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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第六章 王都セントラル編
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74話 市井の声 - 思いがけない協力者たち

朝日がリリアの邸宅を優しく照らす中、アリアは再びその門前に立っていた。リリアの魂を見送った翌朝、悲しみに暮れながらも亡きリリアを偲び、祈りを捧げていた人々の姿が、彼女の目に焼き付いている。彼らの顔には、深い悲しみと共に、確かに温かい記憶が宿っていた。アリアはそっと近づき、一人ひとりに丁寧に声をかけた。


「皆さま、先日はお心を痛めていらっしゃるところ、お邪魔して申し訳ありませんでした。今日、こうして再びお話しさせていただきたく参りましたのは、どうしても、リリア様とご家族のために、真実を見つけたいと強く願っているからです。」


最初は戸惑っていた人々も、アリアの真剣な眼差しと、飾らない言葉に少しずつ心を開き始めた。彼らは皆、リリア一家の優しさを身をもって知っていた。困った時に手を差し伸べてくれたこと、分け隔てなく温かい言葉をかけてくれたこと。その一つ一つの思い出が、今も彼らの胸の中で温かく灯っている。


「あのお方は、本当に優しいお方でした。」

「奥様も、いつも笑顔で私たちに声をかけてくださった。」

「坊っちゃまも、私たち子供にも分け隔てなく遊んでくれた。」


語られる言葉は、どれも温かく、リリア一家の人となりをありありと伝えてくる。そして、アリアが事件について慎重に尋ねると、彼らは記憶の糸をたぐり寄せ、事件当日の異変や、耳にした噂などをぽつりぽつりと語り始めた。


「あの日の朝は、いつもより静かだったような気がします。」

「邸のあたりで、見慣れない男たちが何人かうろうろしていたのを見ました。」

「事件の少し後だったか、王宮の紋が入った立派な馬車が、慌ただしく邸を出ていくのを見たという人もいましたよ。」


証言は断片的で、確たる証拠とは言えないかもしれない。それでも、アリアにとってはかけがえのない手がかりだった。人々の記憶の断片を繋ぎ合わせることで、見えなかった何かが少しずつその姿を現し始めるような気がした。彼らの言葉には、リリア一家への深い信頼と、事件に対するかすかな疑問や不安が滲んでいた。その想いが、アリアの心を強く揺さぶる。


数日後、アリアは王都の喧騒から少し離れた、人通りの少ない場所で再び占い処を開いていた。以前とは違い、華やかな装飾は何もない。ただ、静かに揺れるランプの光と、アリアの優しい微笑みだけがそこにあった。それでも、彼女の“澄みきった”癒しの力は、噂を聞きつけた人々を少しずつ引き寄せていた。


「あなたの瞳を見ると、心が安らぐようです。」

「何か、不思議な力をお持ちなのですね。」


占いを終えた人々は、感謝の言葉と共に、慎重に口を開き始めた。


「実は最近、王都で奇妙な出来事がいくつか噂になっているのです。」

「気になる人物がいるのですが…」


彼らは皆、何かを言いたげでありながら、言葉を選ぶように慎重だった。アリアは、そんな彼らの不安な気持ちに寄り添いながら、一つ一つの言葉に注意深く耳を傾けた。


「夜中に、誰もいないはずの場所から奇妙な音が聞こえるという話があります。」 「突然、姿を消した使用人がいるらしいのです。」

「最近、野心的な若い貴族が、不審な動きをしているという噂も…」


彼らが語る街の噂のような話は、一見すると事件とは関係がないように思えた。しかし、アリアはそれらの断片的な情報の中に、何か共通する冷たい影を感じ取っていた。それは、リリアの事件を覆う暗雲と、どこかで繋がっているのかもしれない。


一方、エリオットはいつものように、王都の賑やかな商業通りに足を運んでいた。彼の目的は、アリアの占い処の常連客である商人や職人たちに、さりげなく話を聞き出すことだった。彼らは日々王都の様々な情報に触れており、街の噂にも敏感だ。


「やあ、いつものお茶を。」

「今日は、何か珍しいものでも入りましたか?」


親しげな笑顔で彼らに話しかけ、世間話に花を咲かせながら、エリオットは慎重に本題に触れていく。


「最近、何か変わったことはありませんでしたか?妙な噂とか、何か気になることでも…」


商人たちは、最初は警戒した様子を見せたものの、エリオットの穏やかな態度と、親しげな人柄に少しずつ心を開き始めた。


「そういえば、最近、貴族様たちの間で、なにやら不穏な動きがあるようですよ。」 「王宮の中で、何か揉め事があるという噂も聞きました。」


職人たちも、日々の仕事の中で耳にする妙な話を慎重に語り始めた。


「最近、野心的な若い貴族が、急に力をつけてきたらしい。」

「古い貴族たちの間では、そのことを快く思っていない者もいるようだ。」


彼らが語る言葉は、どれも噂の域を出ないものばかりだった。しかし、それらの断片的な情報を繋ぎ合わせていくうちに、エリオットの心の中に、徐々に冷たい予感が広がっていった。最近頭角を現した若い貴族、王宮内の不協和音、そして市井の人々が語る妙な出来事。それらはまるで、複雑に絡み合った糸のように、一つの大きな陰謀の輪郭を少しずつ形作り始めているようだった。


アリアとエリオットは、それぞれ異なる場所で、人々の声に耳を傾けていた。彼らの耳に届くのは、公式な記録には決して残らない、市井の人々の生の声。それは、時に曖昧で、時に矛盾しているかもしれない。それでも、その一つ一つには、真実の断片が隠されているはずだ。


二人が集めた、一見すると無関係な情報の点と点が、少しずつ線で結ばれ始める。リリアの事件の背後に隠された真実は、いまだに濃い霧の中に包まれている。しかし、人々の温かい想いと、ささやかな証言が、その霧を少しずつ晴らし始めている。思いがけない協力者たちの声は、微力ながらも確かに、真実へと繋がる光を灯し始めていた。アリアとエリオットは、その光を頼りに、困難な道のりを前へと進んでいく。



74話:終わり

※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。


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✪読んでくださり、ありがとうございます。

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