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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第六章 王都セントラル編
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81話-前編- 決戦前夜 - 光を繋ぐ者たち

✪読んでくださり、ありがとうございます。

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静まり返った王宮の奥。

アリアとイリスは、かつて聖女サクラが一時的に滞在していたという部屋に足を踏み入れていた。


深く呼吸をすれば、わずかに残る花の香と、清らかな祈りの気配が胸にしみわたる。


古びた棚の奥に、埃をかぶった銀の小箱があった。蓋には褪せた桜の紋様。


アリアが手を伸ばそうとすると、先にイリスが「ぽよん」と跳ねて前へ出る。虹色の体をゆるやかに震わせ、そっとその小箱に触れた。


「……イリス、時間を戻せるの?」


返事の代わりに、小さな光の粒がイリスからこぼれる。

次の瞬間、小箱はきらりと光を放ち、みるみるうちに本来の輝きを取り戻した。


音もなく蓋が開き、中には古くなったままのブローチが一つ。


だが、それもまた光に包まれて修復され、輝く宝石と金属が繋がりを取り戻すと、室内に淡い光が広がっていく。




その光の中から、映像が浮かび上がった。


そこにいたのは、祈りを捧げるサクラの姿だった。


静かな部屋の中央。祈りの結界の中、膝をついて両手を組む一人の女性。


聖女サクラ。


その祈りは、ただ何かを願うのではなく、自らを削り、周囲に力を分け与えるような、献身の光。


『どうかこの国が、誰かの痛みに気づける場所であり続けますように…』


その声は、どこか切なさを含みながらも、優しく、あたたかく響いた。


『どうか、娘が生きていける世界を…』


その言葉に、アリアは息を呑む。


『あの子が、聖女という名に縛られず、生きたいように生きられるように』


やがて、映像が揺れ、視点が移る。


そこにいたのは、まだ十代の少女だった頃のユリ。


若く、真っ直ぐな瞳。

聖女見習いとしての衣をまとい、どこか誇りと緊張が混じった顔つきで、母の背を見つめていた。


(私は、母のように…聖女になる)


そう強く信じていたユリ。


だがその背は、あまりにも遠かった。


(母は、私に何も話してくれない)


(私を…守っているの? それとも…?)


ユリの中にある葛藤、不安、そして母への憧れと怒りがないまぜになったまま、時間は進んでいく。




ある日、サクラが優しく語りかける。


『ユリ。あなたにはあなたの道がある。無理に私の跡を継がなくていい』


『でも、私は…』


『あなたが誰かを救いたいと願う心は、本物。だからこそ、あなたは自由でいて』


その言葉に、ユリは戸惑い、そして目を伏せた。


(自由って、何…?)




やがて、映像が静かに薄れていく。


光が消えると、アリアはしばらく言葉を失っていた。



そっと顔を上げた先には、物陰に佇む母、ユリの姿があった。


「……母さん?」


ユリはそっと目を伏せ、小さく微笑んだ。


「……あの時の私は、聖女になる以外の生き方を知らなかったの。母がどんな想いで、私に自由を託したのかも、わかってなかった」


アリアがゆっくり歩み寄る。


「でも、今ならわかる。母さんが守ろうとしたもの。サクラが祈ったもの。それが、私たちに繋がってるって」


ユリの目元に、ひとしずくの涙が光る。


「ありがとう、アリア…あなたが、この祈りを繋いでくれた」


アリアはそっと微笑み、母の手を握った。


「ううん。きっと、私だけじゃないよ。……この夜に、誰かを想っている人が、他にもいるはずだから」


そう言って、アリアは静かに瞼を閉じた。


外では月が高く昇り、深まる夜が王都を優しく包んでいた。




ーーー80話後編へ続く


※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

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