ウィステリアを離れる前のことだ。何も語らなかったけど、あの兄貴が“何か”を抱えていた夜だった。……静かな場所で、ただ隣にいた。それだけの時間だったけどな」


教会の灯に照らされて、彼の目元に一瞬影が差す。


「子どもたちに配ろうと思って作ったんだけど、ちょっと作りすぎちまってな。……よかったら、あんたもどうだ?」


差し出された籠には、素朴な甘さと、彼なりの“祈り”が詰まっていた。




王都の夜は、決戦を前に張りつめた空気に包まれていた。

けれど、屋敷の奥の小部屋だけは、どこか柔らかな気配に満ちていた。


ろうそくの灯りのもと、マーガレット夫人は一通の古びた手紙を広げる。

かつて、ユリから密かに託されたものだった。


「アリアが、自分の足で歩き出せる日が来ますように。

どんなに遠回りでも、自分の意志で未来を選べる子であってほしい」


読み返すたびに胸が熱くなる。

ユリは聖女として立つはずだった。自分はその傍らに仕えるつもりだった。

だがユリは姿を消し、ヴィクトルは陰謀により命を落とした。


「……私には、何もできなかったわね。あの頃も、今も」


ろうそくの炎が揺れ、その光に重なるように、微かな声が心に届く。


『マーガレット。あの子には、まだあなたが必要よ』


ユリの幻影に似たその声に、夫人は目を伏せた。


「そうね……今度こそ見届けなければ。

あの子は“聖女の血”ではなく、自分自身の力で未来を変えようとしているのだから」


窓の外、雲の切れ間に浮かぶ月が夜を照らしていた。

それは、静けさに宿る、ひとつの祈りだった。




――そして、王宮の屋上。


マコトは夜風に髪をなびかせ、静かに城下を見下ろしていた。


「……弟子たちは、よくここまで来たな」


目に浮かぶのは、アリアやエリオット。エレノアとカイル、そして一時的に指導した騎士ルシウス・ユリウス兄弟や魔術師たちの姿。誰もが、かつて未熟で、だが光を内に宿していた。


(あの頃の彼女に教えた護身術。まさか、またこうして会うことになるとはな……)


アリアの前々世――ベリタスという名の宮廷護衛術師だったマコトの魂は、記憶の奥で静かに疼いていた。


「ベリタス……か。あの頃の自分が、今のお前を見たら……笑うかな。泣くかな」


手のひらに残る微かな魔力の痕。それは、かつてすべてを託し、捨てた証だった。


(あの時の彼女は、占いができなくなった自分を責めていた。けれど、今のアリアは、ちゃんと“祈り”を繋いでる)


それだけで、充分だった。


「……俺は、何も語らなくていい。彼女には、彼女の未来がある。お前が、お前のやり方で祈るのなら――それが、あの時の“答え”になるから」


彼は空を見上げた。かつて、平和を背負った青年は、今はただ一人の師として、教え子たちの明日を祈っている。


その背に、月の光が静かに降り注いでいた。




エリオットは、王宮の一角にある静かな廊下を歩いていた。ミアを失ってから、ずっと心に引っかかっている問いがある。


なぜ、あの時ミアは突然逝ってしまったのか――。


アリアとともに訪れたミストラル村で、彼はミアの魂と再会した。復讐ではなく、魂の安寧を願った妹の想いに触れ、数日間悩み葛藤した末、彼女の願いを叶える決意をした。浄化の儀式でミアをはじめとする村に残る魂を解き放ったあの日から、彼の中の怒りは静まり、今はただ“真実”だけを求めていた。


「……ミア。明日、すべての答えを見つけてくるよ」


エリオットはそうつぶやき、夜空を見上げた。




王宮の中庭では、ルシウスとユリウスが向かい合っていた。


「……ここでこうして話すのも、久しぶりだな」


ユリウスの声は穏やかだった。かつて古代の怨念に囚われ、苦しみの中で幼少期を過ごした彼。その魂を救ったのはアリアだった。だからこそ、彼女への恩は深い。


「おまえを救えなかったことが、ずっと引っかかっていた。……あの頃の俺は、ただ祈ることしかできなかった」


兄であるルシウスの声はわずかに震えていた。


「でも、もう大丈夫。俺は、もう自分の足で立ってる。兄さんがくれた時間と、アリアの光があったから」


ルシウスはそっとユリウスの肩に手を置く。


「明日が終わったら……ちゃんと、過去とも決別しよう」


「うん。俺も……ようやく、未来を見ていい気がするんだ」




レオンは書斎に一人でいた。机の上には、エマの筆跡で書かれた小さな手紙。


『無事に帰ってきてください。あなたが信じる人たちと一緒に』


アリアは恩人だ。エマとのことや両親のことを相談しに行ったあの日から、レオンの中で彼女は“守るべき仲間”となった。エマとはうまくいっている。だからこそ、迷いはない。


「これは、恩返しでもある。俺が俺であるために、選んだ道だ」


彼はそっと手紙を懐にしまう。




エレノアは、カイルとともに王宮内の小部屋で、明朝の動きについて協力者と情報をすり合わせていた。


「この時間帯にこのルートを押さえてもらえれば、陽動が成功するはずです」


「了解。無理はするなよ」


カイルは真剣な顔で資料に目を通していたが、ふと顔を上げる。


「……君がいると、不思議と安心する」


エレノアは驚いたように目を見開き、そしてふっと微笑んだ。


「私も。あなたと並んで立てるのが、今は誇りよ」


明日が来れば、戦いが始まる。だが今はただ、お互いの存在を確かめるように、言葉を交わした。




それぞれの想いが、静かに王宮の夜に溶けていく。


灯りの消えた廊下、風に揺れるカーテン、遠くで聞こえる鐘の音。


この夜が明けた時、彼らの物語は新たな章へと進む。


決戦前夜。誰かを想う夜。



ーーー82話へつづく

※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

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